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半導体メーカーの働き方改革 〜半導体技術者の在宅勤務は可能か?湯之上隆のナノフォーカス(18)(3/3 ページ)

» 2019年10月16日 11時30分 公開
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半導体プロセス技術者の在宅勤務は可能

 時代は変わった。

 半導体プロセス技術者が紙を持ち回って“スタンプラリー”をやったり、自分の手で装置にロットを仕掛けたり、装置の液晶画面にパラメータを打ち込んでドライエッチングしたり、そのウエハーをチッピングして断面SEM観察したり、というようなアナログな仕事はもはや必要ないのである。

 “スタンプラリー“も、ロットを装置にセットしてパラメータを振ってエッチングすることも、断面SEM観察することも、全てオフィスの机上のPCを使ってリモートでできるのである。

画像はイメージです

 筆者が知らない間に、半導体のプロセス開発や生産に関わる手法が劇的な進歩を遂げたということなのかもしれない。

 現在の半導体プロセス技術者は、毎日会社に出勤して、自分のPCを立ち上げて、リモートであらゆる仕事を行っているということになる。ということは、情報漏洩(ろうえい)の問題さえ解決すれば、在宅勤務も可能になるということである。実際、装置を使わないデバイス企画の仕事をしている半導体技術者は、在宅勤務をすることが多いのだそうだ。

 すると将来は、半導体の開発ラインも量産工場も、ほとんど無人で、その周辺にオフォスを設ける必要もなく、半導体プロセス技術者は自宅のPCを使ってリモートで実験をしたり、テレビ会議をしたりしながら、仕事を進めていく。そんな時代がすぐそこまで来ているのかもしれない。

プロセス開発がTVゲーム化している

 現在の半導体プロセス技術者は、20〜30年前に比べれば、非常に効率的な働き方をしていると言える。そして、“スタンプラリー”を短縮したり、断面SEM観察をもっとスピーディに行えるようにすれば、半導体プロセス技術者の在宅勤務も可能になるし、日本政府が目指す本当の働き方改革が実現するかもしれない。

 しかし、その前に、一つクギを刺しておかなければならない。

 現在の半導体プロセス技術者が、装置にもウエハーにもSEMにも触ることなく効率的に仕事を進めているのは結構なことではある。しかし、それは、何だかTVゲームをやっているようにも思える。そのようなやり方で、本当に半導体プロセス技術の開発ができるのだろうか? 筆者には、できるとは思えないのである。

半導体プロセス技術者に必要な経験

 筆者は、1987〜1994年に在籍した日立中央研究所で、荷電粒子を一切使わない中性粒子ドライエッチング装置を3台設計し、試作した(量産機にはならなかったが)。1994〜1998年は半導体事業部で強誘電体メモリ(FeRAM)の開発に関わり、プラチナ(Pt)電極加工用のドライエッチング装置を東京エレクトロン(TEL)と共同で開発した。1998〜2000年には1GビットDRAMの開発に関わり、BSTのキャパシター電極Ru用のドライエッチング装置をラムリサーチ(Lam)と共同開発した。

 筆者は、たまたま、PtやRuなど、ドライエッチングが困難な材料をテーマにしたため、ハードウェアを最適化するところからプロセス技術の開発が始まった。というより、本当のプロセス技術の開発とは、ハードウェアの最適化が無ければ実現し得ないと思っている。

 ところが、現在の新人の半導体プロセス技術者は、ハードウェアを分解し、改良したり、改善したりする機会が一切無いのではないか? TELやLamから装置を買えば、基本プロセスは漏れなく搭載されてくる。その装置にリモートでウエハーをセットして、リモートでパラメータを振って、「ここまではできるけれど、これ以上はできません」で終わりにしているのではないか? もしそうだとすれば、それは本当の半導体プロセス技術の開発ではない。

 時代は元には戻らないし、戻す必要もない。半導体プロセス技術者のほとんどの仕事がリモートで済むのも結構なことだ。

 しかし、半導体プロセス技術者は、誰もが一度はハードウェアに触わり、分解し、改良や改善をする機会が必要だと思う。そのような経験を積み、装置の本質を理解した上で、リモートを大いに活用して、効率的に半導体プロセス技術の開発をすれば良い。TVゲームをやっているだけでは、本当のプロセス技術の開発はできないと思う。

(次回に続く)

⇒連載「湯之上隆のナノフォーカス」記事一覧


筆者からのお知らせ

 2019年11月6日(水曜日)に、東京・港区浜松町 ビジョンセンター浜松町にて「【緊急開催】米中ハイテク戦争に加えて日韓貿易戦争勃発 −先が見えない時代をどう生き延びるのか?− 」と題したセミナー(主催:サイエンス&テクノロジー)を行います。米中ハイテク戦争と日韓貿易戦争からビジネスを防衛するための処方箋について、筆者が講演します。加えて、リソやエッチなど装置メーカーの攻防についても言及する予定です。

(次回に続く)

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筆者プロフィール

湯之上隆(ゆのがみ たかし)微細加工研究所 所長

1961年生まれ。静岡県出身。京都大学大学院(原子核工学専攻)を修了後、日立製作所入社。以降16年に渡り、中央研究所、半導体事業部、エルピーダメモリ(出向)、半導体先端テクノロジーズ(出向)にて半導体の微細加工技術開発に従事。2000年に京都大学より工学博士取得。現在、微細加工研究所の所長として、半導体・電機産業関係企業のコンサルタントおよびジャーナリストの仕事に従事。著書に『日本「半導体」敗戦』(光文社)、『「電機・半導体」大崩壊の教訓』(日本文芸社)、『日本型モノづくりの敗北 零戦・半導体・テレビ』(文春新書)。


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