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見守りサービス「otta」の見守りBLEビーコン端末開発の裏側開発に携わった関係者にインタビュー

ソリューション開発の裏側に迫る特設サイト「Renesas Solution Story」では2017年8月、このユニークな見守りサービスである「otta」(おった)の商用サービス開始に合わせて作られたBLEビーコン端末の開発経緯や、端末を実現したBLEソリューションについて紹介した。今回は、BLEビーコン端末の開発に携わった関係者に開発の苦労話やBLEソリューションへの要望などを語った様子を紹介する。

» 2017年09月22日 10時00分 公開
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商用サービスに向け新型BLEビーコン見守り端末を開発

 子どもが持つBluetooth low energy(以下、BLE)ビーコン端末からの信号を、街中に置かれた受信器や街の大人が持つスマートフォンで受信し、子どもを見守る。IoT(モノのインターネット)技術を使って、まさに“地域ぐるみで見守りネットワークを作り、子どもを見守る”という新しい見守りサービス「otta(おった)」の商用事業が2017年初めから始まった。

 ソリューション開発の裏側に迫る特設サイト「Renesas Solution Story」では2017年8月、このユニークな見守りサービスであるottaの商用サービス開始に合わせて作られたBLEビーコン端末の開発経緯や、端末を実現したBLEソリューションについて紹介した(関連記事:IoT技術を活用した見守りサービス「otta」を進化させたBLEソリューション)。今回は、株式会社ottaの社長を務める山本文和氏と、BLEソリューションを提供したルネサス エレクトロニクス(以下、ルネサス)、BLEビーコン端末開発をサポートしたテセラ・テクノロジー(以下、テセラ)の担当者に集まっていただき、開発の苦労話やBLEソリューションへの要望などを語ってもらったインタビューの模様を紹介する。

otta社長山本氏(写真中央)をはじめ、BLEビーコン見守り端末の開発に携わった関係者に集まってもらい開発の裏話を語ってもらった

 インタビューの模様を紹介する前に少しだけBLEビーコン端末の開発経緯を振り返っておく。

 ottaでは2015年5月から試作量産と位置付けるBLEビーコン端末を用いた実証実験を実施し、2016年年初には商用化のメドを付け、2017年年初からの商用事業開始を目指すことになった。同時に、商用事業開始に合わせて、新型BLEビーコン端末も投入することを決定。2016年当時に山本氏がまとめた新型BLEビーコン端末の開発コンセプトは次の通りだった。

  • 防犯ブザー機能の代わりに防犯ホイッスル機能を付ける。
  • 防犯ホイッスルらしく細長い形状の端末にする。
  • 市販のBLEモジュールではなく、カスタムでBLEビーコンボードを起こし、価格を実証用端末よりも低く抑える。
  • 電池寿命は最低1年以上(ビーコン発信周期:1秒)。
  • 電池はコンビニで販売している入手性の良いものにする。
  • 初期注文台数は20万台。
  • 2017年年初の商用サービスまでに量産を間に合わせる。

偶然の出会い

――2017年年初からの商用サービスに向けた量産型BLEビーコン端末の開発パートナー探しに苦労されたと聞いています。

開発した新型のBLEビーコン見守り端末「otta.w」

otta 山本文和氏 それまでの防犯ブザーの代わりにホイッスルを採用し、細長い形状の端末を目指したため、より小さなBLEモジュールが必要になりました。ですが、これに見合うモジュールがすぐには見つかりませんでした。初期発注台数で20万台という規模を計画していましたので、カスタムでボードを起こしてもコスト的に見合うと考えていました。そこで、BLEチップベンダーに問い合わせてみたのですが、チップとして売ってくれるベンダーがなく、チップの代わりに提案される市販モジュールもサイズやコストが見合いませんでした。

 そうした中で、たまたま知人から「ルネサスのイベントで、細長い端末にも収まりそうな1円玉サイズの小型BLEモジュールのデモを行っていたから、ルネサスに相談してみれば?」という勧めがあったので、ルネサスに問い合わせることにしました。

