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IoTを加速させる「ASURA Synergy」の特長と開発秘話Solution Story

ワイヤレスIoT端末の開発を、より短期間に、より簡単にする評価プラットフォーム「ASURA Synergy」が登場した。ASURA Synergyは、ルネサス エレクトロニクスの汎用マイコンプラットフォーム「Renesas Synergy」をベースに開発されているという。なぜRenesas Synergyをベースにし、どのように開発されたのか――。ASURA Synergyを開発した株式会社コアの開発メンバーと、ルネサス エレクトロニクスの担当者にインタビューした。

» 2018年02月19日 10時00分 公開
[PR/EE Times]
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開発者にインタビュー

 組み込みシステム開発ベンダーである株式会社コア(以下、コア社)は、組み込みシステム評価プラットフォーム「ASURA」の新シリーズとして、IoT(モノのインターネット)端末開発用途向けの「ASURA Synergy」を開発し、2017年11月に開催された展示会「Embedded Technology 2017」(以下、ET2017)で公開した(関連記事:ルネサスイベントレポート ET2017:「Renesas Synergy搭載のコア社製IoT評価ボードがデビュー」)。

出席者

株式会社コア
エンベデッドソリューションカンパニー

デバイスソリューション部:山岡隆伸氏 齋藤崇氏 橋本慎一氏 新野崇仁氏、営業統括部:利根川昌弘氏


ルネサス エレクトロニクス株式会社
ブロードベースドソリューション事業本部

グローバル営業統括部/日系営業技術部:西原貴文氏 漆間耕治氏、Synergyプラットフォーム事業部/ソリューション開発部:尾澤功氏 宮本玲実氏


 ASURA Synergyは、ルネサス エレクトロニクス(以下、ルネサス)の汎用マイコンプラットフォーム「Renesas Synergy™」をベースに開発されているという。ASURA Synergyは、どのような特長を持った開発プラットフォームなのか。また、なぜRenesas Synergyを採用し、どのように開発されたのか。コア社でASURA Synergyの企画を担当した利根川昌弘氏や開発を担当した山岡隆伸氏、さらにRenesas Synergyを提供する側のルネサスの関係者にも集まってもらいインタビューを行った(コア社出席者の発言はコア、ルネサス側の発言はルネサスと表記)


質の高いソフトウェアを一緒に提供してきた「ASURA」

――今回、製品化された「ASURA Synergy」について、ご紹介ください。

コア コア社では7年ほど前より、機器開発メーカー向けの開発ソリューションとして、さまざまなマイコン/プロセッサを搭載したリファレンスプラットフォーム製品群「ASURAシリーズ」を展開してきました。

「ASURA Synergy」。メインボードの他、さまざまな通信機能、インタフェースを追加できる拡張IoTボードが用意されている

 ASURAシリーズの大きな特長は、さまざまな機能を搭載したマイコン/プロセッサボードとともに、質の高いソフトウェアを一緒に提供する点にあります。マイコン/プロセッサベンダーからもソフトウェアが提供されていますが、その多くはあくまで評価用の"とりあえず動く"というソフトウェアであり、そのまま最終製品に使用することは基本的に不可能です。

 そこで、ASURAシリーズは、サードパーティが提供しているリアルタイムOSやミドルウェアなどを組み合わせ、最終製品に搭載可能な質の高いソフトウェアを、ボードとともに提供します。ASURAシリーズを使えば、ソフトウェアの開発、評価に費やす時間、労力を短縮できるわけです。

 ASURAシリーズには、表示系やネットワーク系の制御ユニット向けの製品群とともに、ネットワーク機能やセンサー用インタフェースがIoT(モノのインターネット)に適した製品群の2種類があり、今回、製品化したASURA Synergyは、IoT向けASURAシリーズの1つです。

 そして、ASURA Synergyの名前が示す通り、Renesas Synergyをベースにしています。

ASURA Synergyのベース「Renesas Synergy」とは?

