メディア

米中が覇権を争う今、日本企業は中国と提携するチャンス大山聡の業界スコープ(18)(2/2 ページ)

» 2019年06月04日 11時30分 公開
前のページへ 1|2       

最大の武器「情報」を巡る「何でもあり」の覇権争い

 実際に中国政府は、かつて採用していた欧米製の通信インフラシステムを排除し、HuaweiやZTEなど中国製のシステムに入れ替えてきた実績がある。特にスノーデン事件*)が発生した2013年以降、中国は米国政府に対する警戒心を強め、欧米製通信システムの排除を加速させた、という見方もあるようだ。

*)スノーデン事件:元・米中央情報局(CIA)職員のEdward Snowden(エドワード・スノーデン)氏が、米国家安全保障局(NSA)が「米電話会社の通話記録を毎日数百万件収集し、大手IT企業も個人情報収集に協力していた」と暴露した事件。世界38カ国/地域の大使館や代表部、メルケル独首相、欧州連合や国連本部が盗聴、監視対象だった疑惑も浮上した。

 世界における覇権争いを繰り広げる米国と中国にとって「情報」は最大の武器であり、情報戦で優位に立つためには「何でもあり」という姿勢で臨んでいるのは間違いないだろう。

画像はイメージです。

 実は、Huawei排除の動きは米国よりもオーストラリア政府の動きの方が早かったようだ。オーストラリアは2018年初頭の段階で、「あらゆる種類のサイバー攻撃ツールを使って、対象国の5G網の内部機器にアクセスできた場合、どのような損害を与えることができるか」というシミュレーションを行っていた。

 その結果、オーストラリアが攻撃対象となった場合、非常に無防備な状態になること、5Gがスパイ行為や重要インフラに対する妨害工作に悪用されるリスクが非常に大きい、という結論が導かれ、オーストラリアは機密情報を共有するファイブアイズ(米国、英国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド)に対して報告を行った。興味深いのは、当初はこの報告に対する米国の反応が鈍く、重要性に気付いたのはしばらく時間が経ってからだった、という点である。今でこそ米国は先陣を切ってHuawei排除運動を展開しているが、米国が中国を叩くために最初から音頭を取っていた、「親(=中国)が憎けりゃ子(=Huawei)も憎い」のが本音だ、と決めつけるわけにはいかないようである。

米国の方針に追随するしかないないのか

 2018年8月、米国は「国防権限法」を成立させ、Huawei、ZTEを含む中国5社から政府機関が製品を調達するのを2019年8月から禁じる。2020年8月からは5社の製品を使う企業との取引も打ち切る、という方針で、Huaweiをはじめとする中国企業を徹底的に攻撃する意図がうかがえる。さらに米国は、自国の半導体メーカー各社やGoogleに対して、Huaweiへの半導体やソフトウェアの供給を凍結するよう呼びかけている。HuaweiのスマホにSoCを供給しているQualcomm、同社のデータセンターに主要な半導体を供給しているIntel、Broadcom、Xilinxなどがこの呼びかけに応じているようだ。さらにIPコアベンダーのArm、IC設計ツールベンダーのCadence、Synopsysなどもこの動きに追随していて、Huaweiの設計開発、製品製造、サービス提供など、あらゆる事業活動を封じ込めようという徹底ぶりである。

 日本政府は「米国の方針に追随するしかない」と考えているかもしれないが、民間の日系企業にはさまざまな選択肢があるはず。この流れをチャンスと捉えるべきだ、と筆者は考えている。短い期間ながらも今回の出張中の感触で言えば、米中関係が悪化する中、中国は日本との関係を非常に重要視しており、いろいろな事業提携を検討する上で非常に良い環境が整っている、と言っても過言ではないだろう。

 米国には米国の立場や事情があるが、それをそのまま日本に当てはめる必要などない。日本政府が日系企業に対して中国企業との提携をけん制する動きもあるようだが、それを理由に提携を見合わせるようなことはすべきではないだろう。日系企業の各社には、ぜひともこの流れをうまく利用していただきたいと切に願っている。

筆者プロフィール

大山 聡(おおやま さとる)グロスバーグ合同会社 代表

 慶應義塾大学大学院にて管理工学を専攻し、工学修士号を取得。1985年に東京エレクトロン入社。セールスエンジニアを歴任し、1992年にデータクエスト(現ガートナー)に入社、半導体産業分析部でシニア・インダストリ・アナリストを歴任。

 1996年にBZW証券(現バークレイズ証券)に入社、証券アナリストとして日立製作所、東芝、三菱電機、NEC、富士通、ニコン、アドバンテスト、東京エレクトロン、ソニー、パナソニック、シャープ、三洋電機などの調査・分析を担当。1997年にABNアムロ証券に入社、2001年にはリーマンブラザーズ証券に入社、やはり証券アナリストとして上述企業の調査・分析を継続。1999年、2000年には産業エレクトロニクス部門の日経アナリストランキング4位にランクされた。2004年に富士通に入社、電子デバイス部門・経営戦略室・主席部長として、半導体部門の分社化などに関与した。

 2010年にアイサプライ(現IHS Markit Technology)に入社、半導体および二次電池の調査・分析を担当した。

 2017年に調査およびコンサルティングを主務とするグロスバーグ合同会社を設立、現在に至る。


前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

RSSフィード

公式SNS

All material on this site Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
This site contains articles under license from AspenCore LLC.