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» 2020年03月12日 11時30分 公開

福田昭のデバイス通信(232) 2019年度版実装技術ロードマップ(42):差動伝送ラインを雑音から守るコモンモードフィルタ(後編) (2/2)

[福田昭,EE Times Japan]
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大電流の巻線型、高周波の積層型、高精度の薄膜型

 コモンモードフィルタの種類を構造別に分類すると、「巻線型」と「積層型」「薄膜型」に分かれる。「巻線型」は、磁性体コアに太い銅線を巻きつけたタイプのコモンモードフィルタである。直流抵抗が低い、大きな電流を流せるといった特長を備える。電源ライン用のコモンモードフィルタは、巻線型が多い。

 「積層型」は、金属配線のコイルをシート状の磁性体基板に印刷したものを積層したタイプのコモンモードフィルタである。小型低背の表面実装型部品を作れる、高周波特性に優れる、といった特長を備える。

 「薄膜型」は、積層型よりも薄い金属配線のコイルをスパッタリングや蒸着などによって磁性体の基板に形成したタイプのコモンモードフィルタである。小型低背で高精度の表面実装型部品を作れる、高周波特性に優れる、比較的大きな電流にも対応する、といった特長を備える。

薄膜型コモンモードフィルタの製品例。TDKの「TCM0403R」。外形寸法は0.45mm×0.30mmm×0.23mmと極めて小さい。同社の2015年5月14日付ニュースリリースから

フィルタ特性を表現する3つのパラメータ

 コモンモードフィルタの性能を表現する最も簡素なパラメータは、コモンモード(同相モード)・インピーダンスの周波数特性である。インピーダンスが高い周波数帯域は、コモンモード雑音を除去する性能に優れていると推定できる。

 しかしインピーダンスの周波数特性は、フィルタとしての性能そのものではない。最近では電気回路の入出力特性を示すパラメータ群の1つである「Sパラメータ(Scattering Parameters)」を、差動モードと同相モードに分けて表現した「ミクスドモードSパラメータ(Mixed Mode Scattering Parameters)」が使われる。

 ミクスドモードSパラメータは4×4の行列で表現する。すなわち「Sabxy(abxyは添字)」で表す16個のパラメータがある。前半の「ab」はモードの入出力関係を示す。入力と出力の両方が同相モード(コモンモード)の場合は「Scc」、入力と出力の両方が差動モード(ディファレンシャルモード)の場合は「Sdd」、入力が差動モードで出力が同相モードの場合は「Scd」、入力が同相モードで出力が差動モードの場合は「Sdc」となる。

 後半の「xy」は測定用信号を印加する端子と出力を測定する端子の関係を示す。電気回路の入力端子は「1」、出力端子は「2」である。例えばパラメータの測定用信号を入力端子に印加し、出力端子の信号を測定した場合は「21」となる。まとめると例えば「Scc11」は入力端子に印加した同相モード信号と入力端子から出てくる同相モード信号の比率を示す。具体的には、同相モード信号の反射特性を意味する。

ミクスドモードSパラメータの概要。出典:アジレント・テクノロジー(現在はキーサイト・テクノロジー)、「差動インピーダンス測定技術セミナ、Characterization of BalancedDigital Components andCommunication Paths」、2001年5月21日、p.21(クリックで拡大)

 コモンモードフィルタにとって重要なミクスドモードSパラメータは、主に3つ。「Sdd21」(差動モードの挿入損失)、「Scc21」(同相モードの減衰量)、「Scd21」(モード変換量(差動モードから同相モードへの変換量))である。いずれも周波数特性で表現する。

 「Sdd21」(差動モードの挿入損失)とは、フィルタの挿入損失である。広い周波数帯域に渡り、なるべく小さいことが望ましい。「Scc21」(同相モードの減衰量)とは、同相モード雑音を低減する度合いを意味する。なるべく大きいことが望ましい。「Scd21」(モード変換量)は、差動モードから同相モードに変換される信号の割合を示す。なるべく小さいことが望ましい。

車載イーサネットが要求するコモンモードフィルタ

 最後に製品動向について述べよう。差動伝送インタフェース技術で注目すべき動きに、クルマへのイーサネット技術(車載イーサネット技術)の導入がある。車載用ネットワークの速度はモバイル分野やPC分野などに比べると、あまり高くない。モバイル分野やPC分野では10Gビット/秒前後のインタフェースが既に普及しているのに対し、車載分野では10Mビット/秒前後にとどまる。

 そこで、PC分野で普及しているイーサネット技術をクルマに応用することで、高速かつ低コストのネットワークを構築することをねらった。最初の車載イーサネット技術は、Broadcomが開発した最大データ転送速度が100Mビット秒の「BroadR-Reach(ブローダーリーチ)」技術である。この技術をベースに、IEEEが「IEEE 802.3bw」規格、別名「100BASE-T1」として技術仕様を策定した。

 「100BASE-T1」の特長は、伝送ケーブルを軽くするためにシールド無しのツイストペア(UTP:Un-shielded Twisted Pair)線を規格に含めたことにある。UTPは軽量化に寄与するものの、外部に不要な電磁波を放射しやすいという弱点がある。この弱点を補うために、コモンモードフィルタが使われる。

 例えば村田製作所は2019年11月25日に、使用温度範囲の上限がプラス150℃と高い車載イーサネット(100BASE-T1)用コモンモードフィルタ「DLW32MH201YK2」を商品化したと発表した。使用温度範囲は−55℃〜150℃と広い。大きさは3225サイズ(3.2mm×2.5mm)で、高さは2.3mmである。表面実装に対応する。

使用温度範囲がマイナス55℃〜プラス150℃と広い車載イーサネット用コモンモードフィルタ「DLW32MH201YK2」。村田製作所が2019年11月25日付で発表したニュースリリースから

(次回に続く)

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