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医療IoT機器、なぜ開発時にシミュレーションが欠かせないのか

2020年には200億台にまで増えると予想されている医療IoT機器。人体に直接接する電子機器であるため、形状の工夫はもちろん、軽量化や熱設計、電磁放射などを十分考慮する必要がある。満たさなければならない要件が複雑に絡み合っているため、人体に装着して試作・テストを繰り返す手法では、開発効率が悪い。設計手法としてエンジニアリングシミュレーションを導入すると、どのような効果が得られるのだろうか。

» 2016年06月30日 10時00分 公開
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医療の課題解決を支援する

 モノのインターネット(IoT)は、無線接続と高いセンシング能力を組み合わせることによって、医療業界に変革をもたらしつつあります。これは医療の改善に役立ちます。なぜなら、世界各地で高齢化が進み、慢性疾患が増えているためです。医療制度を維持することが難しくなるほど必要な費用が高騰し、疾病の早期発見がより重要になってきました。

 脈拍や血圧などのバイタルパラメータを継続して監視し、異常を担当医師に確実に報告する。このためには、小型センサーを搭載した装着式のエレクトロニクス機器や埋め込み機器が役立ちます。患者の生活の質(QOL)を改善すると同時に、タイムリーな医療支援が可能になります。

 医療IoT機器は、望ましい4つの医療の形(P4医療)を進める役に立ちます。P4医療とは、参加型医療(Participatory)、個別化医療(Personalized)、予測医療(Predictive)、予防医療(Preventive)を指します。

 相互接続された医療機器の数は、2020年までに200億に達するであろうと予測されています。医療機器やハイテク機器のメーカーは、こうした需要の急増に対応できるように協力を進めています。成功を収めている医療機器メーカーや製薬会社の間で共通する特徴は何でしょうか。こうした企業は、医療IoT機器の信頼性を保ち、プライバシーにかかわるデータを扱いながら、法規制を順守したシステムを迅速に開発しています。エンジニアリングシミュレーションを採用することでこれが実現できるのです。

エンジニアリングの5つの重要課題とは

 動作する機器を試作し、テストを重ねながら改良していく。このようなビルドアンドテスト方式は次第に影を潜めつつあります。なぜなら、シミュレーション主導の製品開発(Simulation Driven Product Development)がより有効だということが、明らかになったからです。シミュレーション製品開発手法の実績が、各種の業界で積み上がってきました。

 シミュレーションベースのアプローチはいつ役立つのでしょうか。複数の業界で、トップ企業は製品設計サイクルの早い段階に、シミュレーションベースのアプローチを採用しています。

 IoT機器の開発では重要な課題が5つあります。医療業界では、この課題のうち、最初の3つが特に重要です。

  1. 寸法、重量、電力、放熱(SWaP-C:Size, Weight, Power and Cooling)
  2. センシング、接続性
  3. 信頼性、安全性
  4. 統合
  5. 耐久性

(1)人体に接する機器で、寸法・重量・電力・放熱を考える

 患者にとって、快適で信頼できる機器の姿とはどのようなものでしょうか。ウェアラブル機器や埋め込み機器が小型で、軽く、消費電力が少なく、放熱の問題がないことです(SWaP-C)。IoTに対応した機器の多くは、さまざまな接続規格に対応しなければならず、電子部品を高密度に実装する必要があります。すると、SWaP-Cへの対応が難しくなります。

 例を挙げましょう。従来よりも小型の補聴器の開発です。設計者は広範な設計候補のシミュレーションを行い、アンテナや補聴器の構成部品の他、使用者の耳の実形状を考慮することで、設計課題に対処しています(図1)。補聴器メーカーの米Starkey Hearing Technologiesによれば、ANSYSが提供するシミュレーションによって、テスト期間を数カ月短縮した他、開発費用を数万ドル節約できたといいます。

図1 装着式機器のテスト 衝撃(左側)が加わる過酷な環境を想定した

(2)センシングと接続性が必要、副作用は?

 医療IoT機器に求められる動作は、周囲の環境を検知して、他の電子機器と相互通信し、判定・評価を実行することです。いわばスマート接続された製品が必要なのです。埋め込み機器や装着式機器では、計測パラメータを適切に解釈して、予備的診断に進む必要があります。もしも、測定したデータから健康状態が深刻な状況に陥る、そのような可能性があったとしましょう。即座に患者に警告を発し、緊急時に推奨される対処法を伝える必要があります。同時に医療スタッフへ、迅速な対処が必要なことを通知しなければなりません。

 このような通信要件を考慮すると、電磁干渉を減らすことはもちろん、デジタル信号の品質(シグナルインテグリティ)や電源電圧の品質(パワーインテグリティ)にも十分な注意を払う必要があります。

(3)信頼性と安全性を確保するには

 患者の使用する装着式や埋め込み式の医療機器の数が、さらに増加するなら何が起こるでしょうか。機器が放出する電磁エネルギーが適切に制御されなければ、患者の健康に影響を及ぼす深刻なリスクがあります。身体の部位によって比吸収率(SAR)が異なるため、機器設計が難しくなります。

 装着式でなかったとしても、多くの場合、医療機器は安全を最重要視すべき環境に配置されます。信頼性や安全性に関する基準を満たしている必要があるのです。ベルギーの研究機関imecによれば、医療機器の開発課題は、実験的な検査ができないことにあります。パラメータが多い人体を対象にする場合は、ANSYSが提供するシミュレーションを用いた開発手法が必要であるといいます。

