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» 2019年12月26日 09時30分 公開

この10年で起こったこと、次の10年で起こること(41):2チップを同時開発するHuawei ―― 2019年新チップ解剖総括で見えてくるメーカー間の差 (2/3)

[清水洋治(テカナリエ),EE Times Japan]

5Gに対応するもう1つのKirin990

 図3は、2019年10月に発売された5G機能を持つHuaweiの2019年最上位スマートフォンMate30 Pro 5Gの基板および、Kirin990 5Gプロセッサの開封の様子である。

図3:2019年第4四半期に発売された「Mate30 Pro 5G」の基板とメインプロセッサ (クリックで拡大) 出典:テカナリエレポート

 図3中央下はメモリ、右下が5G機能を持つKirin990である。メモリは図1と同じ8GバイトのLPDDR4Xだが2枚重ね4カ所ではなく、1Gバイトのメモリが並列に4枚重ねられている。メモリの面積が異なる(SEMなどで観察した結果製造プロセスも若干異なる)からだ。8Gバイトである点では同じだが、現在はこのように異なる配置構造のものが各種出回っている。プロセッサは先の5G機能を持たないKirin990に比べて5G機能を持つ分、おおよそ一回り大きなチップになっている。Huaweiの発表によると、4G向けKirin990が80億トランジスタ、5G対応のKirin990が103億トランジスタなので、おおよそ2割ほど5G版が大きいことになるが、実際の面積は1割ほどの差だ。前者は7nmプロセス、後者はEUVを用いた7nm+プロセスと製造プロセスも異なっているので、完全な比較ができないものになっている。図4は5G版Kirin990の配線層を剥離したチップ写真(鮮明な写真を加工)と配線層剥離前のチップ上ロゴの様子である。チップのおおまかな配置位置(CPUやGPU)は4G版と同じである。

図4:7nm+プロセスで製造される5Gモデム内蔵Kirin990 (クリックで拡大) 出典:テカナリエレポート

 いくつかの部分は基本構成、配置などで共有化されていることが確認できた。一方でチップ上のロゴはHi3690 V200になっている。V以降が100から200とカウントアップされており、別物だ。Huawei、HiSiliconは同じ時期に7nmを用いたKIRIN990と7nm+を用いたKIRIN990 5Gを作って、量産化に踏み切ったわけだ。現在トップクラスの開発力を持つメーカーとて、製造プロセスが異なる2つのプロセッサを同時期にリリースすることはほとんど前例のないことである。2018年にAppleがスマートフォン向けA12とタブレット向けA12Xをほぼ同時期にリリースしているが、プロセスは同じ、またIPそのものを使い回している。設計そのものは2チップ同時に開発しているものの、回路、パターンなどは流用が多いので、1.5チップ同時開発と言っていいだろう。

見た目は似通っているが、全くの別物

 図5は、HiSiliconの4G版Kirin990のCPUを拡大した様子と5G版のCPUを拡大した様子である(さらにSEMを用いた詳細な写真がテカナリエレポートには存在する)。

図5:4G版Kirin990と5G版Kirin990のCPU部 (クリックで拡大) 出典:テカナリエレポート

 ぱっと見は似通っているが、プロセスが異なるのでメモリ(Data,InstのL1)の向きや細かな形状、使われるライブラリ(プリミティブな回路の遅延情報やサイズ情報)が異なるので、2つは似ているが“別物”になっている。当然、別物なので、設計も別々になる。つまりCPUのような基幹部からチップのあらゆる部分までもが、使い回しができず2回設計していることが明確になった。1度に2つの巨大チップを開発できるメーカーは極めて少ない。2019年にリリースされたチップではHiSiliconのKirin990とともに、MediaTekのHelio P90とHelio G90が同時に2つをリリースされているが、Helio P90も同G90も同じプロセスでIPも同じものがいくつか使われている。したがって先に紹介したAppleと同様、MediaTekは1.5チップを同時開発したといえる。4G版と5G版という2つのKirin990から、HiSiliconの開発力がいかに強大であるかが、読み取れる。

 4G版と5G版のKirin990のCPUは図5のようにかなり似通って見え、NPU(Neural Processing Unit)の場所もほぼ一緒だが、内部の構成や構造は異なるものであった。2つの異なるチップを同時開発するのは膨大な労力を必要とする。にもかかわらず、ともにスケジュール通り量産化にたどり着いたことは驚愕に値する。

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