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» 2018年12月26日 11時30分 公開

福田昭のデバイス通信(174) Intelの「始まり」を振り返る(7):Intelの創業5年目(後編)、腕時計メーカーになったIntel (2/2)

[福田昭,EE Times Japan]
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電子式腕時計の開発ベンチャーを買収

 1972年におけるIntelの活動で特筆すべきは、企業買収を実施したことだろう。電子式腕時計の開発ベンチャーであるMicroma(Microma Inc.)を1972年7月に買収し、子会社としたのだ。

電子式腕時計の開発ベンチャーであるMicroma(Microma Inc.)の概要。Intelの年次報告書(アニュアルレポート)を基に作成(クリックで拡大)

 1972年の当時は、ゼンマイを手巻きあるいは自動巻きするタイプの機械式腕時計が一般的だった。そして腕時計は「高価」であり、「憧れ」の商品でもあった。私事で申し訳ないのだが筆者には、中学校への入学記念(まさに同じ年、1972年4月のことだ)に、日本製の自動巻き腕時計を親から贈ってもらった記憶がある。価格は数万円はしたはずだ。5万円には達していなかったと思う。それにしても昭和47年の時点で数万円の商品が安くないことは確かだ。

 Micromaが目指したのは、高価な機械式の腕時計を安価な電子式の腕時計で置き換えることである。同社が開発する電子式の腕時計では、時間の決定に水晶振動子を使い、時間の表示に液晶ディスプレイ(LCD)を使い、ムーブメント(制御)に低消費電力のCMOS集積回路を使う。

 この構成は、現在では「クオーツ式」と呼ばれる、ごく普通の腕時計であることが分かる。クオーツ式の腕時計は、ディスカウントストアや家電量販店などで安いものでは1000円に満たない価格で購入できる。その意味では、Micromaが低価格化を狙ったことは、先見性があったといえるかもしれない。

 「かもしれない」といささか弱い表現をしたのは、当時はMicroma以外にも、水晶振動子を使った電子式の腕時計を開発している企業が数多く存在したからだ。水晶振動子を時計に使うと、機械式に比べて誤差が大幅に減ることは既に分かっていた。機械式の時計は1日で数秒の誤差が生じるのに対し、水晶振動子を使った時計は1カ月の誤差が約10秒にすぎない。水晶振動子の威力は圧倒的だった。

Microma社が開発した電子式腕時計の実物。液晶ディスプレイを使わないモデルもあることが分かる。筆者が2017年6月に米国カリフォルニア州サンタクララの「インテルミュージアム」で撮影したもの(クリックで拡大)

 Intelの年次報告書によると1971年当時、全世界の腕時計市場は2億台ほど。そして約10年後の1980年には、腕時計市場は3億台に拡大すると予測していた。この腕時計市場に、30米ドルと価格を破壊的に下げた電子式の腕時計を投入することで、1980年の腕時計市場の約3分の1、すなわち1億台を電子式で置き換えられると考えた。このもくろみがどのような展開を見せたのかが分かるまでには、もうしばらく待つ必要がある。

次回に続く)

福田昭のデバイス通信【Intelの「始まり」を振り返る】記事一覧
創業1年目 研究開発主体で売り上げは「ゼロ」
創業2年目 初めての製品売り上げを計上するも赤字は拡大
創業3年目 売り上げが前年の11倍に急増して赤字が縮小
創業4年目 半導体メモリのトップベンダーに成長
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創業5年目 収入が前年の2.5倍に、初めての営業黒字を計上
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創業7年目 「シリコン・サイクル」の登場
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