ちょうどこのころ、米国におけるハイテク産業発祥の地ボストン周辺でも、ワークステーションを開発する企業が現れ始めた(関連記事:シリコンバレーがボストンを圧倒した理由)。
そのうちの1社がStellarである。ただ、Stellarは、Ardentにとってのクボタのようなコーポレート・インベスターがおらず、資金調達に苦しんでいた。
そこで、Stellarに投資していた投資銀行H&Q(Hambrecht & Quist)のBill Hambrecht氏の仲介により、1989年、StellarとArdentが対等合併し、Stardentが生まれた。
ところが、である。
なんと、旧Ardentを設立したMichaels氏とSanders氏がクボタを告訴したのだ。合併の翌年、1990年のことである。
理由は「クボタは、ArdentとStellarを無理やり合併させた」というものだった。筆者はその知らせをFAXで受け取ったのだが、非常に驚いたのを覚えている。Michaels氏とSanders氏の言い分は、「自分たちはStellarと合併しなくても十分にやっていけた。それなのにクボタがBill Hambrecht氏と内密に合併を仕組んだ」というものだった。しかし、筆者の知る限りそのような事実はないし、幸いなことに、この告訴に対する米国内の反応も冷静で、両氏は自ら墓穴を掘っているという見解が多かった。
結局、Stardentは1991年に会社を清算する道を選ぶ。SGIやIBM、HPといった強敵が勢力を伸ばす中、この市場で戦い続ける体力はもう残っていなかったのである。それから数年して、クボタもワークステーションのビジネスからは撤退した。
RISCを採用したワークステーションを巡っては、このような栄枯盛衰が繰り返されていた。
この連載で何度か書いているが、新しい技術を開発する試みは、間断なく続けられている。そのうちの幾つかは芽吹いて、大きく成長することもある。一方で、日の目を見ることなく消え去っていくものが多いことも、また事実だ。
こうした栄枯盛衰の繰り返しによってシリコンバレーのエコシステムが育っているのである。
⇒「イノベーションは日本を救うのか 〜シリコンバレー最前線に見るヒント〜」連載バックナンバー一覧
石井正純(いしい まさずみ)
ハイテク分野での新規事業育成を目標とした、コンサルティング会社AZCA, Inc.(米国カリフォルニア州メンローパーク)社長。
米国ベンチャー企業の日本市場参入、日本企業の米国市場参入および米国ハイテクベンチャーとの戦略的提携による新規事業開拓など、東西両国の事業展開の掛け橋として活躍。
AZCA, Inc.を主宰する一方、ベンチャーキャピタリストとしても活動。現在はAZCA Venture PartnersのManaging Directorとして医療機器・ヘルスケア分野に特化したベンチャー投資を行っている。2005年より静岡大学大学院客員教授、2012年より早稲田大学大学院ビジネススクール客員教授。2006年よりXerox PARCのSenior Executive Advisorを兼任。北加日本商工会議所、Japan Society of Northern Californiaの理事。文部科学省大学発新産業創出拠点プロジェクト(START)推進委員会などのメンバーであり、NEDOの研究開発型ベンチャー支援事業(STS)にも認定VCなどとして参画している。
新聞、雑誌での論文発表および日米各種会議、大学などでの講演多数。共著に「マッキンゼー成熟期の差別化戦略」「Venture Capital Best Practices」「感性を活かす」など。
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