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» 2017年03月28日 11時30分 公開

研究開発のダークサイド(9):近代科学の創始者たちに、研究不正の疑いあり(天動説の「再発見と崩壊の始まり」編) (3/3)

[福田昭,EE Times Japan]
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プトレマイオス理論からの脱却とアリストテレス理論への回帰

 15世紀に知られていた惑星は、水星、金星、火星、木星、土星の5つである。古代はもちろんのこと、近代においても天文学の理論を構築するときに乗り越えなければならない課題とは、粗く言ってしまうと、これら5つの惑星の特異な運動を定量的に説明することだった。特異な運動とは、等速円運動(一定の速度で円軌道を回り続ける運動)と違った運動のことで、「不等性」とも呼ばれる。

 古代から近代の始めまで、天体の「等速円運動」は自然学的かつ絶対的に信じられ、西欧社会の人々にとって常識となっていた。全ての天体が例えば恒星のように等速円運動をしているように見えていたならば、天文学の理論は簡素なものであっただろう。しかし現実は違っていた。

惑星運動の観測から得られる2つの不等性(クリックで拡大)

 惑星運動の不等性は、古代ギリシアの天文観測で既に知られていた。1つは、運動の速度が高くなったり低くなったりする(運動が速くなったり遅くなったりする)ことである(第一の不等性)。もう1つは、運動の方向がときおり、逆向きになることである(第二の不等性)。ちなみに、「惑星(惑う星)」という名称は、運動の不等性に由来する。

 古代ギリシアの哲学者アリストテレスは、地球を中心に置いた複数の同心円(厳密には同心球)を使って惑星の不等性を説明しようと試みた。そのモデルはかなり分かりやすいものの、定量的な厳密さは大きく損なわれた。

 これに対して古代ローマの天文学者プトレマイオスは、性質の異なる円を組み合わせることで、定量的な厳密さを追い求めた。地球を宇宙の中心に配置しながらも、円運動の中心は地球とは離れている円(離心円)を導入したり、離心円に沿って移動する点を中心とする別の円(周転円)を導入したり、これらの特殊な円の上に惑星や月、太陽を配置したりした。さらに、「エカント(等化点)」と呼ぶ角速度一定の中心を導入して円運動の軌道速度を変えるという、「等速円運動」の考え方を部分的に壊すことまでしている。

 これらの工夫により、プトレマイオス理論の集大成である「数学集成(アルマゲスト)」は定量的な厳密さをある程度まで得ることに成功した。だが、天体運動のモデルは非常に複雑で難解なものになってしまった。しかも、離心円や周転円、等化点などには、何らかの根拠があるわけではなく、天体の運動をうまく説明するために幾何学的に考案された存在(数学的な仮定)に過ぎなかった。

 プトレマイオス理論、すなわち「数学集成(アルマゲスト)」の完全な理解者であり、その欠点を見抜いたレギオモンタヌスは、新しい天文学理論の構築に取り掛かる。その基本思想は、アリストテレスへの回帰だった。プトレマイオス理論の要点である離心円と周転円を破棄し、アリストテレス理論の同心円(同心球)を基本としつつも定量的な厳密さを備えた理論体系を作りだそうとした。

 なぜならばレギオモンタヌスは、「天の運動は完全に一様であるが、しかし我々には、それは不等に現出する。したがってなによりも我々は、離心円や周転円ではけっして保存されることのないこの一様性を救わなければならない」(山本、『世界の見方の転換』、第1巻、222ページ)と考えていたからだ。「人間の観測には不等であれ真の運動はあくまで自然学の原理にしたがい一様で規則的である」(同書、223ページ)という彼の指摘は、「観測者の動き」、すなわち「地球の運動」という出口まで、あとわずかな地点にまで確実に近づいていることを感じさせる。

 しかし理論の完成を見ることなく、レギオモンタヌスはわずか40歳で早逝してしまう。1476年7月6日がその命日とされている。

 惑星運動の不等性が「観測者の動き(地球の運動)」に起因することを見抜いたニコラウス・コペルニクス(Nicolaus Copernicus)が生まれたのはレギオモンタヌスが亡くなる3年前の1473年2月19日である。レギオモンタヌスの著作「数学集成の摘要」がベネチアで印刷出版されるのは23年後の1496年のことだ。コペルニクスは同年、ベネチアに近いイタリア北部のボローニャ大学に留学する。そして「数学集成の摘要」を直ちに入手する。地動説の最初の原稿とされる「小論考(コメンタリオルス)」が無署名の手稿として完成するのは、それから15年後の1510年ごろとされている。(文中敬称略)

(次回に続く)

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