――ASURA Synergyのベースになった「Renesas Synergy」とはどのようなものなのでしょうか。

ルネサス 商材となるもの(ハードウェアデバイス)は"汎用マイコン"そのものなのですが、従来のルネサスのマイコンファミリとRenesas Synergyは大きく異なります。最大の特長はマイコンというデバイスよりむしろ、それを動作させる基本ソフトウェア群を中心に考えていることです。

 先ほど、利根川さんが話されたように、マイコンメーカーが提供するソフトウェア、特に無償で提供されるものは、マイコンを評価するためのいわゆるリファレンスソフトウェアでした。ルネサスとしても、各マイコンファミリ用のリファレンスソフトウェアを提供してきました。もちろん、ユーザーの方が、場合によってはこのリファレンスソフトウェアをそのまま、最終製品用として組み込んで使用しても構わなかったのですが、その動作は保証せず、あくまで「お客さまの責任でご使用ください」という提供形態でした。

 一方、Renesas Synergyでは、SSP(Renesas Synergy Software Package)と呼ぶ、マイコンの動作に必要な基本的なソフトウェア一式をルネサスが品質保証する形で提供しています。この点が、これまでのマイコンファミリと大きく異なる点です。このSSPは、リアルタイムOSをはじめ、BSP(Board Support Package)、HAL(Hardware Abstraction Layer)ドライバ、基本的なミドルウェアやアプリケーション・フレームワークなどを含みます。ルネサスが動作を保証しますので、ユーザーは安心して最終製品にそのまま使用することができます。この結果、最終製品の差別化には寄与しないマイコンの基本動作に係るソフトウェア部分の開発がほとんど不要になるため、本来時間を割きたいアプリケーションの開発に集中でき、開発期間の短縮にもつながります。

 このSSPを中心に、Arm®コアベースでスケーラビリティを備えたマイコン、ソフトウェアツールおよび評価・開発用キットなどの開発環境、ソリューションと呼ぶ実際の製品開発例、SSPやツールを含む各種ソフトウェアをダウンロードするための専用WEBサイトなどの要素をすべて含めて、「Renesas Synergy プラットフォーム」と定義しています。

IoT端末開発を加速させるために

――最終製品にも使える品質保証されたソフトウェアをユーザーに提供するというコンセプトは、ASURAシリーズ、Renesas Synergyとともに同じですね。

コア はい、コンセプトは同じです。今回、Renesas Synergyをベースにして、“質の高いソフトウェアを提供するASURAシリーズ”を実現したわけです。

――Renesas Synergyをベースにした開発プラットフォームであれば、どれも"質の高いソフトウェア"が提供されることになります。これまで、コア社がメーカーに代わって、質の高いソフトウェアを提供するという特長で評価されてきたASURAシリーズの魅力が失われたように思えます。実際、ルネサスもさまざまなRenesas Synergyの開発ボードを発売しています。なぜ、ASURA Synergyを製品化されたのですか。

コア われわれコアは、40年以上、組み込みハードウェア/ソフトウェアの受託開発を主力事業として展開してきています。その中で、最近、Renesas Synergyベースの開発依頼が増えてきていました。そうしたニーズに応えるためにも、Renesas Synergyベースの開発プラットフォームが必要だという思いで製品化に至りました。

 われわれは、ASURA Synergy、それを使った受託開発、さらには開発評価後の量産移行サポートまでを一貫して提供することで、ユーザーのIoT端末開発をより加速できると考えています。

ルネサス ASURA Synergyには大きな魅力があり、Renesas Synergyの普及拡大に大きく貢献するものとして、期待を寄せています。

 そもそも、ルネサスが提供している開発ボードとASURA Synergyは、大きく異なります。その違いを端的に言えば、「ASURA Synergyは、より最終製品に近い開発プラットフォーム」といえるでしょう。

 利根川さんが話されたように、ハードとソフト両面で量産まで一貫してコア社がサポートを提供できる点も魅力の1つですし、ボードとしての完成度の高さも魅力です。ルネサスが提供している評価・開発ボードには、ASURA Synergyのように、そのままIoT端末に組み込んで製品化できるような小型サイズのものは現状ありません。

