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音を切り出すMEMSマイクロフォンの大きな可能性選手同士の会話が聞こえるスポーツ中継が?(1/2 ページ)

リオンと東北大学の研究グループは2016年9月、音空間の情報をリアルに集音可能な実用レベルの64チャンネル球状マイクロフォンアレイシステムの開発に成功したと発表した。同システムにより、目的音とマイクロフォンの間に妨害音がある状況でも、目的音の抽出が可能になるという。

» 2016年10月03日 10時30分 公開
[庄司智昭EE Times Japan]

臨場感の高いスポーツ放送を

 スポーツ中継で、選手の会話やプレー音が鮮明に聞こえるかもしれない――。

 リオンと東北大学電気通信研究所先端音情報システム研究室は2016年9月、音空間の情報をリアルに集音可能な実用レベルの64チャンネル球状マイクロフォンアレイシステムの開発に成功したと発表した。

 さらに、この球状マイクロフォンアレイシステムを無響室(音の反射がほとんどない部屋)で2台用いて、目的音とマイクロフォンの間に妨害音がある状況でも、妨害音のエネルギーを10分の1以下に減少させ、目的音を抽出することにも成功している。

リオンと東北大学が開発した球状マイクロフォンアレイ (クリックで拡大) 出典:リオン

 これにより、従来のように指向性の高いマイクロフォンを音源に向け続ける必要がなく、妨害音がある状況でも音源のみを抽出できる。スポーツ競技のテレビ中継で、選手たちの会話やプレー音などを抽出し、臨場感のある中継の実現が期待できる。なお、同研究は、東北大学電気通信研究所の産学共同マッチングファンドの助成で実施している。

アレイオブアレイズ技術

 同マイクロフォンアレイシステムは、人の頭の大きさと似た直径17cmサイズの球状だ。これは頭に被る使い方を想定しているのではなく、東北大学研究グループの実験から、人が慣れている音を再現するのに適したサイズが17cmだったという。外形寸法が3.6×2.8×1.3mmのMEMSエレクトレットマイクロフォンを64個搭載している。

目的音だけを抽出する仕組み (クリックで拡大) 出典:リオン

 目的音のみの抽出には、「アレイオブアレイズ」と呼ぶ技術が用いられ、2つの重要な要素があるとする。1つ目は、64個のマイクロフォンから得られる信号は、音の距離などによってそれぞれ違うため、同期加算や遅延加算を行うことで、特定方向に感度が高いマイクロフォンアレイシステムシステムを構築できることだ。

 2つ目は、マイクロフォンアレイシステムを複数台設置することで、方向選択性能を向上できることである。これにより、行列計算で作成した3次元空間の座標から、目的音と妨害音をそれぞれを把握し、目的音のみの抽出が可能となっている(東北大学が発表した、同技術に関する発表はこちら)。

「他にない高性能なマイクロフォンを」

 今回、リオンがMEMSエレクトレットマイクロフォンを開発し、東北大学電気通信研究所先端音情報システム研究室の坂本修一氏、トレビーニョホルヘ氏、鈴木陽一氏らの研究グループが、球状マイクロフォンアレイシステムを開発している。

 リオンは、「音」に関する技術を提供しており、補聴器や、音響・振動計測器などの提供を行っている。今回、MEMSエレクトレットマイクロフォンを開発したのも、それら機器への応用を目指して、NHK放送技術研究所と共同研究を始めたのがきっかけだ。

リオンが展開する補聴器 出典:リオン

 リオン医療機器事業部の開発部聴能センサ開発課で課長を務める樹所賢一氏は、「シリコンを用いたマイクロフォンは世の中に多く存在する。他にない手法を用いた高性能な製品の開発を目指した。それが、MEMSエレクトレットマイクロフォンである」と語る。

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