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» 2019年07月05日 13時30分 公開

イノベーションは日本を救うのか(33):新興企業の成長に不可欠、今こそ求められる“真のベンチャーキャピタリスト” (1/3)

今回は、日本のベンチャーキャピタルが抱える3つの課題を掘り下げたい。日本のベンチャーキャピタルの“生い立ち”を振り返ると、なぜ、こうした3つの課題があるのかがよく分かってくるだろう。

[石井正純(AZCA),EE Times Japan]

⇒「イノベーションは日本を救うのか 〜シリコンバレー最前線に見るヒント〜」バックナンバー

 あらゆるベンチャー企業にとって、最も大きな課題とは何か――。それは資金調達である。自分が始めたベンチャー企業の製品やソリューションが市場に出て売り上げを出すまで、霞(かすみ)を食って生きていけるわけではないからだ。

 そして、この「資金調達」を左右する要の存在となっているのがベンチャーキャピタル(以下、VC)である。日本では、第1次(1970年代終盤)、第2次(1980年後半)の2度のベンチャーブームを経て、VCは既に一つの産業として認知されるようになっている。

 本連載でも過去に何度か紹介したが、筆者も1987年に東京で設立されたPacific Technology Ventures(PTV)というVCに、役員として参加している。その頃、筆者は既にシリコンバレーを拠点にAZCAを始めていたので、米国のVCとも付き合いが多く、力を合わせて日本でも国際的に通用するベンチャーキャピタルになろうと、熱く語り合ったものだ。

 筆者はそれ以来、1990年代半ばからBattery Ventures, Sierra Ventures、Sofinnovaなど、本流のVCとして現在では大きく成長しているベンチャーキャピタルのアドバイザーを務め、2002年から2016年まではLogitech時代の仲間とNoventiというVCを実際に運用してきた。

 今回は、VCに深く関わってきた経験から、日本のVCが抱える課題、あるいは今後の「伸びしろ」について、あらためて考えてみたい。

VCの投資金額が圧倒的に少ない日本

 日本のベンチャーキャピタルはそれなりに育ってはきたが、抱えている課題はいろいろとある。大きくは3つではないかと思う。

 まず筆頭に挙げられるのが、日本のVCは投資金額と投資案件がまだまだ少ないということだ。平均の投資金額も小さい。

 2017年のVCの年間投資額を見ると、米国、欧州、中国がそれぞれ9兆5336億円、8140億円、3兆3630億円なのに対し、日本はわずか1976億円である。圧倒的に少ない(図1)。

 VCの投資件数で比べても、米国、欧州、中国はそれぞれ8293件、4084件、4822件なのに対し、日本は1579件と、ここでも大きな開きがある(図2)。VCファンドの新規組成金額、新規組成ファンド数についても同様で、日本は欧米や中国に比べてかなり見劣りがするのだ(図3、図4)。

図1:ベンチャーキャピタル投資金額の国際比較。1米ドル=112.2円、1ユーロ=126.6円、1人民元=16.6円で換算している 出典:VEC(Venture Enterprise Center, Japan) (クリックで拡大)
図2:ベンチャーキャピタル投資件数の国際比較 出典:VEC(クリックで拡大)

 VCファンドの組成金額に関しては、ベンチャーキャピタルファンドに流れる資金の資金源との違いにもよるだろう。米国で、VCの資金として最も多いのは年金基金だ。

 例えば、公的年金基金としては規模が全米第2位のカリフォルニア州職員退職年金基金(CalPERS:The California Public Employees' Retirement System、カルパース)の運用資産は、2018年の発表によると2200億米ドル(約24兆円)である。このほんの一部である3〜4%が、リスクマネーであるベンチャーキャピタルに投資される。

 つまり、CalPERSというたった一つの機関から、約90億米ドル(約1兆円)近い資金が、PE(プライベートエクイティ)やVCに回っているのである。

図3:VCファンドの新規組成金額の国際比較 出典:VEC(クリックで拡大)
図4:VCファンドの新規組成数の国際比較 出典:VEC(クリックで拡大)

 ちなみに、2018年の運用資産額の世界ランキングトップは、日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の164兆円だ。しかし、このお金は今のところ、VCにはまだほとんど回って来ていない。

 VCのフィナンシャル・パフォーマンスがいまいちなのもVCにおカネが回ってこない理由の一つと考えられる(図5)。つまり、ベンチャーキャピタルが経済を前に進めるドライバーとして育っておらず、そういった認知も希薄だということだ。

図5:VCファンドのパフォーマンス-TOPIXとの比較 出典:VEC(クリックで拡大)
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