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NECとパナの実例で読み解く、コーポレートベンチャリングの難しさイノベーションは日本を救うのか(25)(4/4 ページ)

» 2018年05月21日 11時30分 公開
[石井正純(AZCA)EE Times Japan]
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ベンチャーキャピタル「成功」の定義

 企業の場合、トップが変わると、戦略や方針がかなり変わる。言い換えれば安定性がないということで、米国での新規事業開拓という話に限れば、これはあまりいいとはいえない。新規事業開拓を成功させるには、いったん走り方を決めた後は、腰を据えて、ある程度長年のコミットメントは必要だ。

 それを考えると、日本の大企業がCVCを設立するのは、現時点では不安定な要素が多いようにもみえる。パナソニックのPDCCにも、ベンチャー企業が数多く入居していたのだが、投資としてのホームランはいくつかあったが、事業上のホームランは果たしていくつあったか、問われるところである。

 ここであらためて考えたいのが、事業会社がCVCなどの枠組みを使って新規事業開拓を目指した場合の成功の定義だ。

 ファイナンシャルな意味でのベンチャーキャピタルの成功は、設立から5年くらい経過した時点で、全体的なポートフォリオとして眺めたときに、現金化(IPO(株式公開)や売却などで、投資した資金が戻ってくる)、非現金化を含め、内部収益率が20%くらい達成すれば上出来、ということだ。例えば、投資した10社の内部収益率の合計が20%くらいあれば、ベンチャーキャピタルとして「成功」と考えてよいだろう。

 そういう意味では事業会社の“成功の定義”は、ベンチャーキャピタルファンドのそれとは大きく異なるのである。ベンチャーキャピタルファンドに投資して、財務的に見れば成功した(つまり、金銭的に設けることができた)が、事業戦略的には成功しなかった、という事例も実に多くある。事業会社の場合は、投資先や投資はしなかったがディールフローにあるベンチャー企業との戦略的提携は新事業創出の出発点だ。

 もちろん、NECやパナソニック以外にもCVCを行った日本企業はあるが、失敗しているところは実に多い。さらに、シリコンバレーに進出した日本のベンチャーキャピタル会社も、そのほとんどが撤退した。

 ただ、ここ数年を見ていると、日本企業によるCVC設立の流れがまた始まっている。パナソニックベンチャーズの設立が、その一例だろう。また2000年以降シリコンバレーでCVCを仕掛けて大やけどした日立製作所も再挑戦しようとしている。

 筆者のところにも、また多く相談がくるようになってきた。筆者としては、そうしたチャレンジ精神はもちろん応援したい。だが、1990年代からの一連の流れを見てきた者として、「ハコだけ作っても、必ずしもうまくはいきませんよ」と、しっかりアドバイスすることも、筆者の重要な仕事だ。そして、それではどうしたら失敗の確率を最小限に留められるかについての的確なアドバイスを提供することも筆者の責任と心得ている。


「イノベーションは日本を救うのか 〜シリコンバレー最前線に見るヒント〜」連載バックナンバー


Profile

石井正純(いしい まさずみ)

日本IBM、McKinsey & Companyを経て1985年に米国カリフォルニア州シリコンバレーに経営コンサルティング会AZCA, Inc.を設立、代表取締役に就任。ハイテク分野での日米企業の新規事業開拓支援やグローバル人材の育成を行っている。

AZCA, Inc.を主宰する一方、1987年よりベンチャーキャピタリストとしても活動。現在は特に日本企業の新事業創出のためのコーポレート・ベンチャーキャピタル設立と運営の支援に力を入れている。

2005年より静岡大学大学院客員教授。2012年より早稲田大学大学院ビジネススクール客員教授。2006年より2012年までXerox PARCのSenior Executive Advisorを兼任。北加日本商工会議所(2007年会頭)、Japan Society of Northern Californiaの理事。文部科学省大学発新産業創出拠点プロジェクト(START)推進委員会などのメンバーであり、NEDOの研究開発型ベンチャー支援事業(STS)にも認定VCなどとして参画している。

2016年まで米国 ホワイトハウスでの有識者会議に数度にわたり招聘され、貿易協定・振興から気候変動などのさまざまな分野で、米国政策立案に向けた、民間からの意見および提言を積極的に行う。新聞、雑誌での論文発表および日米各種会議、大学などでの講演多数。共著に「マッキンゼー成熟期の差別化戦略」「Venture Capital Best Practices」「感性を活かす」など。


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