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» 2019年10月31日 11時30分 公開

江端さんのDIY奮闘記 介護地獄に安らぎを与える“自力救済的IT”の作り方(2):それでも介護ITを回してみせる 〜国内ユーザー5人の見守りシステムができるまで (4/8)

[江端智一,EE Times Japan]

かくして「国内ユーザー5人」のDIY介護システムは出来上がった

 しかし私は、この方法を強行することにしました。セキュリティのリスクはあるものの、この方法は、「リアルタイムの見守り」を実現するという観点では極めて優れており、何より「システムの全ては、この俺の手の中にある!」という安心感は絶大だったのです。

 もちろん、私も、複雑ではないものの、考えうる限りのサイバー攻撃対策を施しました。攻撃者が嫁さんの実家を攻撃しても、割に合わない程度にクソ面倒くさい設定を施し、また、嫌らしいトラップも仕掛けておきました。

 問題は、このシステムに必要な機材を「誰に設営させるか」ということでした。

 私には、上記のような「48時間作戦」をもう一度行うリソース(特に時間の方)がありませんでした。そこで、翌月に、嫁さんと一緒に帰省する長女に、この任務を託すことにしました。

 しかし、長女にシステムの原理を説明しても無駄であることは、最初から分っていました。ITシステムは、ITシステムエンジニア同士ですら、理解できないことがあります(というか、大抵の場合「理解できない」)。

 そこで私は、写真入りの説明書を作成し、その上で、出発前日に我が家の通信終端装置を使った模擬訓練まで実施しました。

 どの装置のイーサネットポートを、どのポートに移動させるか、設定済みのラズパイを、どのように連結させるかについて、頭ではなく、体で覚えてもらうことにしたのです。

 これまで何度も申し上げてきましたが、ITシステムというものは、基本的に「動かないもの」であり、それを、あらゆる手を尽くして「動かすもの」なのです。

 鹿児島の嫁さんの実家に到着した長女は、私が依頼した作業を行い、無事に接続、連携を成功させてくれました。

 私は、実家のパソコンから、ラズパイへのアクセスを成功させ、実家の全システムを乗っ取り、自由自在にシステムを改修できるようになりました。

 基本的に、システムを乗っ取るクラッカー(世間でいうところの「ハッカー」)がやっていることは、概ね、こんな感じです(私の場合、セキュリティホールを事前に開けておきましたが)。

 これが、「システムの一部が奪われれば、システム全部が奪われる」という、一つの例です。

 ともあれ、これによって、嫁さんの実家の見守りシステムが、本格稼働を始めることになりました。

 このシステムは、動態検知があった場合、カメラがその画像をラズパイに転送し、ラズパイは、そのファイルを72時間保管し、それをWebで表示するだけの簡単なものです。

 なお、本システムで私が作った、シェルスクリプト、crontabなどについては、全て公開します*)ので、参考にしてください(現在稼働中の江端家のシステムから取り出しました)。

*)http://kobore.net/video_20191026.zip("先ずはこれを読め.txt"を読んでください)

 Linuxサーバの知識があり、ラズパイを自力で構築したことのある人であれば、それほど難しい内容ではないと思います。

 いずれにしても、このようなシステムを個人がDIYのレベルで作れるようになったのは、「安価になったネットワークカメラやスイッチングハブ」、そして「ラズパイ」の登場、なにより、「インターネット」のおかげです。

 30年前であれば、これだけのシステムを作るには、初期コストに300万円(ワークステーションを使えば、1000万円コースもあり得た)、月額運用コストに、最低でも20万円程度は必要だったでしょう。

 信じられない人もいるかもしれませんが、かつてインターネットの接続料金は、従量課金が当然であり、接続時間を短くするために、私たちは目もくらむような面倒でセコイ努力*)をし続けていたのです。

*)読みたいページを全てスクリプトに記述しておき、通信料金が安価になる深夜になると、自動的にスクリプトが起動するようにセットしておく、など

 では、この鹿児島見守りシステム構築にかかったコストの一覧を以下に示します。

 ここに、私の人件費(構築、運用コスト)を追加すると、とんでもない額になるでしょうが、まあ、そこは「趣味」のシステム構築ということなので割愛します。

 逆に言えば、インターネットによって、私たちエンジニアは、エンジニアではない人では絶対に手に届かないことにも、手が届く立ち位置にいる訳です。

 エンジニアは、趣味と実益を兼ねた「美味しい職業」とは思いませんか?


 ――思いませんか?



 ―― 思わないか。

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