最近のMRAM開発で最も注目を集めているのは、埋め込みメモリだろう。当面の目標は埋め込みフラッシュメモリの置き換え、将来の目標は埋め込みSRAMの置き換えである。
マイコンやSoCなどのプログラムコード格納に使われてきた埋め込みフラッシュメモリは、微細化による記憶密度の向上と製造コストの削減がほぼ限界に来ている。40nm世代〜28nm世代が微細化の限界だと考えられる。そこで28nm世代以降の製造技術によるマイコンやSoCなどのコード格納用メモリとして、STT-MRAMをシリコンファウンドリーが提供しつつある。既に述べたGLOBALFOUNDRIESとUMCの他、TSMC、Samsung Electronics、Intelがフラッシュメモリ代替用の埋め込みMRAMを提供している、あるいは提供する予定である。
埋め込みSRAMは、マイコンやSoCなどの作業領域用メモリ(ワークメモリ)として使われてきた。埋め込みSRAMも微細化が難しくなりつつある。記憶密度がそれほど上がらない、待機時の消費電流が増大するといった問題が微細化とともに悪化しているからだ。埋め込みMRAMは微細化による記憶密度の向上が期待できる他、原理的には待機時の消費電流がほぼゼロになる。
ただし埋め込みSRAMの置き換えは、STT-MRAMにとっては技術的な課題がある。SRAMは半永久的にデータの書き換えが可能であるのに対し、STT-MRAMはデータの書き換え回数が106回前後にとどまっている。SRAMと同等の書き換え回数は1015回であり、両者の間にはかなりの隔たりがある。課題の解決はかなり難しい。
埋め込みMRAMに比べると、単体(スタンドアロン)MRAMの置かれた状況はかなり厳しい。当初期待されていたDRAMの置き換えは、現在ではほぼ不可能であることが明確になっている。もう1つの期待であるNORフラッシュメモリの置き換えは、ほとんど進んでいない。いずれもMRAM価格の高さ、あるいは製造コストの高さが、置き換えの壁となっている。記憶容量の最大値(シリコンダイ当たり)は256Mビットから1Gビットである。
現在のところ導入されているのは、DRAMに近い高速な書き換えと不揮発性を必要とし、価格の高さを許容する用途である。単体のMRAMはこのままだと、ニッチ市場にとどまる可能性が少なくない。
(次回に続く)
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