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特集:IoTがもたらす製造業の革新〜進化する製品、サービス、工場のかたち〜

1cm角の全固体リチウムイオン電池、IoT向けに発進実用化が現実的に(1/2 ページ)

英国のIlika Technologiesが、1×1cmと超小型の全固体薄膜リチウムイオン電池を発表した。容量は250μAhで、環境発電技術と組み合わせて、まずはIoT(モノのインターネット)機器をターゲットとする。

» 2016年05月18日 11時30分 公開
[村尾麻悠子EE Times Japan]
6インチウエハーに形成された全固体薄膜リチウムイオン電池「Stereax(ステリアックス)」。赤枠で囲んだような1つ1つがStereaxである(クリックで拡大)

 Ilika Technologies(以下、イリカ)は2016年4月27日(英国時間)、外形寸法が1×1cmで厚さが1mm以下の全固体薄膜リチウムイオン電池「Stereax(ステリアックス)」を発表した。容量は250μAhで電圧は約4.0V以下。動作温度の上限は100℃。同じ容量のリチウムイオン電池に比べて体積は半分で、充電速度は約6倍だという。1万回の繰り返し充放電が可能で、電池寿命は従来のリチウムイオン電池の4倍以上となる約10年とする。イリカは、ドイツ・ベルリンで開催された「IDTechEx Conference」(2016年4月27〜28日)においてStereaxのデモを披露した。

 イリカは、Stereaxの製造技術をIP(Intellectual Property)として機器メーカー(OEM)に提供する。1cm角というサイズを生かし、まずはウェアラブル機器をはじめ、IoT機器をターゲットとする。イリカでCSO(Chief Sales Officer)を務めるBrian Hayden氏によると、量産の規模にもよるが想定単価は1米ドル以下だという。

 イリカのCEOであるGraeme Purdy氏は「何十億個ものセンサーが使われる時代を迎えれば、センサーの電池にかかるコストも膨大になる。Stereaxのように充放電サイクルが1万回あれば、電池よりもセンサーの方が先に寿命を迎えることになるだろう。つまり、“fit and forget(=電池の交換は不要)"なIoT機器を実現できる」と語る。

 さらにStereaxはCMOS互換性を備えているため、例えばプロセッサの上にStereaxを統合するといったことが可能だという。

 イリカは2004年5月に設立された企業で、従業員は約30人。企業からの委託研究開発や共同開発、自動車や航空機および電子部品向けの材料開発などを手掛けている。ロールスロイスやトヨタ自動車などと長年にわたり共同研究開発も行っている。

開発の要となった独自の薄膜生成装置

 全固体リチウムイオン電池は、安全性とエネルギー密度が高いことから、現在普及しているリチウムイオン電池を置き換える目的で開発が進んでいる。だが、電極と電解質の界面における抵抗が大きい、イオン伝導性が高い電解質を見つけることが難しい、製造自体が難しいといった課題を抱えていて、実用化がなかなか進まずにいる。

 イリカは、同社が開発した「HT-PVD(High Throughput Physical Vapor Deposition:ハイスループット物理蒸着)装置」を使って、Stereaxを開発した。HT-PVDは、もともと同社が新しい素材を開発するために開発された装置だ。最大6つの元素を同時に蒸着でき、これによって合成された薄膜の物性をスクリーニングして、新しい素材を開発していく。イリカでビジネス開発ディレクターを務める鈴木英一氏は、HT-PVDは純粋な元素を蒸着できることが特長だという。一般的に薄膜を作成する場合、酸化物やアロイ(合金)などにしてから蒸着させるのが一般的だが、HT-PVDではその場(=装置内)で酸化物を作ることができる。これが、薄膜の作成を高速化し、結果的には新素材の研究開発のスピードも上げている。

HT-PVDの外観元素を蒸着して薄膜を作成するイメージ 左=HT-PVDの外観/右=元素を蒸着して薄膜を作成するイメージ(クリックで拡大) 出典:イリカ
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