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改革は“新しい形のトップダウン”であるべきだ“異端児エンジニア”が仕掛けた社内改革、執念の180日(8)(4/5 ページ)

» 2016年12月22日 11時30分 公開
[世古雅人EE Times Japan]

“やらされ感”と主体性

 Tコンサルの話は、さらに続いた。原理原則をよく知っている杉谷の長めの話を、若菜が上手に簡潔にまとめる。いざプロジェクトが始動するという段階になって、どこから何に手を付けようかと気ばかり焦っていたメンバーたちも、企業変革のノウハウをこれまでじっくり聞いたことがなかったため、最初は戸惑いもあったようだが、「確かに……」とうなずく回数が次第に増えてきた。

 杉谷の話には、ところどころに“やらされ感”という言葉が出てきた。つまり、「半強制的に、改革に参加させること」である。この言葉は、須藤をはじめメンバー全員の関心を引いた。皆一様に、「やらされ感はない方がいい」という意見ばかりかと思われたが、そうではなかった。

 例えば、これまでに須藤たちを毛嫌いしていた人、特に部長や課長という管理職に対してはメンバーの意見は厳しく、「何もしてこなかった傍観者はいらない。今さらながら希望退職で真っ先に辞めてほしい人ばかりだ。せめて、強制力を持たせて改革をやらせるべきだ」という声も聞かれた。それに対しては反対意見もあり、「それだと、やらされることに慣れた社員ばっかりになってしまう。会社の将来を考えたら、社員の自発性や主体性が発揮できるような職場、会社にしていかなければならない」という意見も出た。

 第2回の図2において、動機づけには“外発的動機づけ”と“内発的動機づけ”の2種類があると述べたが、以下の図2はそれに少し手を加えたものだ。

図2:主体性と“やらされ感”

 杉谷いわく、「原則、“やらされ感”はない方が良いに決まっている。しかし、それも時と場合による。先ほど、若菜が“アメとムチ”を例えに出したように、使い分けすることが必要だ」とのことだ。

 “やらされ感”は、“主体性”に対してはマイナスとして働く。一方、“主体性”は動機づけに対してはプラスとして働く。しかし、“主体性”をほとんど持たない、自ら動こうとしない人も少なからずいるわけだ。須藤の上司である開発課の森田課長などは、その典型だろう。

 だが、こういう場合に、一律に、いきなり「ムチを食らわし、やらされ感など無視して強制力で人を動かすこと」は危険である。なぜなら、人は周囲環境や人間関係によって、うまく主体性を発揮できない場合があるからだ。従って、原則は「やらされ感はない方が良い」と理解しておくべきだろう。

 『慎重でいながら大胆に』、進めることが重要だ。「“緻密な戦略と先を見越したシナリオ”をどう組み立てるかが成否の分かれ道だ」――第5回で須藤が最初にTコンサルを訪問した時に、杉谷から言われた言葉である。“やらされ感”1つをとっても、いろいろな視点から考えることができる。こうしたことを、さまざまな場面で想定しながら考えることが、“緻密な戦略”なのかなぁと、須藤は考えていた。

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