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心を組み込まれた人工知能 〜人間の心理を数式化したマッチング技術Over the AI ―― AIの向こう側に(15)(6/13 ページ)

» 2017年09月21日 11時30分 公開
[江端智一EE Times Japan]

よく考え抜かれた「ヤフオク」のシステム

 さて、オークションにもさまざまな種類があります。以下にまとめておきました。

 ここでは、この中でも、私たちにも親しみのある(1)ササビーズ*)などの公開入札の値上げ方式と、(2)ヤフオクのような封印入札の第二価格方式を例に説明をします。

*)現在も操業する世界最古の国際競売会社

 ヤフオクのシステムは、本当によく考えられています。特に「二位価格 + 自動入札」の仕組みは、至宝のメカニズムと言ってよいと思うのです。

 ヤフオクを試したことのない方に簡単に説明すると、ヤフオクでは、落札したい物品に対して、落札希望価格のお金を入力しておくと、その金額で落札されるのではなくて、別の入札者の最高価格に+100円して、システムが自動入札をしてくれるのです。

 例えば、現在入札価格が400円のモノに対して、私が、3000円までなら払ってもいいな、と思っていた場合、3000円とシステムに入力しておきます。ここで、600円の入札者が出てきた場合、私の入札価格は、システムが自動的に700円に変更します。

 もし、1600円の入札者が出てきた場合は、私の入札価格は、1700円となり、制限時間以内にそれ以上の値段の入札者が出てこない場合、私は3000円を支払う必要はなく1700円のみを支払えば良いことになります。

 これが「二位価格」です(一位価格は3000円)。この場合、私は、物品を落札した上に、ヤフオクで1300円(3000円−1700円)を「気持ちの上では」もうけたことになります。

 もっとも、3000円以上を提示してきた入札者がいれば、システムからメールが飛んできて「今の価格では落札できなくなりました」との連絡がきて、3000円以上での再入札をしなければ、私はこのオークションでの落札に失敗することになります。

 しかし、もし私が、3000円以上で購入した場合、落札できたとしても、「気持ちの上では」損したことになります。

 これ以外にも、普通のオークションと比べて、ネットオークションの優れた点には、

(1)正装してオークション会場に出掛ける必要がない
(2)顔を見たくもないような競合の入札者に、心にもないあいさつをする必要がない
(3)ゴミみたい出品物に破格の高値付けてしまって「相場を知らないバカ」のレッテルを張られることがない
(4)競売人から、「あの江端って奴、落札予想価格を、全然分かっていないシロウトだぜ」と冷笑されることがない、

などがあります。

画像はイメージです

 ネットオークションでは、PCから、入札希望金額を打ち込んで、放っておけば、(落札の成否にかかわらず)入札が完了する――。私たちのような忙しい現代人にとっては、それ自体がご褒美みたいなものです。

 ただ、ネットオークションと言えども、終了時間間際にPCの前にしがみついて、ついつい熱くなって、入札額を引き上げてしまったことがあります(自己嫌悪に陥ることが多々あり、先日、ヤフオクのエントリーを抹消しました(月額コストも掛かっていたので))。

 さて、このネットオークションですが、実は、「郵便入札オークション」という、郵便はがきを使った入札方式から発展したもので、切手とか古銭のオークションで、実際に行われていたそうです。ネットオークションとは、この郵便入札を、インターネットの環境で、大規模な入札者に対して、出品、入札、落札、支払までを、全てコンピュータシステムで行えるように自動化されたものです。

行動経済学を簡単に説明してみる

 では、最後に行動経済学について簡単に説明します。

 私、大学の一般教養で、経済学を受講したのですが、その講義のつまらなさに、吐き気をもよおしたのを覚えています(右のような図を見ると、今でも気分が悪くなります)。「こんな図の通りに、価格が決まっている事例があれば、そっちの実例の方を教えろ」と、あの当時の私ですら思いました。

 今回少し調べてみたのですが、どうやら、昔の経済学(古典経済学)には「経済心理」というような要素が入っていたようです。

 しかし、古典経済学から近代経済学に変わるとき(限界革命 1874年)、「人間の心理のような、バラバラで、統一的に取り扱いのできないようなものは、『ノイズ(雑音)』として取り除き、単純にロジカルに説明できるものにしよう」という動きがあって、このトレンドはケインズ(ケインズ革命 1936年)のころに確定し ―― で、当時の私のように、気分が悪くなる学生ができた、ということのようです。

 そして、ようやく最近になって「経済心理」が復活して、現在の行動経済学に至ったということです。

 行動経済学の内容については、以前簡単にお話しましたので、図だけ再掲しておきます。

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