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「ムーアの法則」を超えた進化この10年で起こったこと、次の10年で起こること(4)(2/3 ページ)

» 2016年04月26日 11時30分 公開

まるでCPUのパイプラインのように

 あるプロセステクノロジーで製品を開発しても、ほぼ2年に1回、プロセステクノロジーが微細化/進化してしまうのでその製品の仕様は、すぐに陳腐化してしまう。そのために大手デバイスメーカーは、一気に歩留まりの高いプロセステクノロジーで製品を立ち上げるとともに、その次の製品開発を並行して着手する。まるでCPUのパイプラインのように、45nmの製品立ち上げを行うチームの横で、28nm製品の設計を進めるチームがあり、さらに次の世代の評価選定を行うチームも――という具合に常時複数のプロジェクトが動いている。

 プロセステクノロジーの微細化/進化によって、同じチップサイズにほぼ2倍の回路を搭載することができるようになるので、搭載するCPUコア数や、GPUのグレード、キャッシュメモリ容量などを決めるチップ仕様に関しても十分な調査、検討が日々繰り返される。そんな開発現場には、過去の90nm製品などの問い合わせもユーザーから舞い込んでくる。多くのテクノロジーをへたメーカーはパイプラインの深いプロセッサだと捉えればよい。

かさむ開発費……

 プロセッサのような大規模でかつ、ハード、ソフト、開発環境などを整備しないと使えないものを開発するには、数十億円から数百億円という途方もない費用が必要になる。5世代のプロセステクノロジーをきっちり開発すれば、各世代100億円としても、500億円が必要になる。世代が微細化されると開発費用は、ほぼ1.67倍になるという説もあるので、この説に従えば、5世代で数千億円の開発費が必要になるわけだ。設計したものを検証する項目も世代ごとに増加し、検証に必要なツールも高度なものが必要になっている。

Spreadtrumは“ワープ”

 図1は中国で急成長し、今や通信用のベースバンド・プロセッサでは世界トップ5に入るSpreadtrumの2010年の発表資料である。

図1:Spreadtrumの世界初40nmベースバンドプロセッサ(左)と「SC9860」(右)

 各社が各世代をほぼ全て経験し、ムーアの法則を刻んで来たのに対して、130nmから一気に40nmにスキップし「2年の遅れなど一夜で追い付ける」と発表した時の図面である。他社が65nm、45nmとステップを踏みながら、何百億円も開発費を投じてきたルートを通らず、2つのステップを飛び越える、いわゆる“ワープ”を行い、モデムチップとしての地位をアピールしたのだった。

 このSpreadtrumの“2世代ワープ”は、意気込みだけで終わったわけではない。Spreadtrumの40nmベースバンド・プロセッサは図2に掲載するようなミドルエンドクラスのスマートフォンのプラットフォームとして広く採用されている。インドのトップメーカーMicroMAXや日本でも若者世代を中心に売れているFreetel、さらにはインドネシアなど世界各地で採用されている。

図2:Spreadtrumのチップが採用されるスマホ

 いま一度、図1を見てもらいたい。図1の右は2016年2月にバルセロナで開催されたイベント「Mobile World Congress 2016」(MWC2016)で、Spreadtrumが発表した次世代チップ「SC9860」である。最新の64ビットCPUを8基と、300Mビット/秒のLTE Cat.7モデムを1チップ化したものである。製造は低消費電力に特化したTSMCの新16nmプロセスである「16nm FFC」と発表されている。

 Spreadtrumは、ここでも“2世代ワープ”を行ったのだ。32/28nm世代、22/20nm世代を踏まず飛び越えた。Spreadtrumは、130nm→40nm→16nmの開発サイクルで世界市場の中で十分な価値を提供できているのだ。その開発サイクルをプロセッサに例えるならば、段数の浅いパイプライン構造といえる。

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