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1ミリでいいからコロナに反撃したいエンジニアのための“仮想特効薬”の作り方世界を「数字」で回してみよう(63) 番外編(4/7 ページ)

» 2020年05月03日 19時00分 公開
[江端智一EE Times Japan]

コピペするだけで、設計できてしまった……

 それでは、早速江端さんにコロナウイルスを分解するsiRNAを設計していただきます。

 まず、コロナウイルス(SARS-CoV-2)のゲノム情報を得ます。

 こちらのサイトに、SARS-CoV-2のゲノム情報が公開されています。これは、武漢のオリジナルのウイルスのゲノム情報だったと思います。他にも変異株が続々に登録されていますが、まずは武漢のオリジナルで設計してみましょう。

 ページの下の方、というか、一番下、にATGCの4文字が3万文字ほど並んだ配列があります。

 これが憎っくきコロナウイルスのゲノムの全てです。

 この1本鎖RNAをタンパク質と脂質の膜でくるんだらウイルスそのものになる、というわけです。

 数字込みでいいので、originの表記の後、「1 attaa・・・・・」から、最後の「・・・・aaaaaa」の配列情報をコピーします。

SARS-CoV-2のゲノム配列。Wordに、そのまんまコピーしたら14ページになりました。

(江端の脳内)

 でも、3万塩基対から、クスリとして有用な塩基配列の候補を抽出って……どんなものすごい計算量になるんだろう。

 私の作った交通シミュレーションでは、ゲーミングPC(高速処理に特化したPC)でも、合計1万人の人間を1日分移動させるだけで、3時間はかかったくらいだから ――

 SARS-CoV-2を攻撃しつつ、他のRNAは攻撃しない ―― そんな都合の良い塩基対列を抽出するなら、最初の1つ目の塩基列発見に2〜3日くらいは必要だろうなぁ……。

 次に、こちらのサイトを開きます。無料でsiRNAを設計してくれるたくさんあるホームページのうちの1つです。

 え? 『無料』? 『たくさんあるホームページの1つ』? dry laboratoryの世界って、そんなに気前いいの?

 枠内に、サンプル配列が記載されていますが、これを削除して、先ほどコピーした配列をペーストして、実行(クリック)してください。

 はい。

 すると、大量のsiRNA配列候補が出力されてきます。

 待つこと10秒 ―― すごいものが出てきました。

 候補となるクスリ(の塩基配列) ―― 実に1809種類

*)ちなみに、今回使用したPCは、現在、秋葉原の中古PC店で19800円くらいで販売されている程度のPC(Intel Core i7-4770S CPU 3.10G、メモリ16GB)です。

 おめでとうございます。抗SARS-CoV-2薬候補がたくさんデザインできました。

 ありがとうございます……って、先生、そうじゃなくて(思わず、ノリツッコミをする江端)。

 その瞬間、私の頭に浮んだことは、『医薬の設計製造は、高度な医療知識がある一部のエリートと、スパコンの仕事』という言い逃れが、もう使えなくなっているんだなぁ』という、隔世の感でした。

 しかし、次の瞬間には、Webページに記載されている、江端が見たこともない用語(英語)を、Google翻訳に放り込み、自分なりに推測を始めていました。「まずは内容を理解せねば」と思ったからです。

(*):シバタ先生による詳細解説はこちら

 さらに、画面を下の方にスクロールしてみたら、候補となるクスリ(の塩基配列)が、図示されていました。

 「いつの間にか、自宅のPCで、GUIを使って医薬を設計できる時代になっていたんだ」と、今さらながら、自分の”医薬リテラシー”の、あまりの低さに絶望してしまいました。

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