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新型コロナウイルス、製造業における欧米各社の対応はサプライチェーンへの懸念が増加(1/2 ページ)

世界保健機関(WHO)は2020年1月31日、新型コロナウイルス感染が中国大陸を越えて拡大し、中国国内では死者も出ているという事態を受け、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言した。世界的な技術メーカー各社は、従業員たちの安全を第一に考えた措置を講じている。

» 2020年02月05日 11時50分 公開
[Barbara JorgensenEE Times]
画像はイメージです

編集注:)本稿は、米国EE Timesに2020年1月30日に掲載された記事を翻訳したものとなります。

 世界保健機関(WHO)は2020年1月31日、新型コロナウイルス感染が中国大陸を越えて拡大し、中国国内では死者も出ているという事態を受け、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言した。世界的な技術メーカー各社は、従業員たちの安全を第一に考えた措置を講じている。

 例えばAppleは、従業員の移動を制限し、複数の店舗を休業にしている他、Avnetは、従業員に在宅勤務を命じている。またPeugeotとCitroenは、中国人スタッフ以外の従業員をフランスに帰国させているところだ。

 2020年2月5日の時点で、コロナウイルスの患者数は中国全土で2万人を超えている。中国は、2002〜2003年に世界的に拡大した重症急性呼吸器症候群(SARS:Severe Acute Respiratory Syndrome)を上回ったことを明らかにしている。中国国内では、新型コロナウイルス感染による死亡者数が490人に達したという。感染症例は日に日に増加しており、社会不安が高まる一方だ。

 新型コロナウイルス感染症の発生地とされる武漢(Wuhan)は、中国最大規模の製造拠点の一つである。FoxconnやPegatronなどの他、メモリメーカーであるXMCやYangtze Memory Technologiesも、武漢で事業を展開している。自動車メーカーでは、GM(General Motors)やホンダ、Volkswagen、BMW、Daimlerなどが、多くの従業員を現地に送り込んでいる。

 エレクトロニクス商社であるAvnetのCEOを務めるBill Amelio氏は、「現在のところ、当社の従業員には在宅勤務をさせている。2020年1月23日付の収支報告を確認したところ、業績への影響はまだ見られない。しかし、事態がさらに深刻化すれば、空港の閉鎖などによって、中国国外への出荷に別の影響が及ぶことになるだろう」と述べている。

 今まさに、その通りのことが起こっている。航空各社が、中国発着のフライトを欠航にしている他、AmazonやGoogle、Facebookは、従業員の移動を制限している。現在、武漢にある工場の大半が、春節(旧正月)のために休業しているが、中国政府はその春節連休を延長して、生産ラインの稼働を遅らせることを決めた。

 今回の危機的状況を受け、エレクトロニクス業界に重大な影響が及んでいる。重要課題として、“米中間の貿易戦争”と、“英国のEU離脱(ブレグジット)”、“サプライチェーンの不確実性”の3つが挙げられる。

 エレクトロニクス業界は、2020年の業界成長予測を変える可能性がある連鎖的な混乱に対応すべく、準備態勢を整えている。米国の市場調査会社IC Insightsのプレジデントを務めるBill McLean氏は、「今回の新型コロナウイルスの発生によって、経済的不安が深刻化し、半導体の設備投資が失速している」と述べる。

 同氏は、米国マサチューセッツ州ボストンで開催されたフォーラムにおいて、「ブレグジットや貿易問題、そして今回のコロナウイルスによって、世界的な不確実性が高まっている。このような不確実性の存在は、企業や消費者の動きを止めてしまう」と述べる。世界の半導体設備投資額は、2019年には1035億米ドルだったが、2020年はその約6%減となる976億米ドルと予測されている。

 Financial Timesの取材によると、中国政府のシンクタンクである中国社会科学院(Chinese Academy of Social Sciences)でエコノミストを務めるZhang Ming氏は、「今回の新型コロナウイルス発生により、中国の2020年第1四半期における経済成長率は、5%未満に低下する可能性がある」と警告したという。経済界では現在、中国のGDP成長率予測について、5.7%との見方で一致している。McLean氏によると、中国の平均成長率は2018年以来、着実に低下しているという。

欧米の対応

 企業や国家は、人の移動を制限することに加え、帰国のための手配を進めているところだ。こうした各国の取り組み事例について、いくつか紹介していきたい。

編集注:)日本では、政府が武漢にチャーター機を派遣し、これまでに約550人が帰国した。

米国:GoogleやFacebook、Apple、Avnet、Arrow、GMなどの企業は、オフィスや工場を休業し、従業員の移動を制限して在宅勤務を命じている他、中国人従業員にはマスクを支給しているという。米国は、既に公務員を帰国させており、今後さらに多くの米国人を帰国させる予定だ。米国務省は、1月29日に帰国させた一般市民の飛行機代について、政府が支払うとしている。

イタリア:イタリアの保健省事務次官であるSandra Zampa氏は、InBlu Radioの中で、「武漢で勤務しているイタリア人は、陸路で移動してから、飛行機でイタリアへ帰国する予定だ。今から24時間以内に、60人のイタリア人を帰国させる予定だが、このうち15人は、国際結婚者であるため、まだ帰国を決断できていない状況にある。帰国予定者は、全員感染していない。軍用機で帰国する予定だ」と述べている。

ドイツ:報道によると、ドイツ政府は週末にかけて、武漢に滞在している90人のドイツ人を帰国させる予定だ。

 ドイツの国際放送事業体Deutsche Welleの報道によると、VolkswagenやBMW、Daimlerの他、巨大化学メーカーであるEvonikやBASFなどは、「WHOやドイツ外務省、ドイツの公的な疾病対策監視機関であるロベルト・コッホ研究所(Robert-Koch-Institute)などが提供する、健康ガイダンスに忠実に従う予定だ」と述べているという。バッテリーメーカーであるHoppeckeは既に、ホリデーシーズンに向けて3つの工場を休業している。その中の一つは、従業員500人の大手鉛蓄電池メーカーだという。

 この鉛蓄電池メーカーは、Deutsche Welleの取材の中で、「中国人スタッフの約99%が休暇中だ。ドイツ人スタッフは全員、既に中国を出発している。経営陣は現地に待機し、状況の進展を見守りながら、中国への渡航に関するドイツ当局の発表内容を確認していく」と述べている。

フランス:フランスでも既に約180人が中国から帰国した。フランスに到着した帰国者は、コロナウイルスの潜伏期間とされる14日間、専用の建物に隔離されている。

 フランスの大手自動車メーカーであるGroupe PSA(Peugeot Société Anonyme)は、武漢駐在員に対する帰国手段について検討しているという。同社はCNBCへの電子メールで、「武漢で働く従業員を帰国させる決定は”中国当局との全面的な協力の下、フランス当局の判断に従って”行う」と述べている。

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