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GaNモジュールで実現した1kW高効率スイッチング電源を徹底検証LLC共振コンバーターを20%も小型化

小型で高効率の次世代電源を容易に開発したい――。こうした電源設計者の願いをかなえることができるGaN(窒化ガリウム)パワーモジュールが登場した。ハーフブリッジ回路をモジュール化することで、高密度実装と優れた放熱特性を両立させた。このGaNパワーモジュールを応用して、スイッチング周波数が1MHzで出力電力1kWの高効率スイッチング電源を作製し、その実力を徹底検証した。

» 2020年01月14日 10時00分 公開
[PR/EE Times Japan]
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「GaN」への移行で「Si」の壁を超える

 地球温暖化は、世界的な規模で深刻な問題となっている。そこで産業界は温暖化を阻止しようと、「脱炭素社会」の実現に向けたさまざまな活動に取り組んでいる。

 その1つが「省エネルギー対策」である。電子機器は高機能化や高性能化が進む。需要の拡大などもあって、全体の電力消費はますます増大する見通しとなっている。こうした中で関連する企業は、電力変換効率を高める制御技術や、この技術を応用した機器の開発に注力する。

 高い電力変換効率を実現するための、代表的なキーデバイスの1つがGaN(窒化ガリウム)など新材料を用いた次世代パワー半導体である。従来のシリコン(Si)パワー半導体では対応することができない、小型で高効率の大容量電源システムを実現することが可能となる。特に車載用途では電源の小型、高効率化は喫緊の課題でもある。

 新電元工業は、顧客や社会のニーズを聞きながら、価値ある未来づくりに貢献してきた。脱炭素社会の実現に向けても、電力変換効率を極限まで高める技術を追求している。現在開発中の耐圧650VのGaNパワーモジュール「MG001AM」も、その成果の1つである。2019年6月よりサンプル出荷を始めている。

 サーバ機器や基地局用装置、急速充電スタンドといった用途では、比較的容量の大きい電源システムが求められる。その上、高い効率や低ノイズ、小型化に対する要求も高まっている。

 こうしたニーズに応えるスイッチング電源として、LLC電流共振電源が注目されている。ゼロ電圧スイッチング(ZVS)方式により、スイッチング損失を低減する。また、ソフトスイッチング動作によりノイズを抑え、高い効率を実現できるからだ。

 LLC電流共振電源などに向け開発したMG001AMは、メインスイッチ素子にノーマリーオフのGaN HEMTを2個組み合わせたハーフブリッジ回路をDIP型パッケージに収めたパワーモジュールである。

 一般的に、Siパワー半導体のスイッチング周波数は100kHz程度が実用域である。これに対して、GaN HEMTを用いるとスイッチング周波数を1MHzまで引き上げることができ、従来を上回る高い効率や高い電流密度を実現することが可能となった。搭載したGaN HEMTは、耐圧650Vでオン抵抗は50mΩ(代表値)、ゲートしきい値電圧は1.7Vである。

MG001AMの外観と等価回路 MG001AMの外観と等価回路。メインスイッチ素子にノーマリーオフのGaN HEMTを2個組み合わせてハーフブリッジ回路を構成

 一般的なGaN HEMTは、表面実装タイプや3端子タイプのパッケージに収められ、単体素子として供給されている。これらの個別部品を組み合わせることで、電源設計者がハーフブリッジ回路を設計することもできる。ところが、GaN HEMTの高周波スイッチング特性を引き出すには、プリント基板上の配線パターンを短くし、寄生インダクタンスを最小化する必要があるとともに放熱特性も考慮する必要がある。

 例えば、表面実装タイプのパワー半導体を用いた場合、配線パターンを短くできるが、放熱性を高める設計が難しくなる。3端子タイプだと放熱設計は比較的容易になるが、配線パターンを短くすることが難しくなる。半導体メーカーなどからレファレンス回路などは提供されているが、高周波で安定動作させるためには、技術者に電源回路の設計ノウハウや専門知識が必要となっていた。

 MG001AMは、主要な回路ブロックをモジュール化しており、寄生インダクタンスや放熱を考慮した設計などを行う煩わしさや難しさを軽減することができる。設計工程でのカット&トライを減らすことも可能となる。電源設計者にとっては、こうした開発負荷を省いたり、軽減したりできることも大きなメリットである。

GaN HEMTとSi-MOSFETの損失差は5W

 新電元工業は、開発したMG001AMとメイントランスや共振用チョークなどを実装した出力1kWのLCC電流共振電源ボードを試作している。ボードの外形寸法は90×130mmである。この評価ボードを用いて、メインスイッチ素子にスーパージャンクション(SJ)MOSFETを用いた場合との、動作比較を行った。

LLC電流共振電源ボード。Si-MOSFETは1MHz駆動が可能な製品を用いて、GaN HEMTとの動作比較を行った

 前述の通り、一般的なSi-MOSFETのスイッチング周波数は100kHz程度が実用域である。今回は、1MHz駆動でGaN HEMTとの動作比較を行うため、オン抵抗が150mΩ(代表値)でゲート容量(Qg)が39nC(代表値)のSJ-MOSFETを用いて、効率などを評価した。

LLC電流共振電源のブロック図

 この結果、スイッチング周波数1MHzで出力電力1kWにおける電力変換効率は、GaN HEMTを用いると96.8%となった。これに対してSJ-MOSFETを用いると96.3%である。損失差は5Wとなった。この差分を放熱フィンのサイズに置き換えると、フィンの面積を13%削減することが可能になる。

メインスイッチ素子に、GaN HEMTとSJ-MOSFETを用いた時の電力変換効率を比較したデータ。損失差は5Wとなった。これにより、GaN HEMTを用いると放熱フィンの面積を13%も小型にできる

