東京大学生産技術研究所と産業技術総合研究所らの研究グループは、人工知能(AI)技術を利用して、電子が励起していない「基底状態」の情報から、「励起状態」の電子構造を、高速かつ高精度に予測する新たな手法を開発した。
東京大学生産技術研究所の溝口照康教授と清原慎大学院生(研究当時)、産業技術総合研究所の椿真史研究員らによる研究グループは2020年6月、人工知能(AI)技術を利用して、電子が励起していない「基底状態」の情報から、「励起状態」の電子構造を、高速かつ高精度に予測する新たな手法を開発したと発表した。
研究グループは今回、酸化シリコンの「結晶」と「アモルファス」から、「励起状態」と「基底状態」のスペクトルをそれぞれ約1200個計算して、データベースを作成した。このデータベースを用いて、「基底状態」と「励起状態」の関係性をニューラルネットワークに学習させ、「基底状態」の情報を入力すれば、「励起状態」の情報を高い精度で出力できる人工知能を構築した。
この手法を活用することで、スペクトルの理論計算自体を大幅に高速化することができるという。例えば、従来は数時間から数日要していた計算を、わずか数秒から数分間で実行することが可能となった。
今回の研究では、励起状態に関する重要な知見も得られたという。AI技術を活用したことで、「酸化シリコンの励起状態は、酸化マグネシウムや酸化アルミニウムといった酸化物の励起状態と類似している」ことや、「結晶とアモルファスでは、その励起状態が異なる」ことなどが、初めて明らかとなった。
今回はAI技術を内殻電子励起スペクトルに適用したが、開発した手法は基底状態の情報だけから、赤外分光やラマン分光など励起状態が関わるスペクトルを、高速かつ高精度に予測することも可能であり、物質の構造解析や環境物質調査に要する時間を大幅に短縮できるとみている。
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