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「顧客の最も困難な設計課題に挑む」、新生アナログ・デバイセズがスタートアナログ・デバイセズ 代表取締役社長 馬渡修氏

アナログ・デバイセズは、2017年3月にリニアテクノロジーを統合し、新たな一歩を踏み出した。「高性能分野に特化してきたのが、両社の共通姿勢。顧客にさらに付加価値の高いソリューションを提供できるよう、カバー領域をシステムレベルまで広げていく」という同社日本法人社長の馬渡修氏に、新生アナログ・デバイセズの製品戦略などについて聞いた。

» 2017年08月22日 10時00分 公開
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センサーやセキュリティ技術などを強化、IPやソフトウェアも

――Linear Technology(リニアテクノロジー)の買収が正式に完了しました。事業統合に向けた進捗状況はいかがでしょうか。

馬渡修氏 想定以上に順調に進んでいる。2017年6月には、CEO(最高経営責任者)以下役員レベルの新組織が固まった。これを受け各リージョンでも担当レベルまで統合を進め、8月より新体制でスタートしたところだ。

――どのような組織/体制となりますか。

馬渡氏 本社では3つの事業本部を設けた。はじめの2つはアプリケーションにフォーカスした「オートモーティブ、コミュニケーション、航空宇宙&防衛」部門と「インダストリアル、ヘルスケア、コンスーマー、IoTソリューション&セキュリティ」部門、もう1つが旧リニアテクノロジーの製品を引き継ぐ「パワー製品」部門。この部門には旧アナログ・デバイセズのパワー製品グループも加わっている。

1+1>2の相乗効果

――新生アナログ・デバイセズの目指す方向性を教えてください。

馬渡氏 “1+1>2”の相乗効果を生み出していきたい。業界をリードしてきた製品ポートフォリオは、互いに補完関係がある。ある意味でインテグレーションは容易で、事業統合により現行の製品群を整理する必要もなかった。

新生アナログ・デバイセズの会社概要 (クリックで拡大)

 旧アナログ・デバイセズは、データコンバータやオペアンプなどのアナログICやDSP、センサー製品をベースとした高性能なアナログシグナルチェーンを供給してきた。しかも、単体ICビジネスに加えて、IPやセキュリティ技術なども取り込みながら、システムソリューションを提供し始めている。

 これに対して、旧リニアテクノロジーは電源ICが強く、その技術領域を深耕してきた。電源ICの応用分野は広く、幅広い客層とつながりを持っている。製品の品質管理に対するサポートレベルも高く、その対応も極めて早い。

 このように、アナログICという同じ領域の技術や製品を扱う企業同士であっても、企業文化やビジネスモデルには違いもあり、互いに相手の優れた部分を学ぼうとしている。ハード面だけでなく、ソフト面での事業統合メリットの大きさに驚きを感じているところだ。販売面では、互いの顧客に対するクロスセルも始めた。新年度となる2017年11月より、本格的にその活動を展開することになるだろう。

 両社にはそれぞれ、「フェロー」や「グル」と呼ばれる業界最高レベルのアナログ技術者たちがいる。こうした技術者やそのDNAを受け継いだ技術者集団が、アナログ回路のコアとなる技術を開発し、そのコア技術を組み込んだASSPなどを開発していく。ここは従来から変わりないところだ。

――最近のユニークな取り組みはありますか。

馬渡氏 研究開発分野で注目しているのが、化合物半導体技術やセキュリティ技術である。今年3月には、ブロードバンドネットワーク向けのGaAs(ガリウムヒ素)アンプやGaN(窒化ガリウム)アンプなどを手掛けるOneTree Microdevicesを買収した

 セキュリティ関連では、2016年8月にSypris Electronicsのサイバーセキュリティソリューション部門を買収した。さらに、ARMと共同で、「ARM TrustZone」を活用したマイクロコントローラも開発中である。

 アナログIC単体の製品ポートフォリオに加えて、IoTシステム向けのプラットフォームやソフトウェアを含む総合的なソリューションを提供していく。そのために、M&Aによる企業買収や、エコシステムの強化/拡大を図っているところだ。

アナログ技術をコアとして、戦略的買収などによりデジタル領域へとサポート範囲を拡大 (クリックで拡大)

日本の顧客の「最も困難な設計課題」を解決

――日本での体制はどのようになりますか。

馬渡氏 日本市場では、旧リニアテクノロジーが地域別の営業体制で成功しており、旧アナログ・デバイセズはセグメント別の対応で業績を伸ばしてきたという経緯がある。今後は双方の強みを生かし、これらをミックスした形態で臨みたい。地域密着型の体制で実績を積み重ねてきた名古屋地区と大阪地区については、今回の統合を機にサポート体制を一段と強化した。

