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» 2019年12月09日 13時00分 公開

JHICCの“二の舞”は避けたい:中国で誕生したDRAMメーカー、ChangXinの野心 (2/2)

[Junko Yoshida,EE Times]
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企業秘密の取り扱いに失敗したJHICC

 Fujian Jinhua Integrated Circuit Company(JHICC:福建省晋華集成電路)の二の舞にはならないよう、細心の注意が必要だ。Fujian Jinhuaは、かつては歩留りの改善に長けた中国のDRAMメーカーと見られていたが、現在は瀕死の状態にある。同社は、Micron Technologyから企業秘密を盗用したとして告訴された後、米国政府の禁輸措置リストに掲載されるという二重苦に陥っている。

 シリコンバレーに拠点を置くあるメモリ業界関係筋は、匿名を条件に次のように話した。「(JHICC)運用アーキテクチャは、中国に住みたくない台湾人のDRAMエンジニアを採用し、Jinhua(金華)に生産技術のみを"出荷”するという、なかなか秀逸なものだった。唯一の問題は、Micronの台湾子会社であるMicron Memory Taiwan(旧Inotera Memories[Micronと台湾Nanya Technologyの合弁会社])からあまりにも多くのエンジニアを引き抜いたため、一部のエンジニアがMicronの企業秘密を持ち出したと告訴されたことだ。台湾が軍事的、政治的支援で米国に大きく依存していることも、JHICCにとってマイナスに働いた」

 JHICCにとどめを刺したのは、米国による制裁だった。

 米国商務省は2018年、JHICCに対する全ての輸出と技術移転を実質的に禁止した。こうした事態は、中国の技術分野の成長に対する米国政府の闘いにおける、最もあからさまな"措置”の一つである。米国、さらには台湾による制裁により、JHICCは、生産を維持できるだけの材料を輸入できなくなっていった。

 JHICCの"早過ぎる埋葬”の最大の要因は、その企業秘密の取り扱い方だった。ChangXinのLiu氏は、JHICCで開発された技術の成果が、別のメモリメーカーで働いていた社員によって持ち込まれた企業秘密ではないことを証明できるよう、「厳しく適切なプロセスを社内で整備することは極めて重要である」と強調した。

 Liu氏は技術者ではなく、ドイツ・ハノーバーにあるライプニッツ大学で修士号を取得したエコノミストであり、約20年にわたりドイツと中国のSiemensに勤務していた。同氏は、ChangXinがガバナンスやマネジメントの高い基準を維持できるよう、きめ細かいドキュメンテーションを含め、同社において適切なプロセスを整備することを自らのミッションと考えている。Liu氏は、ドイツ人のエグゼクティブと結婚しており、流暢(りゅうちょう)なドイツ語を話す他、二つの極めて異なる文化の中を巧みにかじ取りしている。EE TimesがLiu氏に対し、ChangXinをドイツ精神を備えた中国企業へと変革したいのか尋ねたところ、同氏はほほ笑んで「イエス」と答えた。

ChangXinのIPは?

 だが、IPはどうなのか。ChangXinはどこでIPを得ているのだろうか?

 Liu氏は、IP保持者との明確な同意について語るのを避けた。一方で、幅広く知られたパテントトロールで、現在Qimondaの多くの特許を所有しているカナダのWiLANに言及した。WiLANはChangXinが交渉している企業の一つになり得るということだ。

 要点をまとめると、WiLANは2015年、同社の100%子会社であるPolaris Innovationsが、Qimondaの特許ポートフォリオの大半をInfineonから買収したことを発表した。

 WiLANによれば、買収したポートフォリオには、DRAM、フラッシュメモリ、半導体プロセスと製造、リソグラフィ、パッケージング、半導体回路、メモリインタフェースに関する技術を含め、7000件以上の特許とアプリケーションが含まれているという。WiLANは「このポートフォリオは、数多くの半導体製品との幅広い関連性を持つものである。ポートフォリオに含まれた交付済み特許は、平均で8年以上の有効期限を持つ。また、ポートフォリオには、米国の特許とアプリケーションが5000件以上含まれている」と付け加えていた。

 一方、これとは別に、ChangXinのNg氏は、ChangXinがノウハウが記された1000万枚ものドキュメントへのアクセス権をQimondaから得たことに言及した。これらのアクセス権はChangXinに限られているわけではないが、その“宝の山”は同社が競合先に先んじるのに役立つとNg氏は説明した。

 半導体市場調査会社Objective Analysisで主席アナリストを務めるJim Handy氏は、「ChangXinの専門技術レベルは、中国のDRAMメーカーに対して一般的に期待されるであろうレベルを、はるかに上回っている。同社は主に、Qimondaの中国国内の設計センターとして機能するが、現地政府からの資金提供によって設立された真新しい工場も保有している。こうした組み合わせは、QimondaがSMICで短期間DRAMを製造していた時のものと同じだ」と述べている。

 Handy氏はここ数年間、中国のメモリ成長戦略に関する研究に取り組み、最近、「China's Memory Ambitions(中国のメモリ市場への野望)」と題するレポートを発表したところだ。同氏は、「中国は、IPや実績、専門技術などの点で能力不足なのではないか」とする問いに対して「中国のDRAMメーカーは、既に中国国内で事業展開している外国企業の人材を採用できる他、台湾や韓国、日本のメモリ専門技術者たちをスカウトすることも可能だ」と説明している。

 「例えば、SK hynixは、中国:無錫市の自社工場において、10年以上にわたりDRAMを製造している」(同氏)

 また同氏は、「IPは、多くの新興国が半導体市場に参入していく上での課題となっている。例えば、日本のDRAMメーカーは1980年代初頭に、また韓国メーカーは1990年代初頭に、それぞれ他のメーカーのIPを侵害したとする問題に直面した。中国メーカーも今後、IP関連の問題を克服していかなければならないが、長期的には、先進国が納得できるような方法で解決することができるだろう」と述べている。

 さらに同氏は、「ChangXinは、Qimondaの全てのIPにアクセスすることができるため、中国国内の他の新しいDRAM/NANDフラッシュメーカーに対して、優位な立場を確保することが可能だと主張している」と付け加えた。

 米国の市場調査会社IC Insightsでバイスプレジデントを務めるBrian Matas氏は、引き続き慎重な見方をしているようだ。同氏は、「中国でのDRAM製造は、決して簡単なことではないため、度々報じられているような迅速な進展を遂げているわけではない。今のところ、間違いなく重大な障壁となっているのが、実績/専門技術とIPの不足だ。この他の問題点として、膨大な数の特許を侵害している可能性があることに加え、次世代プロセス技術に向けて新たな設備投資や移行を迅速に進めていく能力がないこと、メモリ研究開発に膨大な資金を投じているSamsung ElectronicsやSK hynix、Micronなどには対抗できないことなどが挙げられる」と指摘する。

 Matas氏は、「一般的に、新興企業や新興国が、DRAM市場に飛び込んで、SamsungやSK hynix、Micronに競争を挑みながら遅れずついて行けるような成長をゼロから成し遂げていくことは、非常に難しい。中国は、どれだけDRAMの生産高を上げられたとしても、大手3社がさらなる技術進展によってDRAM製品の高性能化を実現していけば、その成果を全て失い、後れを取っていくことになるだろう」と指摘した。

【翻訳:青山麻由子、滝本麻貴、田中留美、編集:EE Times Japan】

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