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京都セミコンダクター、高さがわずか1.1mmで波長範囲の広い赤外線フォトダイオードを製品化福田昭のデバイス通信(247)(1/2 ページ)

京都セミコンダクターが、受光波長範囲が広く、高さが1.1mmと薄型の赤外線フォトダイオード(PD)を製品化した。同製品を、PDの解説と併せて紹介する。

» 2020年06月02日 11時30分 公開
[福田昭EE Times Japan]

SiとInGaAsの2つのフォトダイオードを積層

 光半導体デバイスの専門メーカーである京都セミコンダクターは2020年5月26日、受光波長範囲が400nm〜1700nmと広く、高さが1.1mmと薄型の赤外線フォトダイオード(PD)「KPMC29(KP-2 Two-tone PD)」を製品化したと発表した。医療分野における血液分析、産業分野における放射温度測定やガス分析などに向けた。表面実装タイプであり、なおかつ薄いので、ウェアラブル機器に組み込みやすい。

 開発した赤外線PDは、受光波長範囲が400nm〜1100nmのシリコン(Si)PDダイと受光波長範囲が1000nm〜1700nmのインジウムガリウムヒ素(InGaAs)PDダイを同じ光軸上に積層することで、400nm〜1700nmと広い受光波長範囲を実現している。シリコンPDダイの裏面にへこみを設けてInGaAs PDダイを収容することで、デバイス全体を薄くした。デバイスの外形寸法は長さ5.7mm×幅4mm×高さ1.1mmと小さい。過去にも京都セミコンダクターはSi PDダイとInGaAs PDダイを積層したフォトダイオードを製品化していた(挿入実装型の金属パッケージ品)。この従来品に比べ、今回の新製品は体積が8分の1と大幅に小さくなった。

 新製品「KPMC29(KP-2 Two-tone PD)」のサンプル出荷開始予定時期は2020年8月31日、量産開始予定時期は2021年4月1日である。初年度(量産開始後)の売り上げ数量は1万個を計画する。

赤外線フォトダイオード(PD)「KPMC29(KP-2 Two-tone PD)」の外観。大きさは長さ5.7mm×幅4mm×高さ1.1mm。出典:京都セミコンダクター

受光波長の範囲を広げることで応用分野を拡大

 フォトダイオード(PD)は、光を照射すると電流が流れるデバイスである。ダイオードのpn接合には、あらかじめ逆バイアスを印加しておく。このとき理想的なダイオードでは電流がゼロなのだが、現実には光を全く照射しなくともわずかな電流が流れる。この電流を「暗電流(Dark Current)」と呼ぶ。

 pn接合に逆バイアスを加えた状態でフォトダイオードに光を照射すると、pn接合で電子と正孔の対が発生し、バイアス電圧(電解)によって電子と正孔は逆方向に走行する。この結果、電流が生じる。

 ここで重要なのは、電流を発生させる光は、特定の波長範囲に限定されるということだ。この波長範囲は、フォトダイオード(PD)を構成する半導体材料のエネルギーバンドギャップ(Eg)によって決まる。Egに相当する波長よりも、短い波長の光だけを吸収し、電流(光電流)に変換する。今回の新製品を構成する材料の1つであるシリコン(Si)のEgは1.12eVなので、1240/Eg(1.12)=1107nmがSi PDが光電流を流せる最も長い波長(吸収端波長)になる。

 Si PDの感度(光電力当たりの電流量、A/W)が最大となるのは、吸収端波長よりも少し短い波長である。Si PDでは波長が900nm付近の光に対する感度が最も大きい。

 もう1つの材料であるInGaAsはInとGaの組成比xによってエネルギーバンドギャップ(Eg)が変化する。厳密な表記はInxGa1-xAsである。基板として使われるインジウムリン(InP)とは、xが0.53のときに格子定数が一致する(高品質な結晶が成長する)ので、InGaAsデバイスにはxが0.53の組成比を採用することが多い。今回の新製品も組成比xに0.53を採用している。すなわちIn0.53Ga0.47Asである。

 In0.53Ga0.47Asのエネルギーバンドギャップ(Eg)は0.728eVなので、吸収端波長は1240/Eg(0.728)=1703nmとなる。すなわちSi PDが波長1100nm以下の光、InGaAs PDが波長1700nm以下の光を吸収することで、フォトダイオード(PD)としては広い範囲の光を吸収し、電流に変換している。

シリコン(Si)PDとインジウムガリウムヒ素(InGaAs)PDの分光感度。出典:京都セミコンダクター(クリックで拡大)
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