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Neuromorphicがブレイクする予感 ―― メモリ国際学会と論文検索から見える動向湯之上隆のナノフォーカス(13)(3/3 ページ)

» 2019年05月30日 11時30分 公開
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パナソニックのReRAM

 IMW2019では、パナソニックの三河巧氏が、“Neuromorphic computing based on Analog ReRAM as low power solution for edge application”のタイトルで招待講演を行った。その論文の図を使って、Neuromorphicの動作を説明する(図6)。

図6:Neuromorphicの動作原理 出典:Takumi Mikawa(IMW2019)

 図6のReRAMの素子は、上部電極と下部電極および、それらに挟まれたTa2O5とTaOXの層から形成されている。この素子の上下の電極間に、電圧を印加すると、Ta2O5層に導電性のフィラメントが形成される。そのフィラメントのサイズは、電圧に応じて変わるため、読み出し電流値をアナログ的に変えることが可能になる。

 つまり、Neuromorphicとは、一種のアナログメモリであると言える。このアナログ的な特徴を利用して、集積した素子により深層学習機能を実現し、脳型コンピュータを形成しようとしている。

 パナソニックは、このメモリを“RAND(Resistive Analog Neuromorphic Device)”と称し、ロジック半導体に混載して、デジタル家電などに搭載する模様である。その半導体は、台湾のファンドリーUMCが、小規模ではあるが量産しており、「今後は、他社にもRANDのIPを公開する」と三河氏から聞いた。

いつNeuromorphicが爆発的に普及するか

 論文調査をうまく行うと、非常に面白い法則を導き出すことができる。図7は、半導体のトランジスタ周りの技術に関する論文調査の結果である。

図7:論文調査から導き出される法則 (クリックで拡大) 出典:有門経敏「論文分析セミナー」(NTTデータ数理システム主催、2017年6月29日)を引用

 例えば、High-k/メタルゲートに注目すると、2000年前あたりから論文数が急増し、約10年たった2008年に、Intelが45nmのプロセッサに量産適用した。

 論文が急増し、約10年でピークアウトすると、その技術が量産に使われる。この“法則”は、歪みSi、Ge FET、FinFETにも、おおむね当てはまる(なお、この“法則”を発見したのは、Tech Trend Analysis代表の有門経敏氏である)。

 この図に、Neuromorphicの論文数を書き加えてみた。すると、その論文数の挙動は、High-k/メタルゲートの途中経過に酷似していることが分かる。そのため、あと5年もすると、Neuromorphicが爆発的に普及することが期待できるのだ。

 ある大学教授の知人が昨年、「もう5年もすると、スマホにNeuromorphicが搭載されているかもしれない」と言った。この傾向を見ると、あながち冗談とは言えなくなってきた。来年、2020年のIMWは、ドイツのドレスデンで開催される。それに参加するのが、今から楽しみである。

(次回に続く)

⇒連載「湯之上隆のナノフォーカス」記事一覧

筆者プロフィール

湯之上隆(ゆのがみ たかし)微細加工研究所 所長

1961年生まれ。静岡県出身。京都大学大学院(原子核工学専攻)を修了後、日立製作所入社。以降16年に渡り、中央研究所、半導体事業部、エルピーダメモリ(出向)、半導体先端テクノロジーズ(出向)にて半導体の微細加工技術開発に従事。2000年に京都大学より工学博士取得。現在、微細加工研究所の所長として、半導体・電機産業関係企業のコンサルタントおよびジャーナリストの仕事に従事。著書に『日本「半導体」敗戦』(光文社)、『「電機・半導体」大崩壊の教訓』(日本文芸社)、『日本型モノづくりの敗北 零戦・半導体・テレビ』(文春新書)。


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