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弱いままの人工知能 〜 “強いAI”を生み出すには「死の恐怖」が必要だOver the AI ―― AIの向こう側に(13)(1/9 ページ)

AI(人工知能)には、「人間のアシストをする“弱いAI”」と「知性を持つ“強いAI”」があるという考え方があります。私は、現在の「AI」と呼ばれているものは、全て“弱いAI”と思っています。では、私たちは“強いAI”を生み出すことができるのでしょうか。それを考えるには、人間にとって、恐らくDNAレベルで刻まれているであろう普遍的な感覚、「死への恐怖」がヒントになりそうです。

» 2017年07月27日 11時30分 公開
[江端智一EE Times Japan]

今、ちまたをにぎわせているAI(人工知能)。しかしAIは、特に新しい話題ではなく、何十年も前から隆盛と衰退を繰り返してきたテーマなのです。にもかかわらず、その実態は曖昧なまま……。本連載では、AIの栄枯盛衰を見てきた著者が、AIについてたっぷりと検証していきます。果たして”AIの彼方(かなた)”には、中堅主任研究員が夢見るような”知能”があるのでしょうか――。⇒連載バックナンバー


「あの世」や「来世」を信じてる?

 ある日のこと、

「パパは、『あの世』とか『来世』とか信じている?」

と、中学3年生の次女が質問してきました。

 江端家では、それが、たとえ、次女の定期試験の前夜であっても、『バカなこと聞いていないで、勉強でもしていなさい!』と叱責しない家風です。この手の議論を振られれば、その問いに対して全力で答える父親と、その議論が長びくと、無言の圧力でそれを停止させる母親とで、この家風を運営しています。

江端:「『あの世』とか『来世』については、死んだ後に分かるのであれば、別段、今、急いで考えなくても良いかなと思っている」

次女:「『パパが、今、どう思っているか』を聞いているんだけど」

江端:「『今、私が、どう思っているか』というのであれば、『あの世』とか『来世』は、存在しないと考えるのが『合理的』と考えている」

次女:「なんで?」

江端:「『あの世』とか『来世』を主張している、宗教の教義が、ものすごく『理不尽』だからだよ。基本的には、「死後の処理フロー」が、もうめちゃくちゃ理不尽」

次女:「というと?」

江端:「まず、納得できないのは、別の宗教を信じている人を、問答無用で"地獄"に送り込むという考え方だな」

次女:「どういうものなの?」

江端:「『ある所に、敬けんなキリスト教の信者のおばあさんがいました。その人は、聖書に記載されている通りに、隣人に親切にして、貧しい人に施しをして、清貧な人生を送り、その人生を終えました』」

次女:「で?」

江端:「『ところが、こちらに来てみてビックリ。あの世は、イスラム教の世界で運営されていたのです。ですから、このお婆さん、裁判(最後の審判)の即決裁判で地獄行きが決定しました』」

次女:「はあ」

江端:「"キリスト教"と"イスラム教"を入れかえても同じことになるんだけど、これって理不尽の極(きわみ)じゃないか?

次女:「そうなの?」

江端:「『あの世』やら『来世』なるものが同時に2つ以上存在する、などと言っている宗教は1つもないのだから、そういう理不尽で不合理な裁判システム(最後の審判)を採用しているシステムは『併存できない』と考える方が自然だろう?」

次女:「確かに。じゃあとにかく、パパは『あの世』とか『来世』を信じていない、ってことだね」

江端:「お前はどうなんだ?」

次女:「そうだなぁ。私は信じているかな」

江端:「そうか。じゃあ、パパの見解(『あの世』とか『来世』はない)を引っくり返してみようとは思わないか?」

次女:「は? 何?」

江端:「もしお前が、"パソコンにも『あの世』とか『来世』がある"という仮説を ―― 検証しなくてもいいから ―― 論理的に説明できたら、パパは、自分の見解を引っ込めて、お前の主張を全面的に受け入れてもいいよ」

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