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2020年の市況を占う ―― WSTS、SEMIの予測は保守的すぎる!?大山聡の業界スコープ(25)(2/2 ページ)

» 2020年01月23日 11時30分 公開
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製造装置市場についても大きな成長見込める

 そして次は半導体製造装置市場についてだ。SEMIが2019年12月に発表した世界半導体製造装置の市場予測によれば、2020年は前年比5.5%増、2021年は9.8%増の成長が期待できる、とのことだが、これもWSTSと同様、保守的すぎると言わざるを得ない。

世界半導体製造装置の地域別市場予測(単位:10億米ドル) 出所:SEMI

 仮に半導体市場がWSTSの予測通り(同5.9%増)の低い成長率であれば、半導体製造装置市場も同レベルの成長に留まることはあり得るだろう。しかし筆者は、2020年の半導体市場が20%を上回る成長率になると予測しており、製造装置市場も同レベル、あるいはそれ以上の成長が期待できると考えている。TSMC、Intel、Samsungが積極的な設備投資を行っていることはすでに述べた通りだが、この3社だけで世界半導体製造装置の約半分が購入されているのである。保守的な予測が上方修正されるのは時間の問題だろう。

5G元年の対応スマホ出荷数は?

 筆者が2020年の見通しを強気に予測しているのは、最大のアプリケーションであるスマホ市場の見通しが明るいことが大きな要因となっている。5G(第5世代移動通信)元年の2020年は、多くの新機種登場が見込まれるため、半導体需要のけん引役を力強く果たしてくれるだろう。

 因みにQualcomm、Mediatek、HiSiliconの各社が5G対応SoCの量産を計画しているが、この3社の計画値を単純に足し算すると、今年の5G対応スマホは5億台ほど出荷されることになるようだ。しかし3社はいずれも製造をTSMCに委託しているため、TSMCがこの5億台分のSoCを量産できるかどうかがポイントとなる。TSMCはこのような需要に対応すべく、5nm、7nmといった最先端プロセスの量産体制を整えている。2019年に台湾向けの半導体製造装置が大きく伸びたのはそのためだ。だが、最先端プロセスの供給能力はまだまだ足りないようで、5G対応SoCの量産はせいぜい2億台分に留まるのではないか、と思われる。

 5Gが活用されるアプリケーションとしては、自動運転や遠隔医療などがあるが、これらは人の命や安全性に関わるサービスなので、本格的な立ち上がりにはまだ時間を要するだろう。しかし、5Gスマホの量産は始まっているし、通信キャリアは5G基地局をフルスピードで設置している。5Gを活⽤したサービスを提供しようとしている事業者にしてみれば「目⽴ったモン勝ち」「アドバルーンをぶち上げてやる」といった感覚でいることだろう。ユーザーとしては、「こんなサービスがほしい」という具体的なニーズはなくても、「⾯⽩そうだな」と興味を引きそうな事例がたくさん出てくることを期待したいところである。

 以前に述べたが、5Gを活用することで、地方自治体が地域経済を活性化させられることに注目したい。農作業機器の自動運転が実現すれば、生産性は大幅に向上するし、IoTやAIを活用する「スマート農業」は、労働人口が減り続けている農業を活性化できるだろう。農業以外にも、路線バスの自動運転、過疎地における遠隔医療の実現など、時間をかけてでも導入することができれば、人口の流出/過疎化を食い止めるキッカケにもなるだろう。自治体としては、今から具体的な計画を立てることが重要なのである。

 1年前、2019年1月には「市況見通しの悪い2019年」というネガティブなタイトルで年初記事を書いた。今、読み返して見ても実に暗い内容になっている。それに引き替え、今年、2020年は明るい内容の年初記事を書かせていただくことができ、非常にありがたく感じている。自身にとっても極めて重要な1年になりそうなので、ポジティブな市況見通しを追い風にしたいものである。

筆者プロフィール

大山 聡(おおやま さとる)グロスバーグ合同会社 代表

 慶應義塾大学大学院にて管理工学を専攻し、工学修士号を取得。1985年に東京エレクトロン入社。セールスエンジニアを歴任し、1992年にデータクエスト(現ガートナー)に入社、半導体産業分析部でシニア・インダストリ・アナリストを歴任。

 1996年にBZW証券(現バークレイズ証券)に入社、証券アナリストとして日立製作所、東芝、三菱電機、NEC、富士通、ニコン、アドバンテスト、東京エレクトロン、ソニー、パナソニック、シャープ、三洋電機などの調査・分析を担当。1997年にABNアムロ証券に入社、2001年にはリーマンブラザーズ証券に入社、やはり証券アナリストとして上述企業の調査・分析を継続。1999年、2000年には産業エレクトロニクス部門の日経アナリストランキング4位にランクされた。2004年に富士通に入社、電子デバイス部門・経営戦略室・主席部長として、半導体部門の分社化などに関与した。

 2010年にアイサプライ(現IHS Markit Technology)に入社、半導体および二次電池の調査・分析を担当した。

 2017年に調査およびコンサルティングを主務とするグロスバーグ合同会社を設立、現在に至る。


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