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新型FPGA、放射線によるエラー発生を100分の1に宇宙でのIC利用を視野に

NECと産業技術総合研究所(産総研)は、宇宙環境での利用を視野に入れたFPGA「NB-FPGA」を開発した。このFPGAには放射線耐性に優れたNEC独自の金属原子移動型スイッチ技術を搭載している。

» 2017年03月08日 09時30分 公開
[馬本隆綱EE Times Japan]

放射線耐性を格段に高める「NanoBridge」技術

 NECと産業技術総合研究所(産総研)は2017年3月、宇宙環境での利用に向けたFPGA「NB-FPGA」を開発したと発表した。このFPGAには放射線耐性に優れたNEC独自の金属原子移動型スイッチ「NanoBridge」技術を搭載している。

 FPGAは現在、SRAM型と呼ばれている製品が一般的となっている。ところが、宇宙環境で利用すると、放射線の影響でSRAMに書き込まれた回路情報が変化し、ソフトエラーを引き起こす可能性がある。

 これに対してNanoBridgeは、固体電解質中に形成される金属(銅)原子の架橋が「形成されている」か「消滅している」かによって、信号のオン/オフ状態を判断する。その状態は電圧を切っても保持されるという。しかも金属原子の架橋は、放射線の入射によって発生する電荷の影響を受けることはない。このため、放射線の影響を受けやすい使用環境でも、NB-FPGAの回路が書き換えられる可能性は極めて低い。これまでのSRAM型FPGAに比べて、電力効率が10倍向上することもNanoBridgeの特長だという。

左は「NanoBridge」技術の動作原理、右はNB-FPGAのチップ写真 出典:NEC、産総研

 NB-FPGAは、オープンイノベーション拠点(TIA)にある設備を活用して製造した。評価用に試作したNB-FPGAは、一般的に用いられている4入力LUT(Look Up Table)の回路方式とし、64×64セルのチップに8000個(宇宙での実証実験では3万7000個のLUTを集積する予定)のLUTを実装している。NanoBridgeのスイッチは、オフ状態にあるスイッチの信頼性を向上するため3端子構造とした。1個のNB-FPGAには、最大5100万個スイッチが含まれるという。

 NECと宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、地上に過酷な放射線環境を設けて、試作したNB-FPGAの動作検証を共同で行った。この結果、NanoBridgeのオン/オフ状態は、放射線を照射した前後で変わらないことを確認した。NECの予測によれば、放射線によるNanoBridgeのエラー発生頻度は、従来のSRAMに比べて100分の1以下だという。

 NECとJAXAは、平成30年度に打ち上げを予定している「革新的衛星技術実証1号機」にNB-FPGAを搭載し、実用性と信頼性を検証する予定だ。具体的には、宇宙空間でカメラ撮影を行い、その画像をNB-FPGAで圧縮処理し送信する実証実験を予定している。

 NECは、宇宙での実証実験の結果を基に、当面は車載機器やロボット、通信機器などへの適用に向けてNB-FPGAの実用化を目指していく。

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