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» 2019年07月04日 11時30分 公開

大山聡の業界スコープ(19):不可解なルネサスの社長交代、その背景には何が? (1/2)

2019年6月25日、ルネサスエレクトロニクス株式会社は、呉文精氏に代わって、柴田英利氏が社長兼CEOに就任する、と発表した。業績が低迷する同社において、今このタイミングで社長を交代する必要性が本当にあったのか、むしろ社内が余計に混乱するのではないか、という疑問を禁じ得ない。呉文精氏の「続投」が決定していた同年3月20日の株主総会から3カ月の間に、社内でいったい何があったのだろうか。

[大山聡(グロスバーグ),EE Times Japan]
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 2019年6月25日、ルネサスエレクトロニクス株式会社(以下、ルネサス)は、社長の交代を発表した。これまで社長兼CEOを務めてきた呉文精氏に代わって、CFOだった柴田英利氏が社長兼CEOに同年7月1日に就任する、という内容で、これに驚いたのは筆者だけではないだろう。業績が低迷する同社において、今このタイミングで社長を交代する必要性が本当にあったのか、むしろ社内が余計に混乱するのではないか、という疑問を禁じ得ない。

 2018年度の決算を同年12月で締めたルネサスは、2019年2月8日の決算説明会で稼働率が低下していることを公表し、同時期に国内で約900人の希望退職者を募るなど、低迷する業績への対策も発表していた。同年3月20日の株主総会では、このような現状が社内外で十分認識されていたわけだが、呉氏は社長兼CEOに再任された。つまり、この時点では「続投」が決定していたのである。それから3カ月の間に、社内でいったい何があったのだろうか。

社内からも上がった疑問の声……理解に苦しむM&A

 呉氏がルネサスの社長兼CEOに就任したのは2016年6月、今から3年前である。呉氏の前任者(遠藤氏)がCEO就任後わずか6カ月で退任した時には社内が非常に混乱し、筆頭株主の産業革新機構や経済産業省は、後継者選びにかなり頭を悩ませたようだ。その産業革新機構が最終的に選んだ人物が呉氏であり、「リストラは終わった、これからはM&Aを視野に入れて事業の強化を行う」という強気のコメントとともにCEOに就任した。

 ルネサスはMCU(マイコン)には強いが、アナログIC、パワーデバイスが弱い、と常々指摘されていた。同社が注力する車載や産業機器のアプリケーションでは、MCUだけでなく、アナログICやパワーデバイスとの組み合わせが重要視されることが多いので、これらの補強をどのように行うのかが注目されていた。

 アナログICの強化については、呉氏がCEOに就任する前からM&A戦略が社内で検討されており、最終的に候補企業を3社に絞り込んでいたようだ。その中にIntersilも含まれていたわけだが、3社の中で最も評価が低く、ここを買収することはないだろう、という社内の声も聞こえていた。車載向けに関しても他の候補2社に比べて非常に実績が乏しく、ルネサスとのシナジーがあまり期待できない、という印象が強かった。それだけに、「Intersil買収」が発表された時は非常に驚いた。なぜそのような結論になったのか、評価チームの結論は無視されたのか、理解に苦しんだが、他の2社は買収金額が高すぎたことが最大の理由ではないか、などと筆者は憶測していたものだ。

CEOを退いた呉文精氏。2016年9月13日のIntersil買収に関する説明会でEE Times Japan編集部で撮影

 ところがこの憶測は間違っていたようで、ルネサスは2つ目のM&Aとして、IDTに7000億円以上のカネを注ぎ込んだのだ。1つ目のM&Aと合算すれば、1兆円を超えるカネが注ぎ込まれたわけで、これだけのカネを使えるのであれば、Intersil以外の候補企業のいずれも買収は可能だったはずだ。しかもIDTの買収は、金額もさることながらシナジーという点でもIntersil以上に納得できない。

 2つのM&Aの意義については、当初からCEOの呉氏、CFOの柴田氏が再三に渡ってさまざまなメディアを通じて説明しているが、これを聞いて「腑に落ちた」「納得した」という人が果たして何人いるだろうか。われわれのように外部から同社を見ている立場では理解できない部分もあるかもしれないが、従業員たちからも十分な理解を得られていない点が気掛かりである。約900人の希望退職者の中には、「経営幹部が何を考えているか分からない」という捨てゼリフを残して会社を去る人間が少なからず存在したようだ。そういうネガティブな発想の従業員だけが希望退職に応じた、と見ることもできるが、呉氏がCEO就任後の2件のM&Aをポジティブに考えている人間は、どう見ても少数派だろう。これらのM&Aには一般常識だけでは説明しきれない特別な事情が含まれていることは確実で、その状況を共有している人たちは決して大人数ではない、と思われるからである。そしてその少数派には強い意思があり、1兆円超もの資金を注ぎ込むことを決定できるだけの力もある。

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