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» 2019年06月27日 11時30分 公開

IHSアナリストが読む米中貿易戦争:貿易摩擦で中国半導体業界の底力が上がる? 座談会【後編】 (3/3)

[村尾麻悠子,EE Times Japan]
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中国版Armエコシステムが構築される可能性

EETJ ArmがHuaweiとの取引を停止するとの報道がありましたが、Armコアを使えないとなると、それに代わる中国独自のIPコアがどんどん出てきて成長する可能性はありますか。

前納秀樹氏

前納氏 それはあると思います。もともとそういう動きがありますしね。ただ、中国は以前と違ってきちんとライセンスを取得して、それに準拠したものを開発しようとしていますので、ここでArmのライセンスが止められてしまうと厳しいと思います。

 ただ、それよりもさらに痛手なのはGoogleとの取引停止です。スマートフォンでAndroidが動かないとか、Googleのソフトが動かないとか、そちらの影響の方が大きいですよね。

南川氏 ただ、中国は、国内で製造する半導体は海外に向けて販売しようと考えているわけではないよね。海外でも使ってもらおうなんて全然考えてないから、独自にどんどん開発してしまおうっていう考え方なのでは?

李氏 だから、“ガラパゴス”になるってことですよね。ガラパゴスになっても、十分な市場規模があるなら別に悪くない。

前納氏 でも、今のArmと同じ質、同じ規模のエコシステムをイチから構築しようとするなら、それはもう難しいと思いますよ。

 とはいえ、Armから既にライセンスされたものは使えます。家電系に使われるマイコン向けのコアは、Armは最近アップデートしたばかりですよね。旧世代のシリーズは10年近く同じものが使われていました。だから、この分野のコアに関しては今後も長く使える可能性はある。問題は先端の方ですよね。「Cortex」とか、スマホに使われているコアは新陳代謝が激しいので、最新のコアに対応できないとなると厳しい。Huaweiの次世代のスマホでは、テクノロジーが低下すると思います。

南川明氏

南川氏 既存のコアはずっとそのままだけど、周辺回路をばんばん改良して、高性能の機種を開発するしかないよね。

前納氏 その可能性はありますが、それをするには今のチップが集積化され過ぎているかもしれません。

杉山氏 メモリのバスもArm用になっていますし(バス規格「AMBA」)。今のシステムで最適化されているのに、これをまたバラしてく組み直すとなると崩壊してしまうと思います。カメラだけ高解像度にしたくても、多分できないですよ。

EETJ 中国版Armエコシステムの構築は、まだまだ先だということですね。

前納氏 やろうとはするでしょうけど、10年くらいはかかるかもしれません。

軍事に直結する半導体技術以外は、攻撃のプライオリティは低い

李氏 2019年4月に中国へ出張したのですが、そこで感じたのは、日本も含め先進諸国というのは、テクノロジーが伸びる方向が全方位なんですよね。どこか一つの分野を狙って全リソースを投入するやり方ではない。

 中国はそれとは真逆で、明らかに政府の目的と狙い、ゴールがはっきりしている。今でいうと、まずは一帯一路ですね。そしてもう一つが、国民監視システムです。これが、もうほぼ完成している。半導体開発でも何でも、この2つの政策に絡めて発展させようとしているわけです。

 だから米中貿易摩擦に関しても、米国の動き次第で、中国政府はスピーディに方向転換できる。国としては強いというか、対策を取りやすいというのはあるんじゃないでしょうか。

EETJ では最後に南川さん、今回の米中貿易摩擦の状況において、日系メーカーはどのような振る舞いや対処をしていけばよいでしょうか。少しヒントを頂けますか。

南川氏 米国政府が最も懸念していることは、中国の軍事技術に直結するような半導体技術の開発です。米国は、その開発スピードを遅らせたいのです。つまり通信技術、コンピュータ技術、セキュリティ技術に関わる半導体チップということになります。

 逆に言えば、それ以外の半導体に関しては攻撃のプライオリティは低いです。そして、エンティティリストに入らないような企業へのビジネスは規制の対象外になります。メモリや汎用アナログ、パワー半導体などは対象外のため、ビジネスを継続することをお勧めします。中国企業全てに対するビジネスを止める必要はなく、エンティティリスト以外の企業には、積極的にビジネスを展開した方がよいと考えています。

 米国政府は、長期的に軍事技術に直結する半導体育成をスローダウンできれば良いと考えています。全ての技術や半導体の育成をやめさせようとは考えているわけではないのです。

 そこをしっかり見極めながら、中国とのビジネス拡大をすることが重要だと思います。中国需要はやはり巨大であり、いずれは米国のGDPを抜くことは確実でしょう。技術流出に関しては十分な備えが必要ですが、中国ビジネスで利益を上げる方法はたくさんあります。ここについては、コンサルティングでお仕事を頂いてからお話しさせてください。



 米中貿易戦争は現時点では全く終わりが見えず、長く続くとみられる。さらに、米国の政権が交代しても、中国をスローダウンさせる政策は変わらないというのが、5人のアナリストたちの一致した見方だ。半導体/エレクトロニクス産業において中国の自前主義がじわじわと進んでいる兆しもある。一方で、巨大な中国市場は、ビジネスをする上ではやはり魅力的でもある。日系メーカーは、危機感を持ちつつ、南川氏の指摘通り「米国が攻撃する分野はどこなのか」をしっかり見極めて、かつてない規模の貿易戦争に対応するすべを考える必要があるだろう。


金融機関様向け無料セミナーを開催

 IHS Markit テクノロジー部門では、国内金融機関様を対象とした特別無料セミナー「半導体市場展望〜米中貿易摩擦は長期戦に突入」を都内で近日開催します(複数回予定)。講師はテクノロジー産業を代表するアナリストの一人である南川明ディレクターが務めます。開催日程や会場など詳細情報は同社セミナー事務局(mitsuhiro.kato@ihsmarkit.com)まで。



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