――新生アナログ・デバイセズとして、日本市場での新たな取り組みなどは考えていますか。

馬渡氏 日本市場でも、高性能アナログIC分野でナンバーワンサプライヤーを目指していく。特に我々は、「顧客の最も困難な設計課題の解決に挑む」ことを目標としている。日本企業の技術革新力は世界をリードしており、少子高齢化や労働力不足、災害大国などさまざまな課題を抱えているからこそ、革新的な製品や技術がこれからも生まれてくるだろう。予防医療を実現するポータブル医療機器や、高精度の画像診断装置、先進的なファクトリーオートメーションや、自動運転が現実味を帯びてきた自動車など、すでに見え始めた新たなアプリケーションに対し、精力的に提案を進めているところだ。日本のハイテク企業とアナログ・デバイセズ本社R&D部門の技術者を、最先端技術領域で結びつける役割を果たしていきたい。

――新生ADIにおける日本市場での位置づけは。

馬渡氏 アナログ・デバイセズにとって日本は、これまで以上に重要な市場となるだろう。旧リニアテクノロジーは、日本市場の売上が全社の14%を占めていた。特にマイクロモジュール製品は、日本市場での成功事例が多い。旧アナログ・デバイセズもシステムレベルのビジネスが好調で、2016年度の日本の売上比率は約10%だった。両社が統合した現在の数値は12〜13%に達しているのではないだろうか。

車載での成功事例を展開

――事業拡大に向けて、新生アナログ・デバイセズが注力していく領域/分野はどこですか。

馬渡氏 応用市場で柱の1つと考えているのがオートモーティブの領域である。もともと、車載バッテリー向け電源IC事業で旧リニアテクノロジーが成功してきた。本格化するEV時代に対応するため、バッテリーマネジメントIC「LTC6811」と、無線センサーネットワーク技術(SmartMesh)用IC「LTC5800」を実装したワイヤレスBMS(バッテリー管理システム)評価用モジュールを、車載用途向けに開発している。SmartMeshとは、旧リニアテクノロジーが「Dust Networks」ブランドで展開している技術である。BMWのEV「i3」を改造したコンセプトカーに搭載し、すでに実用的な評価を行っている。

 本来、Dust Networksは産業機器などにおけるIoT用途で、「切れない無線」として注目を集めている技術である。日本市場ではこうしたIoT用途での応用拡大に期待している。

 オートモーティブ領域では、これらの成功事例を活用しつつ、今後は旧アナログ・デバイセズ製品も同時に提案していく。ADAS(先進運転支援システム)向けはその一例だ。

――2017年2月には、28nm CMOSベースのレーダープラットフォーム「Drive360」を発表されました。

馬渡氏 Drive360は、車の周囲360°を高精度に検知し、把握することができるプラットフォームである。これは、クルマの姿勢制御を行うMEMSセンサー、76〜81GHzをカバーするレーダーシステム、赤外線レーザー光を用いて周囲にある物体との位置関係を特定するLIDAR(Laser Imaging Detection and Ranging、ライダー)システムを組み合わせたもので、文字通りクルマの周囲360度を高精度に検知、把握する。高出力で、位相ノイズが小さいため、前方のクルマの影に隠れた小さな子供など、より遠くの、より小さな対象も迅速に検知できるようになる。

 高精度な信号処理を行うには、当然電源レールもクリーンである必要がある。ここで期待しているのが旧リニアテクノロジーの「Silent Switcher」だ。スイッチング動作で生じる電磁界を局所的なループに閉じ込めるなどの工夫でEMIを大幅に抑え、CISPRクラス5を大きく下回る低ノイズを実現した。

28nm CMOSレーダープラットフォーム「Drive360」の概要 (クリックで拡大)

IoT、センサーからプロセッサ、セキュリティまで

――IoT分野ではエッジの領域が重要となります。

馬渡氏 大量のデータをエッジで取得してクラウドに送っても、データの精度に問題があったら意味のある結果は得られない。アナログ・デバイセズは従来から高精度なセンサーでエッジをインテリジェント化することを提唱してきた。今後は、セキュリティ技術も一段と重要になるだろう。

 アナログ・デバイセズはMEMSセンサー事業で30年以上の歴史を持っている。「ADXL1001ADXL1002」や「ADXL356ADXL357」「ADXL354ADXL355」などのMEMS加速度センサーは、小型軽量、低消費電力、高信頼性といった特長に加え、センシング精度も大幅に改善した。半導体製造技術を使っているため当然生産スケールや、コスト、機能集積にも長けており、耐ショック堅牢性や温度などの環境に対する安定性も高い。工場の機器や、橋や道路などの構造物、鉄道車両などの状態監視など、さまざまなアプリケーションでご活用いただける可能性がある。

アナログ・デバイセズが注目するMEMS加速度センサーの用途 (クリックで拡大)

 人工知能(AI)技術の応用が本格化する中で、音声認識などユーザーインタフェース(UI)技術にも注目している。新たなUIの実現にアナログ・デバイセズの技術で貢献していきたい。


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提供:アナログ・デバイセズ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2017年9月21日

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