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» 2020年03月25日 11時30分 公開

世界を「数字」で回してみよう(62) 番外編:ある医師がエンジニアに寄せた“コロナにまつわる現場の本音” (4/10)

[江端智一,EE Times Japan]

COVID-19対策シミュレーション

 さて、ここで一度、これまでの話をまとめてみます。

(1)既存の風邪やインフルエンザのウイルス伝播における重要度については、「空気中の飛沫を吸い込むこと」に対して、「手指に付着した飛沫を口腔・鼻・目の粘膜へ接触させてしまうこと」は同等か、それ以上の意味がある

(2)「手を洗わずに食事をする」「手を口元、鼻、目に持っていく」「マスクを触った後に手洗いをしない」ことがある人にとっては、マスク着用の意味は半減する

 ちなみに、手を口元、鼻、目に持っていかない人を、私は見たことがありません。自分を含め、全ての人が、手を顔に持っていきます。

 ですので、マスクで空中の飛沫を吸い込まないように防御することも大切ですが、感染者の飛沫をつり革やドアノブや非感染者の衣服、店の商品に付着させないことが、重要になります。ここに、マスク着用における感染者と健常者の非対称性が発生すると考えています。

 ここで、江端さんが疑問とされている、マスク着用の感染者と健常者における非対称性は、下記のように表現されると思います。

「まず、毒を塗った鉛を詰め込んだ散弾銃と、厚さ5mmの鉄でできたマスクを用意します。さて、自分がマスクをするのと、銃口にマスクを設置するのと、どちらがより効果的でしょうか?」

 もちろん、外出の度に毒の付いた散弾が体中(頭の天辺から足の爪先に至るまで、ありとあらゆる体の場所)に被弾していると意識して、それに見合う完璧な衛生習慣を実施した上で、さらに追加して正しくマスクを装着した場合には、理論上は「マスクの編み目より大きな飛沫をブロックする」という追加の感染予防効果が期待されます。

 このように考えた場合、「感染者のマスク着用は意味があるが、非感染者のマスク着用には意味が無い」と断言してしまうのは間違い(あるいは、言い過ぎ)だと思います。実際に、COVID-19患者に接する医療従事者は、感染防止の観点から、マスク(+防護服、防護キャップ、アイシールド、手袋、場合により足袋)をしています。

 理論上は、万人に衛生習慣を徹底させた上で、感染者には全員サージカルマスクを装着させ、非感染者には全員防塵マスクを死ぬまで装着させれば、理想的ですが、そんなことは現実的には、無理に決まっています。

 さてここでマスクの話題から少し離れてみたいと思います。

 問題は、『われわれはいつまで対策を続けなければならないか?』です。

 これを、COVID-19の結末(エンドポイント)ごとにベン図で江端さん風に世界線という表現で分けると、こんな感じになります。

  • 世界線A:COVID-19根絶に成功した世界。到達まで2年〜十数年?
  • 世界線B:ウイルスは存続しているが、治療薬とワクチンにより致死率が普通の風邪並になる。1年〜十数年後くらい?
  • 世界線C:理想的な結末。1年〜十数年後くらい?
  • 世界線D:根絶に失敗し、ウイルスが地球に定着した世界。感染リスクは永遠に続く。

 世界線Dは絶望ではなく、小児期に複数回感染することで免疫を獲得するいわゆる「普通の風邪」になり、COVID-19の致死率は長期的には徐々に低下する、というシナリオです。根拠はありません。しかし、スペイン風邪でもSARSでも人類は絶滅しませんでした。集団としてのヒトという種が持つ免疫力は信じても大丈夫だと思います。

 若者にとっては、世界線A〜Dのどれであっても致死率はほとんどインフルエンザと変わりません。医療崩壊の危険が去ったあとなら、いつ感染しても特に問題ないでしょう。一方、高齢者にとっては、余命の間に世界線A、B、Cに到達することに賭けるより、感染を予防することに徹底した方がいいでしょう

 問題は、ざっくり中高年と呼ばれる世代です。世界線A、B、Cへの到達が早いなら「感染を徹底的に予防しながらじっくり待つ」というのが最適戦略です。

 しかし、世界線A、B、Cの到達が遅い、もしくは世界線Dが結末なのだとしたら……。十数年後、まだCOVID-19が存在する世界でうっかり年を取ってから初感染するよりも、2020年の今感染してしまった方が、致死率が低く、かつ、免疫獲得によって行動と精神の自由が獲得できます。つまり「感染予防の徹底が最適である」という保証が「現時点ではない」のです。

 もちろん死亡する可能性のある疾患ですから、『自分から積極的に感染しに行く』ということは考えにくいです。しかし、「マスクの入手に血眼になること」が「近い未来の(老後の)自分の死亡率を上げるために奮闘している」とも言えるのです。

 「マスクを“手に入れない”戦略」という考え方もあるということを知って頂き、今、この時にパニックになっている人に、少しでも安堵(?)してもらえるのであれば、私はうれしいです。

 以上、年代別に分けて、長期予測と論理的最適解を考察してみました。特に、中高年の最適解は選択される世界線によって変わります。恐らく1年以内に、世界の誰かが、根拠付きで提示してくれるはず、と信じています。

 私は、前述のようにマスクの限界を悟っていますので、ほぼ普通に生活することを選択しました。マスク着用については、個人的には、病院外でのマスク着用は、一応周囲に流されて付けてはいます(日本人だなぁ……と痛感します)が、うっかり忘れることもしばしばです。

 なので、病院外では、安いマスクを、「あれば付ける」「忘れたら諦める」「無くても諦める」というスタンスで生活しています。

 手洗い、アルコール消毒は、励行しています。正直なところ、私自身が手を口元、鼻、目に持っていかないなど不可能で、マスクを手で触ったり、ドアノブやエレベーターのボタンを触ったらすぐに手洗いなどなど、それなりに頑張っていますが、完璧に持続するのは実際的には無理です。近いうちに感染するであろうと、腹を括っています。

 とはいえ、(高齢の)父母の世代にうつさないようにしないとなぁ……と、それだけは気を付けなければいけないと思っています。たとえ自分が感染することは諦めても、後述するように、人に感染させること、感染者の急増を阻止することは諦めてはいけないのです。感染してからが本番です。

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