IoT端末に必要な機能を備える

――もう少し、ASURA Synergyの特長を教えてもらえますか。

コア IoT端末に必要な多くの機能をカバーしています。通信/ネットワーク機能として、Wi-Fi、Bluetooth®を搭載している他、拡張ボードによりEthernetや3G/LTEにも対応できます。また、温湿度センサーや加速度/ジャイロセンサーを内蔵している他、各種センサーを取り付けられるようにI2C、SPI、UARTなどのI/Oを豊富に備えています。なお小型PCボード「Raspberry Pi®」用の拡張ボードも使用できます。

ルネサス ASURA Synergyは、ピン数の異なるRenesas Synergyマイコンも同一ボードに実装できるように工夫されている点も、われわれルネサスの評価・開発ボードにはない特長ですよね。

コア はい。ASURA Synergyは、Arm® Cortex®-M4コアを搭載したRenesas Synergyマイコン「S5シリーズ」の中のS5D5グループの144ピン品を標準として搭載し提供します。ただ、S5シリーズ以外にも、同一コアで下位に位置する「S3シリーズ」やCortex®-M0+コア搭載の「S1シリーズ」の144ピン品、または、64ピン品を、ボードの設計変更なしに、実装することができます。カスタム対応にはなりますが、ユーザーからのご要望に応じてS5D5以外のRenesas Synergyマイコンを搭載したASURA Synergyを提供する予定です。

ルネサス Renesas Synergyは、どのマイコンでもSSPは共通で使用できるスケーラビリティも特長ですが、開発に使用する実際のターゲットデバイスで、評価、開発したいという要望を持つユーザーも多いので、重宝される特長だと思います。

――ASURA Synergyの魅力は理解できましたが、Renesas Synergyで提供されるソフトウェアのライセンス費用が気になります。商用OSなどでは、ライセンス初期費用として百万円以上のコストが必要ですよね?

ルネサス これもRenesas Synergyプラットフォームの大きな特長なのですが、SSPは、マイコンを購入するだけで、無償かつライセンス数無制限に使用することができます。SSPには、米国Express Logic社の商用リアルタイムOS「ThreadX®」や、ThreadX上で動く同社の各種ミドルウェア「X-Ware™」も含まれますが、ルネサスがExpress Logic社と包括的なライセンス契約を結んでいますので、ユーザーは個別の契約を結ぶことも、ライセンス料を支払う必要もありません。極端な話ですが、マイコン1個でも、マイコン1個の購入金額だけで、ThreadXの正規ライセンスを取得し、使用できるわけです。もちろん、ASURA Synergyのユーザーも同様です。

コア これまでのASURAシリーズでは、ユーザーと各パートナー企業の間で個別にライセンス契約が必要で、時間もコストも人手もかかっていました。ASURA Synergyでは、そうした面倒な契約作業がなくなるため、大幅に開発期間を短縮できます。

1カ月かかるソフトウェアの調整が、不要に!

――少し話は変わりますが、コア社さんは、今回、Renesas Synergyプラットフォームを使用して、ASURA Synergyという最終製品を開発されたとも言えますよね? Renesas Synergyプラットフォームの使い心地は、いかがでしたか?

コア ポーティングを担当したのですが、これまでのマイコンベンダーが提供するソフトウェアとRenesas SynergyのSSPとは段違いで、非常に開発が楽だったというのが、率直な感想です。

――どの程度、開発が楽になったのですか。

コア 2017年11月に開催された展示会「Embedded Technology 2017」(以下、ET2017)でASURA Synergyを初めて公開したのですが、実は、ASURA Synergyのハードウェア(ボード)が完成したのは、開催1週間前でした。通常、OSのカーネルを動かすだけでも、ボード依存の要素をつぶす作業に追われ1カ月程度はかかります。

 いくらRenesas SynergyのSSPが検証済みとはいえ、「さすがに1週間では、ポーティングが間に合わず、実際に動作するデモを見せることは無理だろう」と正直なところ思っていました。

 しかし、実際にポーティングを行ってみると、マイコンの基本動作の部分はほとんど何もせずに完全に動かすことができ、余裕を持ってET2017で動作デモを披露することができました。

たった1週間のうちに、機能追加も!

