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» 2020年04月15日 11時30分 公開

湯之上隆のナノフォーカス(24):“アフター・コロナ”の半導体産業を占う 〜ムーアの法則は止まるのか (4/5)

[湯之上隆(微細加工研究所),EE Times Japan]

コロナによる問題1:製造装置が手に入らない

 TSMCでは、N5による量産が順調に立ち上がっていることを述べた。その後、TSMCは、N5を最適化したN5+を立ち上げる予定である。N5+の製造装置は、N5とほぼ同じである。装置を導入し、ウエハーを投入すれば、N5+は立ち上がるだろう。

 ところが、N5+用の製造装置が入手できないと聞いた。それはなぜなのか?

 筆者が調べたところ、米国のカリフォルニア州が都市封鎖されていることが、その原因となっている。というのは、カリフォルニア州に本社がある装置メーカーのApplied Materials、Lam Research、KLAの社員が在宅勤務を余儀なくされているからである。在宅勤務では、装置はつくれない。

 また、ASML傘下の露光装置の光源メーカーCymerも、カリフォルニア州のサンデイエゴに本社があるため、その機能が停止していると思われる。今のところ、EUVの光源はCymer製が搭載されている。したがって、TSMCがN5+用に20台以上のEUVを導入する計画は、遅延せざるを得ない。

 装置が手に入らないというのは、TSMCだけでなく、全ての半導体メーカーに共通した深刻な問題である。カリフォルニア州の都市封鎖が解除されなければ、米国製の装置や重要パーツはつくれないからだ。

コロナによる問題2:次世代の技術開発ができない

 カリフォルニア州で在宅勤務している大手製造装置メーカーの知人から、ライブデモができないということを聞いた。

 ライブデモとは、半導体メーカーが次世代製品のプロセスフローを構築するために、要所となる工程の加工検討を装置メーカーの設備を使って行うことである。装置メーカーでは、ライブデモの結果から、最適なプロセスを開発し、そのプロセスを実現するための製造装置を試作する。

 半導体メーカーは、試作された装置(β機と呼ぶ)をR&Dセンターなどに導入して、装置メーカーと共同で加工実験を行い、その結果を基に装置メーカーは量産装置(γ機と呼ぶ)を完成させる。

 ところが、現在、カリフォルニア州に本社がある装置メーカーでは、ライブデモができない。また、装置メーカーの技術者が共同開発のために、国境を越えて半導体メーカーに出向くこともできない。従って、次世代の製造装置の開発が滞っている。

 コロナ騒動が長引けば、最先端の微細化技術の開発が停滞する。場合によっては、コロナ禍により、ムーアの法則が止まる可能性がある。

 実際、TSMCは、ことし(2020年)6月に開始するはずだった3nmプロセスの試作を10月に延期する(関連記事:GizChina)。そして、現在の状況を考えれば、10月に開始できる保証もない。

コロナによる問題3:日本の中小零細企業がボトルネックに

 日本、韓国、台湾、中国を東アジアと定義した場合、世界の半導体製造の中心は東アジアであり、日本が製造装置(その部品および設備)や材料を供給し、韓国がメモリを、TSMCがある台湾がロジック半導体を製造して、それらが台湾ホンハイの中国工場に集積され各種電子機器が製造されている(図7、拙著記事:「パンデミック後の半導体製造、ボトルネックになるのは日本なのか」)。

図7:東アジアの各地域の特徴と役割 パンデミック後の半導体製造、ボトルネックになるのは日本なのかより再掲(クリックで拡大)

 拙著記事では、日本がボトルネックになる可能性について言及したが、日本の7都府県に緊急事態宣言が出された今、事態はもっと深刻であると考えられる。

 例えば、ドライエッチング装置やCVD装置は、約3000点の部品から構成されている。その部品の中で、ウエハーを搭載する静電チャックやセラミックヒーター、真空ポンプ、各種電源、除外装置などは、東証1部上場企業が製造しており、コロナによって売り上げが落ち込んだとしても、倒産することは無いだろう。

 しかし、上記の重要部品は数十以上の部品から構成されている上、それ以外の細かな部品も含めると、そのほとんどを日本の中小零細企業が製造している。これら中小零細企業が手掛けている部品は、日米欧全ての製造装置に採用されている。さらに、日本が圧倒的な強みを発揮している半導体材料についても、その原材料を日本の中小零細企業に頼っているものが多数ある。

 安倍政権は、緊急事態宣言で108兆円規模の経済対策を行うと発表し、中小企業に最大200万円の現金給付を行うこととした。しかし、その給付のハードルは高く、中小零細企業に届くかどうかは分からない。

 もし、規模は小さくとも独占的なシェアを占めている部品や材料メーカーが倒産したら、製造装置をつくることができなくなり、半導体材料を供給することが困難になる。装置がつくれなければ半導体メーカーは設備投資ができない。そして、材料の供給が滞れば工場稼働が止まる。それは、世界の半導体産業の崩壊を意味する。

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