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偏波MIMO対応ミリ波フェーズドアレイ無線機開発同じ周波数帯域幅で通信速度2倍

東京工業大学とNECの研究グループは、5G(第5世代移動通信)システムの通信速度をさらに高速化できる「偏波MIMO対応のミリ波フェーズドアレイ無線機」を共同で開発した。同じ周波数帯域幅を用いた従来方式に比べ、通信速度を2倍にすることが可能となる。

» 2020年06月15日 13時30分 公開
[馬本隆綱EE Times Japan]

256QAM変調による偏波MIMOに成功

 東京工業大学工学院電気電子系の岡田健一教授とNECの研究グループは2020年6月、5G(第5世代移動通信)システムの通信速度をさらに高速化できる「偏波MIMO対応のミリ波フェーズドアレイ無線機」を共同で開発したと発表した。同じ帯域幅400MHzを用いた従来方式に比べ、通信速度を2倍にすることが可能になるという。

 5Gシステムは、周波数28GHzのミリ波帯を利用することで通信の高速化を実現してきた。通信速度のさらなる向上を実現する方法の1つとして「偏波MIMO」技術が注目を集めている。これは、単一のアンテナから水平偏波と垂直偏波という2つの偏波信号を送受信し、複数の通信経路を作り出して利用する方式である。

 ところが従来の回路方式だと、2つの偏波信号が混信し信号品質が劣化するという課題があった。特に、周波数帯域幅が広くなるほど混信を防ぐのが難しく、これまでは64QAM変調による通信が限界といわれてきた。

 研究グループは今回、偏波信号間の混信を無線機回路内で打ち消すための回路方式を新たに開発した。これによって、信号品質の劣化を抑え、通信速度を向上させることが可能となった。具体的には、無線機内に信号漏えいを検出する回路とアクティブキャンセル回路を設けて偏波補償回路を構成した。偏波を任意角に回転させることも可能だという。

偏波信号間の漏えい補正および、任意角の偏波回転を実現した新回路方式 出典:東京工業大学、NEC

 研究グループは、最小配線半ピッチ65nmのシリコンCMOSプロセスを用いて、新回路方式による偏波MIMO対応のミリ波フェーズドアレイ無線機を製作した。集積回路チップの面積は16mm2で、水平偏波用と垂直偏波用にそれぞれ4系統分のトランシーバーを集積している。パッケージはWLCSPを採用した。

 トランシーバーモジュールは、プリント基板の裏面に16個の集積回路チップを、表面に設けたアンテナアレイには64個のアンテナ素子を実装した。各アンテナ素子にはそれぞれ水平/垂直の2偏波分の信号線が接続されているという。

左は偏波MIMO対応フェーズドアレイ無線機、右は64個のアンテナ素子を搭載したプリント基板の外観 (クリックで拡大) 出典:東京工業大学、NEC

 研究グループは、フェーズドアレイ無線機を搭載したトランシーバーモジュール2台を電波暗室内に対向して設置し、データ伝送の試験を行った。この結果、偏波補償回路を設けたことで、偏波間信号漏えいが−15dBから−41dBへと大幅に改善されることが分かった。トランシーバー1系統当たりの飽和出力電力は16.1dBmで、0度方向での等価等方輻射電力(EIRP)は最大52dBmであった。

 新回路方式を用いた28GHz帯フェーズドアレイ無線機は、変調精度(EVM)が7.6%から3.2%へ改善し、帯域幅400MHzを用いた256QAM変調による偏波MIMOでの通信に世界で初めて成功したという。

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