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パワーエレクトロニクス最前線 特集

SiC-MOSFETを活用した4象限電源、理研などが開発X線自由電子レーザーの利用拡大

理化学研究所(理研)とニチコンらの共同研究グループは、SiC(炭化ケイ素)-MOSFETを用いることで、高い出力と安定性を両立させつつ、出力電流の方向や大きさを広い範囲で変更できるパルス電源を開発した。

» 2018年06月20日 09時30分 公開
[馬本隆綱EE Times Japan]

 理化学研究所(理研)とニチコンらの共同研究グループは2018年6月、SiC(炭化ケイ素)-MOSFETを搭載したパルス電源を開発したと発表した。この電源は、高い出力と安定性を両立させつつ、出力電流の方向や大きさを広い範囲で変更できることから、X線自由電子レーザー(XFEL)の利用時間を拡大することが可能となる。

 今回の成果は、理研放射光科学研究センターXFEL研究開発部門の田中均部門長と高輝度光科学研究センター光源基盤部門加速器機器グループの近藤力主幹研究員および、ニチコンNECST事業本部応用機器グループの森威男ビジネスグループ長らの共同研究によるものである。

電子ビーム振り分ける電磁石向け

 理研放射光科学研究センターは、XFEL施設「SACLA」に設置された電子ビーム振り分け電磁石用の電源に、最新のSiC-MOSFETを適用した。XFELを同時に複数のビームラインに供給可能とするためである。

 研究グループによれば、これを実現するために、「60Hzの繰り返しで運転可能」「60Hzの繰り返しごとに任意のパターンで運転が可能」「0.24MW(電圧1kV、電流240A)の定格出力電力」「電流240A時の変動量が0.002%以下」「出力電流範囲は−240〜240A」といった仕様がパルス電源に求められるという。

 従来の共振回路やPFN(Pulse Forming Network)を用いたパルス電源では、これらの仕様を全てクリアすることは難しかった。任意に電流パターンを制御するには4象限電源が適しているが、現行技術では広い範囲で電流の安定性を確保するのが難しかった。ところが、特性に優れたパワー素子を用いると、4象限電源の最大出力電力や電流の安定性を改善することができるという。

 そこで研究グループは、4象限電源にSiC-MOSFETを適用した。耐圧が1kV以上で100A以上の電流を100kHz以上の周波数でスイッチングできるSiC-MOSFETを用い、2直列5並列に接続されたチョッパー回路でスイッチング制御し、任意のパルス電流波形を60Hzの繰り返しで生成する。さらに、出力電流をモニターしながら、参照波形と一致するようにフィードバック制御を行う。入力電圧は3相交流420Vである。

開発した電源の系統図 出典:理研

 また、ゼロ電流付近で不安定となる電源動作の課題を解決するため、余剰電流を通過させるバイパス回路を新たに導入した。これによって一定量以上の制御電流を確保することができるという。さらに、稼働するユニット数を削減し、ユニット1台の出力電流の下限を制限した。この結果、低出力電流時でも電源の安定動作を実現した。

パターン運転における電流値の分布。全幅で0.002%の安定度を確認 出典:理研

 理研はSACLAに今回の研究成果を導入した。XFELのパルス振り分け運転でレーザー品質が向上し、全ての実験に適用したことでXFELの利用効率が拡大したという。なお、パルス電源の作製はニチコンが担当した。外形寸法は高さが2.7m、幅3m、奥行き1mである。

開発したパルス電源本体と主要回路部およびチョッパーユニットの内部 出典:理研

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