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量子コンピュータ技術の英新興企業、日本に本格参入まずは量子暗号デバイスに注力

英ケンブリッジ大学発のベンチャーで、量子コンピューティング技術を手掛けるCambridge Quantum Computing(CQC)は2019年12月19日、本格的に日本市場に進出すると発表した。

» 2019年12月23日 13時30分 公開
[村尾麻悠子EE Times Japan]

 英ケンブリッジ大学発のベンチャーで、量子コンピューティング技術を手掛けるCambridge Quantum Computing(CQC)は2019年12月19日、本格的に日本市場に進出すると発表した。

 2014年に設立されたCQCは、今や世界で100社以上に上る量子コンピューティング分野のスタートアップとしては、最も古いうちの1社だ。従業員は85人で、うち60人は科学者である。日本では化学メーカーのJSRがCQCに出資している。

CQCのDenise Ruffner氏

 CQCのCBO(最高事業責任者)を務めるDenise Ruffner氏は「日本市場には強い期待を持っている」と強調する。

 「量子コンピュータの分野において日本は極めて重要な国だ。人材も豊富で、アニーリング型、ゲート型ともにハードウェアの開発が企業や大学機関などで進められている。日本政府も量子技術開発のロードマップを発表している。同分野で最も大きい伸び率を実現できるのが日本ではないか。その日本市場に、本格的に参入していきたい」(Ruffner氏)

 CQCの主要製品には、量子暗号を生成するハードウェア「IronBridge(アイロンブリッジ)」や、量子コンピュータ用のコンパイラおよびプログラミング環境である「t|ket>(ティケット)」がある。IronBridgeは4量子ビットプロセッサを搭載し、光子を使って量子もつれを発生させ、乱数を生成する。米IBMは2019年12月10日(現地時間)、IronBridgeを同社のクラウドセキュリティシステムに実装したと発表した。

 t|ket>は、t|ket>上で記述された量子コンピュータ向けのプログラムコードを、Honeywell、Google、Intel、ionQ、IBM、Microsoftの量子コンピュータで動作するように自動的に最適化を行うソフトウェアスタックだ。

「IronBridge」の特長。室温で動作する 出典:CQC Japan(クリックで拡大)
「t|ket>(ティケット)」の概要 出典:CQC Japan(クリックで拡大)

 日本市場への参入は、2019年1月に設立された日本法人Cambridge Quantum Computing Japan(以下、CQC Japan)を中心にして、IronBridgeの販売や、パートナーとの共同研究などを進める。同社の社長を務める結解秀哉(けっけ・しゅうや)氏は、CQC Japanが優先的に取り組む分野として、IronBridgeを利用したサイバーセキュリティ、量子化学、量子機械学習の3つを挙げた。

CQC Japanの結解秀哉氏

 「現在、50量子ビット、60量子ビットのハードウェアが主流といわれている中で、今後性能が飛躍的に伸びていった場合、既存の暗号化の方法では全く効果がなくなってしまうと予測されている。インフラのアップグレードには10年単位の時間がかかるので、1000量子ビット、2000量子ビットのハードウェアが登場しても耐えうるサイバーセキュリティの実装に向けて、今から取り組んでも決して遅くはない」(結解氏)

 結解氏は、IronBridgeのビジネスモデルについて「まさに今、検討しているところ」と述べる。「ただ、ハードウェアの売り切りではなくて、IronBridgeをハードウェアセキュリティモジュールに組み込むところまでサポートすることや、乱数を生成した量を基にした従量課金制のモデルなど、さまざまなプランを視野に入れている」(同氏)。なお、CQCは、IronBridgeの価格については言及を避けた。

 市場調査会社のMarketsandMarketsが2019年5月に発表した予測によれば、量子コンピューティング市場は2024年に2億8300万米ドルに成長し、その年平均成長率は24.9%になるという。

量子コンピュータの市場予測(MarketsandMarketsの予測) 出典:CQC Japan(クリックで拡大)

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