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窮地にある半導体商社はIoTを活用したサービス事業に着目すべき大山聡の業界スコープ(31)(2/2 ページ)

» 2020年07月16日 11時30分 公開
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卸売業だけで存在意義を主張し続けることは困難に

 半導体であれ、システムであれ、商社は卸売業を生業としている。半導体メーカーが直販比率を高めようとしたり、多すぎる商社の数を減らそうとしたりする昨今の動きを見ると、「商社は本当に必要なのか」という根本的な疑問に突き当たる。少なくとも商社は、生業である卸売業だけで存在意義を主張し続けることは困難であり、新たな商売ネタを求めて多くの商社が試行錯誤を繰り返している。

 代表的な例としては、EMS事業への参入、エネルギー事業への参入、オリジナル製品の育成、などが挙げられるが、残念ながら「これが成功事例だ」と呼べるものはほとんどない。EMSで高収益を上げることは困難だし、エネルギー事業は太陽光発電による売電が中心で、FIT(固定価格買取制度)価格は今後下がる一方である。オリジナル製品の育成はいかにも付加価値を狙えそうだが、現実的にはメーカーが魅力を感じないニッチ市場を狙った製品が大半で、拡販が難しい。もっと抜本的な、新しい事業分野に着目する必要があるだろう。

エレクトロニクス業界に詳しく営業力があるという強みを生かせ

 冒頭に申し上げたように、筆者は「半導体商社はIoTを活用したサービス事業に着目すべき」だと思っている。これは商社の抜本的なビジネスモデル改革につながるはずである。

 半導体商社は、エレクトロニクス業界に詳しく、営業力がある、という強みがある。この強みを生かして、エレクトロニクス業界とあまり親和性のない分野、例えば農業とか過疎化が進む地方自治体向けに、商社の新しい任務としてIoTの普及に取り組んでもらいたいものである。これらの分野におけるIoTの活用については、2019年5月の記事でも触れたが、実際には具体化している案件が少ないのが現状だ。農林水産業のWebサイトを見ると、全国で取り組まれているスマート農業(ロボット技術やICTを活用して、省力化、精密化や高品質生産を実現するなどを推進している新たな農業)の事例が年度ごとに紹介されている。ただ、令和元年度(2019年度)の報告件数は87事例に過ぎない。前年度(2018年度)の57事例からは増加しているものの、全国の農家戸数が100万戸を超えている(2018年度現在116万戸、農林水産業Webサイトより)ことを考えれば、「普及」には程遠い状況であることが分かるだろう。実際にIoTなどの導入を検討したものの、システムアレルギーを持つ農業協同組合と対立して導入に失敗した事例は後を絶たないようだ。

 農業のスマート化だけでなく、過疎化が進む自治体のサービス充実化も同様で、現状を放置すれば事態は悪化の一途を辿る懸念がある。今まで実現できなかった作業や機能が、IoTを導入することで実現できるようになれば、という理想論に異を唱える人物はいないだろうが、大量生産されるような画一的なシステムを導入しても満足な結果は得られそうにない。つまり大手メーカーのような発想ではなく、1つ1つの細かいニーズを確認しながら、ユーザーに密着する姿勢が求められるはずである。まさに商社向けのビジネスと言えるのではないだろうか。

 確かに簡単な事業ではないが、卸売業に代わる新しいビジネスモデルを模索せねばならない以上、多少の苦労を伴ってでもチャレンジしていただきたい。筆者は仕事柄、地方自治体の企業誘致担当者と面談する機会が多い。その中でほとんどの企業誘致担当者から、商社によるIoT普及、という筆者の提言に賛同をもらっており、この動きを加速させることは自身の任務だと自負している。

筆者プロフィール

大山 聡(おおやま さとる)グロスバーグ合同会社 代表

 慶應義塾大学大学院にて管理工学を専攻し、工学修士号を取得。1985年に東京エレクトロン入社。セールスエンジニアを歴任し、1992年にデータクエスト(現ガートナー)に入社、半導体産業分析部でシニア・インダストリ・アナリストを歴任。

 1996年にBZW証券(現バークレイズ証券)に入社、証券アナリストとして日立製作所、東芝、三菱電機、NEC、富士通、ニコン、アドバンテスト、東京エレクトロン、ソニー、パナソニック、シャープ、三洋電機などの調査・分析を担当。1997年にABNアムロ証券に入社、2001年にはリーマンブラザーズ証券に入社、やはり証券アナリストとして上述企業の調査・分析を継続。1999年、2000年には産業エレクトロニクス部門の日経アナリストランキング4位にランクされた。2004年に富士通に入社、電子デバイス部門・経営戦略室・主席部長として、半導体部門の分社化などに関与した。

 2010年にアイサプライ(現IHS Markit Technology)に入社、半導体および二次電池の調査・分析を担当した。

 2017年に調査およびコンサルティングを主務とするグロスバーグ合同会社を設立、現在に至る。


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