メディア
インタビュー
» 2016年12月22日 10時30分 公開

創業者ですら驚いた:教育・ホビーから産業用途へ、ラズパイ5年目の進化 (2/3)

[村尾麻悠子,EE Times Japan]

産業用途での増加、Upton氏も驚いた

 このように本体だけでなく周辺機器も充実させる中、Upton氏ですら驚いていることがある。現在、顧客の半数以上が、産業用途でRaspberry Piを使用しているというのだ。前述した通り、Raspberry Piは教育向けとして開発されたものである。Upton氏は「もともとは、“優れたオモチャ”というイメージで開発したので、産業用途での使用が増えていることには、とても驚いている」と語る。

 こうした背景を踏まえ、Raspberry Pi Foundationは、産業用組み込み機器として「Compute Module」を2014年に発表。2017年には、その後継機種となる「Compute Module 3」が登場する。NEC Display Solutions Europeは2016年10月、Raspberry Pi Foundationとの提携を発表し、Compute Module 3を搭載したNECのデジタルサイネージ向けディスプレイが、2017年に登場することを明らかにした。Upton氏によれば、Compute Module 3は、前世代品に比べてメモリ容量が2倍、CPUのピーク性能が12倍になっているという。CPUコアは、Compute Moduleが「ARM 11」のシングルコア、Compute Module 3ではCortex-A53のクアッドコア(Raspberry Pi 3と同じチップ)となっている。

2017年に発売予定の「Compute Module 3」(クリックで拡大) 出典:Raspberry Pi Foundation

 Upton氏によれば、Raspberry Piは、産業用途としては、デジタルサイネージやエアコン、郵便サービス向けのファクトリーオートメーションなどで使われているという。「実は、代理店から販売された後は、どこに使われているのか、はっきりとは分かっていない。ただ、例えば2016年は約400万台出荷されていて、そのうち半数となる約200万台が産業用途で使われているのは分かっている」(同氏)

 同氏は、Raspberry Piの潜在市場は産業機器にあると強調する。一方で、もともとの狙いであった教育用途にも力を入れていく。だが、産業向けと教育向けでは、Raspberry Piに対する要件がだいぶ異なるのではないだろうか。例えば産業向けには高性能、教育向けでは、そこそこの性能で十分だから安価なものを、といった具合だ。これについてUpton氏は、「個人的には、教育向けにこそ高性能が必要だと考えている。実は、性能に対する要求が最も厳しい顧客というのは子どもたちなのだ。実際、旧モデルとなるRaspberry Pi Model A+とB+は、ほとんどが産業用途で使われている。われわれの理解では、Raspberry Piについては、産業向けとしてはコストが最も重視されている」と述べる。

 Upton氏は、「もちろん、今までは1種類のRaspberry Piで教育向けと産業向けの両方に対応してきたが、今後もそれがうまくいくかどうかは分からない」と説明しつつ、「ただし、1種類を維持するというのは、量産すればするほどコストが下がるというメリットがある。そのため、Raspberry Piの進化の方向を教育用、産業用と明確に分離するのではなく、あくまでも1種類のRaspberry Piを主流としていく。そして、例えば産業用途には、Compute Module 3のような製品を補助的に開発する、といった方法で、産業機器と民生機器の両方をサポートしていく考えだ」と続けた。

なぜ産業向けにラズパイを選ぶのか

 Upton氏は、産業用途でRaspberry Piが選ばれる理由について、「3つある」と話す。「1つ目は、高性能で、その性能が安定しているということ。Raspberry Piはこれまでに1100万台が販売されている。Raspberry Piのような製品は他にもあるが、これらのほとんどは大量には製造されていない。年間で約1万台、多くても10万台といったところだろう。そのように小規模生産だと、性能を安定させるのは難しくなる」(同氏)

 2つ目はコスト効率だ。「Raspberry Pi Model A+は20米ドル、最も高いRaspberry Pi 3でも、わずか35米ドルだ。特に産業向けとして考えると極めて安価な価格帯だろう。さらに、非常に短いリードタイムで購入できる点も強みになる。例えば今日1万台受注しても、明日には提供できる」(Upton氏)

 3つ目としてUpton氏はエコシステムを挙げた。「専用ケース1つ取っても、例えば産業向けにはDINレールに取り付けられるケースなど、さまざまなものを用意できる。商業用のエコシステムが整っているので、そこで知識が集約される。量産の規模がある程度なければ、こうしたエコシステムを形成するのは難しい」(同氏)

 Upton氏は「開発当初は、Raspberry Piが産業用途で使われるとは思ってもいなかった。だが、だからこそ、性能や品質が安定するよう適切な投資を行ってきた」と付け加えた。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

RSSフィード

公式SNS

All material on this site Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
This site contains articles under license from AspenCore LLC.