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日本の製造業が「モノ」から「コト」へ移行するための必要条件大山聡の業界スコープ(8)(2/3 ページ)

» 2018年08月10日 09時30分 公開

消費者ニーズは「モノ」から「コト」へ

 われわれがスマホを必要としているのは、スマホを活用したサービスを求めているわけで、スマホの所有台数は増えなくても、その活用範囲は確実に広がりつつある。これはスマホを活用したサービスがどんどん増えているためで、この中にはIoT関連のサービスも多く含まれている。例えば車載情報システムがスマホとつながることで、クルマをネットに接続できる。ウェアラブル機器とスマホがつながることで、ウェアラブル機器からの情報をネットに乗せることができるようになる。今までネット接続していなかったモノをつなぐ、すなわちIoTを活用するために、サービス提供者はスマホで作動できるアプリをユーザーに提供しようしているのである。

e-Palette Concept 「2018 International CES」でトヨタが発表した「e-Palette Concept」 (クリックで拡大)

 ここではスマホを例にとって「消費者ニーズがモノからコトへ移行している」ことに触れたが、自動車業界でもモノからコトへの動きが認められる。

 例えばトヨタ自動車は2018年1月、米国ラスベガスで開催された「2018 International CES」で、移動や物流、物販など多目的に活用できるモビリティサービス(MaaS:Mobility as a Service)への注力を宣言。電気自動車(EV)プラットフォーム「e-Palette Concept」を発表した。MaaSはトヨタに限らず、大手自動車メーカーがこぞって注力し始めた新分野で、自動車業界の在り方を大きく変えていく可能性がある。

すり合わせが得意な国内製造業は「コトづくり」に移行できるのか?

 これまで日本の製造企業の多くは、モノづくりにおいて世界市場で高く評価され、そのブランド力を維持してきた。これは極めて誇らしいことではあるが、PC、スマホ、デジタル家電などの市場においてシェアを落とし、収益を悪化させ、撤退や縮小を余儀なくされていることも事実である。水平分業か垂直統合か、といった議論も盛んに行われたが、グローバル化した機器市場で求められたのは膨大な設計リソースと製造の効率化であり、日系各社が得意としていた「すり合わせ型」の手法は不向きだった、と言わざるを得ない。

 電機大手8社を例に取れば、各社にDNAのごとく染み着いた「すり合わせ型」の手法をいまさら変えることもままならず、このスタイルを維持したままB2C(Business to Consumer)事業を縮小させてB2B(Business to Business)事業へ注力する、といった措置が散見される。

 だが、筆者として各社に注目したいのが「モノづくり」から「コトづくり」に移行できるか、という点である。つまりハードウェア製品の販売だけでなく、そのハードを活用したサービスを事業として展開できるかどうかだ。「わが社のハード製品は他社に追随されない自信がある、ハードの販売だけで20%以上の営業利益を確保できる」という場合はそれでもよい。しかし、そのような事例にはなかなかお目にかかれないだろう。やはり顧客が自社のハードで何をしようとしているのか、そこに何らかの付加価値を提供できないか、と考えざるを得ないのが昨今の流れと思われる。

 特にB2B事業であれば、B2Cに比べて顧客の状況は詳細に把握しやすいので、顧客が何を求めているか、製品だけでなくどんなサービスを提供できるか、などを明確にできるかもしれない。しかし顧客によってニーズは異なるはずで、その全部に対応するのは事業として成り立たない危険性がある。したがって、提供すべきサービスをメニュー化しておくことがどうしても必要となるのだ。

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