コラボレーション不足とシミュレーションの関係

 IoT対応の複雑な製品開発では、エンジニアリングに課題があります。加えて、既存の設計プロセスにも弱みがあります。独自の調査によれば、こうした製品開発で成功を収める方法が明らかになっています。部門を超えたエンジニアリングチーム間でのコミュニケーションと協調(コラボレーション)が必要なのです。

 このような取り組みがなければ、製品開発の遅延はもちろん、信頼性の問題、費用の超過といった影響が生じると考えられます。例えば、部門間の協調が足りない状況で開発されたサブシステムを、1つの製品として統合した時に問題を引き起こす可能性があります。サブシステムの構築時に、各開発チームが独自の安全マージンを追加することが多く見られます。この安全マージンに起因する過剰設計が特に問題になります。

 コラボレーションに積極的に取り組む企業は、エンジニアリングシミュレーションを活用することで、競合他社との競争を優位に進めています。トップ企業はエンジニアリング統合型のシミュレーションプラットフォームを採用しており、物理的なプロトタイプを作成する前の段階で、コンポーネントやシステムレベルの挙動に加えて、サブシステム間の相互作用も解析しています(図2)。

図2 シミュレーションを用いて機器の相互作用を調べる ウェアラブル機器や埋め込み機器の間で相互作用が起こると、患者に対する安全条件を満たさない可能性がある

 こうした企業に所属する設計者は、設計候補が数え切れないほど多くても、それぞれの性能を素早く調査できます。そのため、費用や品質、性能といった条件に対して設計を最適化できます。図3に示した指標は、米Aberdeen Groupの調査結果です。シミュレーションベースの設計アプローチを導入していない企業群に対して、導入企業群が得たメリットのほんの一例を示しました。機能横断的なエンジニアリングの連携を可能にする統合型プラットフォームの採用によって、これららのメリットを得ることができます。

図3 エンジニアリングシミュレーションによって得られるメリット

アンテナの設計・配置に役立つ

 無線システムの性能評価は難しいものです。電波暗室のプロトタイプ試験環境での評価は、現実世界にうまく当てはまらない可能性があります。高度なコンピュータベースのモデルを採用することで、エンジニアは近接場解析を進めることができます。こうして、複数のアンテナや無線機器の動作による、人体を含む、環境全体の影響を緩和できます。このアプローチによって深い洞察が可能になり、精度を改善でき、信頼性が向上します。

 一例として、ウェアラブルエレクトロニクス機器のトップ企業である米Synapse Product Developmentの例を示しましょう。ANSYSのツールを活用してアンテナの送受信範囲を5倍に拡大でき、同時に、設計サイクル全体の25%(3カ月)を短縮できました。

電力管理が難しい医療用IoT機器

 埋め込み式の生命維持装置では、電池切れが許されません。電池を充電する頻度が高すぎると取り扱いが難しくなり、場合によってはリスクを伴います。避けなければなりません。このため、ワイヤレス給電や低電力IC設計、機器の周辺環境からエネルギーを取り出すエネルギーハーベスティングが、さまざまなIoTデバイスを構築する際の基盤になります。ただし、安全性を常に最優先にしなければなりません。安全基準や規制当局によって、生体組織が吸収する電磁エネルギーの上限が決まっています。

 人体モデルを含む、ANSYSのシミュレーションツールを採用すると、さまざまな給電システムが人体に及ぼす影響を考慮しながら、設計や解析を進めることができます。アイルランドMedtronicの実例を紹介しましょう。同社の神経刺激装置は患者の皮下に配置します。微量の電気信号を送出することで、痛覚信号が脳に達する前にブロックし、鎮痛効果をもたらします。同社はANSYSの電磁場解析ソフトウェア「ANSYS Maxwell」を採用して、運用状況のシミュレーションを実施し、神経刺激装置の開発に伴う物理テストの費用や期間を削減できました。

遅れが目立つ組込みソフトウェア

 航空業界や自動車業界と比較すると、医療業界は組込みソフトウェアの利用が遅れています。それでも将来、数百万行のコードを含むソフトウェアが組込まれていくことに疑問の余地はありません。なぜなら、継続的に取得する大量のデータを適切に解釈して、相互接続された医療機器が予備的診断を提示するように変わるからです。

 こうした製品やシステムの多くは、セーフティクリティカルであることが求められます。例えば、心臓に作用する除細動器では、制御ソフトウェアの動作不良は許されません。

 ANSYSはビルトインの自動コードジェネレータを含む、モデルベースの組込みソフトウェア開発とシミュレーション環境を実現しています。組込みソフトウェア開発プロジェクトのペースを大幅に加速できる製品です。

IoT機器の開発に役立つシミュレーション

 医療用機器に限らず、IoT機器を設計するエンジニアは、数多くの課題に直面しています。先ほど紹介したSWaP-Cはもちろん、センシングや接続性、安全性、信頼性、統合、耐久性といった課題があります。

 このような課題を解決するには、ANSYSが提供するプラットフォームベースのエンジニアリングシミュレーションが有用だといえるでしょう。なぜなら、有用な7つのアプリケーションをシミュレーション内で活用できるからです。7つとは、アンテナの設計・配置と、チップパッケージシステム設計、センサー・MEMS設計、電力管理、組込みコード生成、過酷な環境向けの設計、仮想システムプロトタイピングです。

ANSYSのシミュレーションについて詳しく知りたい方へ

 ANSYSのシミュレーションソリューションは、IoTに対応した製品開発に取り組む開発者を支援します。詳細については、『モノのインターネットのエンジニアリング』を参照してください。

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提供:アンシス・ジャパン株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2016年7月29日

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