出会いのきっかけともなったIoT分科会が開発した1円玉BLEモジュールと、同モジュールを使用し2016年の「Renesas DevCon OSAKA」でデモを公開した時計型ウエアラブル端末 (クリックで拡大)

ルネサス 上原淳氏(インダストリアルソリューション事業本部グローバル営業統括部日系営業第四部第一課主任) 山本さんにお会いして相談を受けたのが、2016年4月でした。ルネサスとしては、BLEモジュールソリューションとともに、技術力のある顧客やパートナー向けにより小さい端末を作っていただくために、BLEチップソリューションも用意しています。山本さんから開発コンセプトを伺えば、ちょうどBLE対応RFトランシーバーを内蔵したマイコン「RL78/G1D」のチップソリューションが最適だと考えて提案させていただきました。

 同時に、山本さんにわれわれを紹介してくださった知人がご覧になった1円玉サイズの小型BLEモジュールのデモを作成した「IoT分科会」の参加企業でルネサスのパートナーであるテセラさんを紹介させていただきました。

otta 山本氏 このRL78/G1Dのチップソリューションであれば、ホイッスル型端末にも何とか収まるかなと思い、採用を決めました。本当にたまたま、偶然の出会いだったと思います。

出会いから半年で試作が完成

――採用を決められた後は、どういったスケジュールで開発を進められたのですか?

otta 山本氏 その相談の後から、テセラさんと仕様の打ち合わせを進めて、2016年6月には仕様が固まり、設計開発に着手しました。その後、2016年9月には試作品が手元に届きました。

――かなり速いスピードでの設計開発でしたね。

otta 山本氏 商用サービス開始を2017年年初と決めていましたので、少しでも早く開発したいという思いがありました。結果的には、実証用端末開発に比べて、約半分の期間で済みました。まあ、テセラさんなら、このスピードでできると開発当初から信じていましたが(笑い)

テセラ 江口浩司氏(営業部営業課) 仕様策定、開発期間が通常の開発案件より短めでしたので、多少、間に合うかどうか不安もあったというのが、本音です。けれど、IoT分科会を通じて、RL78/G1Dを使用したデモを開発していましたし、BLEや各種無線端末の開発ノウハウもありましたので、そこまで大きな不安というわけでもありませんでした。

――短期間で開発が行えた要因はどこにありますか。

テセラの江口氏と伊藤氏

テセラ 伊藤進太郎氏(営業部製品企画開発課課長代理) やはり、(IoT分科会の活動を通じて)開発実績があったということが大きかったですね。開発期間が延びる要因の1つがソフトウェア開発なのですが、RL78/G1Dの場合、ハードとソフトの切り分けがハッキリしているので、ハード開発と並行してソフト開発に着手し、開発期間を短縮できました。

 今回の端末には、ビーコン、電池残量表示、OTA(Over The Air)アップデートの各機能を実現するソフトウェアを用意する必要があったのですが、これら機能を実現するためのソフトウェアスタックやソフトウェア開発マニュアルも、ルネサスさんが用意されていました。これらのソフトウェアスタック、マニュアルの用意がなければ短期間で開発、量産できなかったと断言できます。

入手性の良い電池を模索

――開発で最も苦労されたことは?

otta 山本氏 最も議論に時間を費やしたのは、どの電池を使用するかという議論でしたね。

テセラ 伊藤氏 はい、電池については検討を繰り返しました。電池寿命を長くするには大きな電池容量が必要ですが、サイズも大きくなります。当初は、LR44を4個使って、動作電圧範囲1.6〜3.6VのRL78/G1Dを昇圧回路なしに駆動させることを検討しましたが容量が足りず、容量の大きいSR44の4個使いも検討しました。ただ、SR44は補聴器にも使われ家電量販店で入手できるものの、さすがにコンビニでは買えません。最終的には入手性を優先して、昇圧回路は必要になりますが単五型乾電池を採用することで落ち着きました。

――誰でも手軽に使える端末を目指す上で、コスト低減は重要な要素だったかと思います。

otta 山本氏 コストについても、実証実験用端末の3分の2以下と、当初のターゲット通りに抑えられました。

――コスト低減のためにどのような工夫を施しましたか?

