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どんな量子計算も実行できる量子もつれ、東大が実現量子コンピュータの実用化を加速(1/2 ページ)

東京大学は2019年10月18日、同大学大学院工学系研究所物理工学専攻教授の古澤明氏と同博士課程のAsavanant Warit氏らが、「どのような量子計算でも実行できる量子もつれ」の生成に世界で初めて成功した、と発表した。古澤氏らの研究グループは、「量子計算の規模を従来よりも飛躍的に拡大できる突破口が明らかになり、実用的な量子コンピュータへの新たな道が開けた」としている。

» 2019年10月24日 09時30分 公開
[永山準EE Times Japan]

 東京大学は2019年10月18日、同大学大学院工学系研究所物理工学専攻教授の古澤明氏と同博士課程のAsavanant Warit氏らが、「どのような量子計算でも実行できる量子もつれ」の生成に世界で初めて成功した、と発表した。古澤氏らの研究グループは、「量子計算の規模を従来よりも飛躍的に拡大できる突破口が明らかになり、実用的な量子コンピュータへの新たな道が開けた」としている。

主流のゲート方式では、「技術的限界に達しつつある」

 幅広い分野での応用が期待される量子コンピュータは、その実現に向けて世界各国で開発が進められている。同大によると、現在主流となっている開発方式は、量子ビットを1個ずつ作製し、その量子ビットの間を配線したうえで、量子操作を順に行いながら計算を実行する「ゲート方式」で、現在は50量子ビット程度を搭載した量子コンピュータまで開発されているという。

 しかし、ゲート方式では量子ビットの数が増えるにつれて、量子ビット間の配線が非常に複雑になっていくため、同大は、「実際の応用に使える量子ビットの数まで増やすのに技術的な限界に達しつつある」と説明する。

ゲート方式の量子回路モデルのイメージ図。この図の回路は、1量子ビットに対する量子ゲートと2量子ビットに対する量子ゲートで構成。ある2つの量子ビットの間にゲートをかけたい場合は、その量子ビットの間にあらかじめゲートをかけられるように物理的な配線が必要になる(クリックで拡大)出典:東京大学

「一方向量子計算方式」採用で新たなアプローチ

 今回、古澤氏らの研究グループは、このゲート方式とは異なる「一方向量子計算方式」を採用した。この手法は、はじめに多数の量子ビットから構成された量子もつれ状態(クラスタ状態)を用意し、個々の量子ビットを測定することで計算を行うというもの。十分な量子ビットの数かつ適切な量子もつれの構造を持つクラスタ状態さえ用意することができれば、あとは個々の量子ビットを測定するだけでどのような量子計算でも可能となり、ゲート方式のような量子ビット間の配線も必要なくなるという。

一方向量子計算のイメージ図。灰色の丸が量子ビット、量子ビットをつなぐ線が量子もつれを表している。この丸と線で表せるような量子もつれのことを「クラスタ状態」と呼ぶ(クリックで拡大)出典:東京大学

 ここでいう「適切な量子もつれの構造を持つクラスタ状態」とは、複数の入力を用いたどのような量子計算でも実現できる汎用的な量子もつれである「2次元クラスタ状態」のことだが、この2次元クラスタ状態の生成がこれまで、「一方向量子計算の最重要要素でありながら、約20年もの間実現されていなかった難所だった」という。

 古澤氏らの研究グループは、今回、この2次元クラスタ状態を「世界で初めて生成することに成功した」(同大)のだ。

 クラスタ状態の構造のイメージ図。上は1次元クラスタ状態で、1つの入力と1つの出力の量子計算に利用できるが、実際のほとんどの計算は複数の入力が必要になるため量子計算には不十分だ。今回、生成に成功したのが下の2次元クラスタ状態。量子ビットが2次元的に網目のようにつながっており、縦の辺の長さは入力と出力の数を決め、横の辺の長さは計算のステップ数を決める(クリックで拡大)出典:東京大学
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