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3.11の教訓を、東北大の災害に強いストレージ技術ネットに依存しないデータ保全

インターネットに依存しない地域分散型のデータ保全技術が必要になる――。東北大学電気通信研究所の教授である村岡裕明氏は2017年3月に都内で開催した研究成果の報告会で、東日本大震災の教訓を踏まえて開発を進める、耐災害性情報ストレージ基盤技術を紹介した。

» 2017年03月09日 09時30分 公開
[庄司智昭EE Times Japan]

50%の機器損壊下でも90%の情報を保全

 東北大学 電気通信研究所は2017年3月、社会性の高い研究に関する成果の報告会を都内で開催した。本記事では、同研究所の教授である村岡裕明氏が説明した「情報インフラの未来を見据える耐災害性情報ストレージ基盤技術」の一部を紹介する。

 村岡氏は、まず情報ストレージの重要性について説く。IDCの調査によると、2020年における生成情報量は40ゼタバイトになる。東北大学の試算では、2030年に1ヨタバイト(1兆の1兆倍)の情報が生成されるという。1ヨタバイトは、世界の人口70億人がそれぞれ140テラバイトの情報を持つことに相当する。

 2011年3月11日に起こった東日本大震災では、市役所や病院に置いている情報サーバが津波や揺れで損壊してしまった。情報サーバの中にある緊急性の高い住基情報や医療情報などが喪失してしまい、救助活動の大きな足かせになったという。津波や火災などによる拠点自体の損壊や長期間の電源損失を想定していなかったことによるもので、拠点内に閉じた従来型バックアップやRAID技術だけでは不十分なことを示している。広域通信障害のためインターネットに接続できず、クラウドも利用不可だった。

 村岡氏は「情報ストレージは、社会に欠かすことのできない基盤技術である。1ヨタバイトと天文学的な数字の情報量が生成される時代を迎える中、災害など緊急時においてインターネットに依存しない地域分散型のデータ保全技術が必要になる」と語る。

情報ストレージの重要性 (クリックで拡大) 出典:東北大学

 東北大学電気通信研究所と日立製作所、日立ソリューションズ東日本は、文部科学省委託事業「高機能高可用性ストレージ基盤技術の開発」において、耐災害性ストレージ基盤の開発を進めてきた。村岡氏がこれまでの具体的な成果として挙げたのは、リスクウェア複製とマルチルートリストア、高速データ転送技術となる。

 リスクウェア複製技術とは、各拠点の被災リスクを評価して複製を作ることで、近隣同士でも共倒れなくデータを保全するストレージシステムである。拠点数が多くなると、複製場所の組み合わせ数が爆発的に増えるため、計算時間を短くするためのアルゴリズムを開発。80拠点の計算において、3000倍の高速化を実現したとする。

 残ったデータだけでは役に立たないため、災害後に残存ストレージとネットワークを再構成することでシステムを復旧するマルチルートリストア技術も開発している。

 高速データ転送技術では、並列トラック再生により、140%の転送レートの高速化に成功した。磁気ディスク上には、記録情報が微小磁石として円周状のトラックに並べられている。データの読み出し量は磁石の数に比例するため、2つのトラックを同時に読み出すと、データ転送レートは原理的に2倍にすることが可能だ。しかし、従来2つのトラックの信号が同時に入って混ざり合うため情報を正しく複合できなかった。今回新しい信号処理方式を考案したことによって、この課題を解決したという。

左=リスクウェア複製技術の概要/右=高速データ転送技術 (クリックで拡大) 出典:東北大学

 村岡氏らはこれらの成果を基に、耐災害性ストレージの実証実験を行った。東北大学の3キャンパス4棟にストレージ装置を分散配置し、仙台近郊の108医療機関に装置を設置した状態を模擬したシステムを構築。100万人規模でのアクセスを模擬した実証実験では、50%の機器損壊下でも90%の情報を保全したことを確認したとする。

 なお今回の成果は、2017年3月9日に東北大学で開催する第3回シンポジウム「高機能高可用性情報ストレージ基盤技術の開発プロジェクト成果報告会」で詳細が報告される。

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