 損失差の要因は、メインスイッチ素子のオン抵抗の差である。駆動ICにおいても、メインスイッチ素子のQg差が発熱量の差となって表れた。LCC電流共振電源ボードを用い、入力400Vで出力電力1kW(400V、2.5A)の条件で、メインスイッチ素子のケース温度(Tc)を測定した。

 その結果、周囲温度が29℃で放熱用のファンを用いて評価用電源ボードを動作させたとき、基板上に実装されたGaN HEMTのTcは44℃となった。これに対し、SJ-MOSFETのTcは53.7℃であった。GaN HEMTを用いることで、Tcは10℃も下がることが分かった。

 駆動ICのTcも、GaN HEMTを駆動した場合は34.8℃にとどまるものの、SJ-MOSFETを駆動すると50℃になり、GaN HEMTとは15℃の差が生じた。駆動ICのTcは、メインスイッチ素子のQgが大きく影響する。前述の通り、搭載したGaN HEMTのオン抵抗は50mΩでQgは5.8nCである。

 これに対して、動作比較に用いたSJ-MOSFETは、オン抵抗が150mΩでQgは39nCである。スイッチング周波数が1MHzでの評価を想定してこのデバイスを選んだ。Qg値の差によってSJ-MOSFETのゲート駆動電流が大きくなり、発熱量も増えた。

 仮に、搭載したGaN HEMTとほぼ同じオン抵抗(58mΩ)のSJ-MOSFETを用いた場合、Qgは64nCとなり駆動ICの発熱はさらに大きくなって、Tcは80℃を超えることが分かった。このため、スイッチング周波数が1MHzに達する場合は、低オン抵抗のSJ-MOSFETを採用することは現実的ではない。

メインスイッチ素子の発熱を比較。左図はGaN HEMTを搭載した基板の熱分布で、GaN HEMTのTcは44℃にとどまる。右図はSJ-MOSFETを搭載した基板の熱分布で、SJ-MOSFETのTcは53.7℃になった
駆動ICの発熱比較。Qgの差が駆動ICの発熱の差になって表れた

 続いて、1MHzのスイッチング周波数で動作させたときのローサイドスイッチにおけるゲート電圧波形を比較した。メインスイッチ素子にSJ-MOSFETを用いた場合、スイッチング周波数が1MHzを上回ると、これ以上はゲート電圧が上がらない領域となる。これに対し、GaN HEMTを用いると、1MHzを超えても波形はフラットであり、安定した動作を実現できていることが見て取れる。GaN HEMTでは、スイッチング周波数をさらに高めることも可能である。

1MHz動作時の波形比較。GaN HEMTでは安定した波形が得られている

 電源のスイッチング周波数を高めていくことは、周辺部品の小型化にも貢献する。実装スペースに制限があるオンボードチャージャー(OBC)や車載システム、基地局向けの電源などでは極めて重要な要件となる。スイッチング周波数を従来の100kHzから1MHzに引き上げることで、メイントランスや共振トランスのサイズはほぼ半分に小型化できる。

 なお、先述の通り、GaN HEMTは放熱性にも優れるため、放熱フィンのサイズも従来のSi-MOSFETに比べ13%小さくできる。その結果、LLC電流共振電源全体のサイズを約20%削減できるようになることが分かった。

ハードスイッチング動作では、スイッチング損失は約10分の1

 ハードスイッチング方式についてもGaN HEMTとSJ-MOSFETを用いた時のスイッチング損失について評価を行った。一般的に、ハードスイッチング動作は、ZVSと比べてノイズ面で不利といわれている。ところが、GaN HEMTを用いるとSJ-MOSFETを用いた時に比べて、リンキングが少なくスイッチング損失を約10分の1に低減できることが分かった。

 MG001AMは、素子レイアウトを工夫し最適化することで、立ち上がり/立下り時間を短くし、ターンオン時のサージ電流を抑えた。これにより、GaN HEMTを高速スイッチングした時に課題となっていた「ターンオン時にサージ電流が増大する」という課題をクリアすることができた。

 スイッチング周波数が高くなるほど、GaN HEMTとSJ-MOSFETではスイッチング損失に差が生じる。よって、1MHzなど高周波スイッチングになると、SJ-MOSFETに比べスイッチング損失が小さいGaN HEMTを用いるメリットは大きくなる。

ターンオン/ターオフ時の波形。ハードスイッチング動作でもスイッチング損失を約10分の1に低減した

寄生インダクタンスは5分の1

 前述の通り、MG001AMは2個のGaN HEMTをベアチップで基板上に実装し、ハーフブリッジ回路を構成している。内部の実装基板上では、ハイサイドスイッチのソース端子とローサイドスイッチのドレイン端子を接続している。だが、この配線パターンによって生じる寄生インダクタンスが、高周波スイッチングの特性に影響を及ぼすことがある。MG001AMでは、独自のパターン配線技術により、寄生インダクタンスを従来の5分の1に最小化した。

ハーフブリッジ回路をモジュール化したことで、寄生インダクタンスを最小化。安定動作のための回路設計を容易にした

 新電元工業は、さまざまなパワー半導体/モジュールを提供している。これらは脱炭素社会の実現に向けた次世代電源の開発に必要となる製品である。大電力における変換効率の向上を追求しているのもそのためだ。新開発のパワーモジュールには、高速スイッチングを可能とするGaN HEMTを用いた。その上、必要な回路をモジュール化することで、電源回路設計者の開発負荷を軽減することが可能になった。

 Siパワー半導体では実現することができなかった高周波動作により小型でかつ大電力の高効率スイッチング電源も、GaNパワーモジュールの登場によって、実用化に大きく近づいた。

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提供:新電元工業株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2020年2月13日

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