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» 2017年08月16日 11時30分 公開

世界を「数字」で回してみよう(42) 働き方改革(2):「非正規雇用」の問題は、「国家滅亡に至る病」である (8/11)

[江端智一,EE Times Japan]

非正規社員を守る規則を加えた場合

 しかし、これでは、非正規社員にとって、あまりに不利益でしょう。

 そこで、非正規社員を守るための規則の1つとして「3年間は解雇できない」という保護を与えてみました。

 私は、この結果を見て、「あれ?」と思いました。3年間の保護期間をへたとしても、非正規社員の保護期間があまり伸びていないからです。

 この理由については、10年の景気変動(ジュグラー循環)に対しては、景気の良い状態が5年間は続くことになります。その上、非正規社員の採用時期が、景気が良くなった初期時に集中するので、「3年間」の保護が、有効に働きにくいようです。

 まあそれでも、非正規社員の保護が、会社(と正社員)の損失となる、となるのは明らかです。このシミューションを繰り返すことで、私は、この問題の対立軸が見えてきたような気がします。


 そもそも、「非正規雇用」は、非正規雇用の人間を不当に搾取し、安定で安心した人生を全く保証しないものです。

 『非正規雇用は、時間やルールに拘束されないパラダイスのような人生だ』、という人もいるかもしれませんが、「正規社員→非正規社員」になる難しさと、「非正規社員→正規社員」になる難しさを比較してみれば、その非対称性は、論じるまでもありません。

 つまり、私たちの社会は、「非正規雇用」を踏み台として成立しているともいえるのです。

 しかし「成立している」のです。どんなに不合理で理不尽であったとしても。ならば、このまま「非正規雇用」の人々に、一生我慢してもらって、私たちの社会の人柱を続けてくれ、という言い方も……できねーよ、絶対に。そんな理屈、普通に考えてもダメに決まっています。

 しかし、それ以上に「非正規雇用」を看過しつづけると、長期的に、もっともっと面倒なことが起きるのです。そして、その面倒さとは、国家の破滅にもつながりかねないモノなのです。

 「格差」です。

 「格差」の恐しさは、国民全体の労働意欲の低下を引き起こすことです。不公平感を感じる社会で、人々は真面目に働く気力を失います。

 新しい仕事や事業に挑戦したいと思う人がいても、国家というセーフネットがきちんと機能していなければ、失敗を恐れて、萎縮し、その挑戦を断念します。そして、そのような挑戦ができない国民を有する国家も、また衰退の一途をたどるでしょう。

 これは、裏口入学が普通となっている国や、政治家や警察に対して賄賂(わいろ)が横行している国で、その国民の士気が低いことを見れば明らかです。

 そして、何より、「人間らしい死に方すらできなくなるのではないか」という恐怖のある国家が、これから繁栄できるわけがありません。

 だから、誰かを犠牲にすることを必要悪として前提とする国家や会社や行政機関は、必ずダメになっていくのです。

 「非正規雇用」の問題は、「国家の死に至る病」である、という点において、それを放置することは許されないのです。

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