テセラ 伊藤氏 部品を一括購入するなどさまざまな工夫を行っていますが、やはりコスト低減で大きかったのは、RL78/G1Dの集積度の高さでした。外付け部品が他のBLEチップに比べて少ないため、部品コストはもとより、組み立てやテスト工程を削減でき、品質も維持しやすく、トータルコスト低減に大きく貢献しました。

――どの程度、外付け部品を削減できるのですか。

ルネサス 佐藤浩一氏(ブロードベースドソリューション事業本部インダルトリアルA&P事業部ワイヤレス製品部) RL78/G1Dは、通常外付け部品で対応するアンテナ接続のためのマッチング回路(バラン回路)やDC-DCコンバーター回路を内蔵しています。特にバラン回路は設計ノウハウが必要で、コストの節減とともに設計の容易化という面でも貢献できます。

アンテナマッチング回路(バラン)内蔵によるメリット (クリックで拡大)

1年以上の電池寿命

――ビーコン発振周期1秒間隔で、1年以上の電池寿命という要件はクリアできましたか?

テセラ 伊藤氏 電池寿命は、14〜15カ月程度として設計しました。

otta 山本氏 商用サービスが始まり半年が経過しましたが、電池が切れたという報告は一切、ありません。RL78/G1Dの消費電力は以前に使用したBLEチップに比べて半分ぐらいしかなく、電池寿命に関しては、心配ないと思っています。

ルネサスの上原氏と佐藤氏

ルネサス 佐藤氏 RL78/G1Dは送信時の消費電流が極めて小さい(=4.3mA:0dBm時)という特長もありますが、ちょうど、ottaさんがRL78/G1Dをご使用いただくタイミングで、ビーコンモードソフトウェアスタックが完成したことが功を奏しました。

 このビーコンモードスタックは、電波を送信するだけというビーコンの使い方に特化したもので、受信に関わる電力消費をゼロにできるもので、ビーコンとして使用する際の消費電流を半分程度に下げることができます。こうした点でも、消費電力化に貢献できたと思います。

今後に向けて

――見守りサービス「otta」の今後や、見守り端末の今後の開発予定などをお聞かせください。

otta 山本氏

otta 山本氏 2017年6月から渋谷区の小学生や高齢者を対象にした実証実験も始まり、今後も順調にサービス提供エリアは拡大していく見通しになっています。そのため、2018年中には、初期ロットの20万台は底が尽きるとみています。

 見守り端末については、現状、子ども向けの端末になっていますので、高齢者向けの端末を開発する必要があり、高齢者に持っていただける機能、形状の端末を開発している最中です。もちろん、テセラさん、ルネサスさんと連携して開発しています。

 サービスとしても、現状は“どこどこに到着した”という事後通知が主体ですが、移動時間を学習し“いつもより移動時間が長くなっています”といった予知予防のアラートなども提供できるようにしていく予定です。

 全国の入学式でottaの見守りビーコン端末が配られるのが当たり前になる世界を目指していきます。

 今回の記事でご紹介した、「小型・省エネBluetooth low energy®対応マイコンRL78/G1D」の概要や評価ツール、ビーコン応用事例などご覧いただけます。

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Bluetooth low energyソリューション 紹介ページ

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ルネサス エレクトロニクスは2017年11月27日、製造装置に、異常検知機能や予防保全機能など、AI(人工知能)を活用したインテリジェント機能を容易に付加できる「AIユニットソリューション」を開発し、販売を開始したと発表した。

ルネサス エレクトロニクスは2017年10月27日、子会社であるIntersil(インターシル)の社名を2018年1月1日付で「Renesas Electronics America」に変更すると発表した。

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