――ET2017では、センサーでの検知の様子を有機ELディスプレイでメータを模したグラフィックス表示で見せるデモを公開されましたが、こうしたアプリケーションの開発も1週間で行われたのですか。

コア はい、そうです。

 今回、I2Cインタフェースのセンサーを取り付けたのですが、従来必要だったI2Cドライバの開発が不要で、単純なセンサーのアプリケーション開発だけで済みました。IoT端末は多くのセンサーを取り付けるため、いちいちインタフェースドライバを開発するのは手間になります。Renesas Synergyは、多くのIoT端末開発現場に向く開発プラットフォームだと実感しました。

 有機ELディスプレイでのグラフィックス表示も、SSPに含まれるX-Wareの1つであるGUIミドルウェア「GUIX™」を使用し、さらにこれもRenesas Synergyプラットフォームの一部として無償で提供されているGUIX用のオーサリングツール「GUIX Studio™」がありましたので、短期間で開発できました。

ルネサス GUIXは現状、LCDコントローラへの出力が前提となっているはずですが、この有機ELディスプレイはSPIで接続されていますよね?

コア はい、GUIXを使用しつつ、SPIに出力できるように工夫を行いました。今回の開発でこの部分が最も時間がかかった部分かもしれません。とはいえ、いつも展示会前は、デモ用アプリの開発で夜遅くまで作業することがほとんどでしたが、今回はそういったことがありませんでした。

ルネサス ちなみに、ET2017のデモとは直接関係はありませんが、拡張ボードに搭載したEthernetインタフェースやSDカード・インタフェースの動作をいち早く確認したかったため、コアさんからASURA Synergyの試作品をお借りしました。こちらのケースでは、GUIXと同じくX-Wareに含まれるEthernet用のTCP/IPスタック「NetX™」や、ファイルシステム「FileX®」などを用いることで、これまでソフトのポーティング完了までは難しかった評価がすぐに始められ、実質1時間程度で問題なく完了できました。

コア社ブースで展示された「ASURA Synergy」と「Rainbow HAT」を組み合わせたデモ

ルネサス また、ET2017のコアさんのブースには弊社側で準備したASURA SynergyとRainbow HAT*) を組み合わせたデモも一緒に展示させていただいたのですが、実はこのデモはプログラム経験のほとんどない新人に作らせたものです。

 もちろん新人ですのでデバイスの仕様理解などにはある程度の時間が必要でしたが、その後のソフトのコーディングについては本当に短期間でスムーズに完了し動作させることができました。経験の浅いユーザーでもRenesas Synergyであればソフトウェアの実装が簡単にできるという良い例だと思います。

*)Raspberry Pi®用として市販されている拡張基板の1つ。

1度使ってみれば、その良さを実感できる!

――ET2017での来場者の反応はいかがでしたか。

コア 詳しくはお話しできませんが、多くの引き合いがありました。

 ただ、披露した動作デモは、最先端テクノロジーを紹介するものではなく、見ただけでは、ありふれたテクノロジーとしか、来場者には伝わりません。今回のデモのすごさは、そこに至る開発プロセスであり、そこをどう伝えていくかは課題として残りました。

ルネサス Renesas Synergyプラットフォームの普及を図る上でも、同じ課題を抱えています。

コア Renesas Synergyプラットフォームは1度使ってみれば、その良さを実感できるものであることは確かです。ASURA Synergyを通じて、Renesas Synergyプラットフォームに触れていただく機会を増やしていければと思います。

左から、宮本氏、西原氏、尾澤氏、齋藤氏、新野氏

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提供:ルネサス エレクトロニクス株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2018年3月18日

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ルネサス エレクトロニクスは2017年11月27日、製造装置に、異常検知機能や予防保全機能など、AI(人工知能)を活用したインテリジェント機能を容易に付加できる「AIユニットソリューション」を開発し、販売を開始したと発表した。

ルネサス エレクトロニクスは2017年10月27日、子会社であるIntersil(インターシル)の社名を2018年1月1日付で「Renesas Electronics America」に変更すると発表した。

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