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あの医師がエンジニアに寄せた“コロナにまつわる13の考察”世界を「数字」で回してみよう(64)番外編(12/13 ページ)

» 2020年07月23日 18時30分 公開
[江端智一EE Times Japan]

【考察13】話が広がり過ぎてまとめがないので反省してみる

 風呂敷を広げすぎました。まとめの代わりに宣伝プラスαを。

 江端さんが現在連載中のコラム*)(毎回楽しみに拝読させて頂いております)で量子コンピュータの概論が紹介されております。

*)「踊るバズワード 〜Behind the Buzzword」連載バックナンバー一覧

 この中で紹介されている量子の性質「観測するまで0か1が確定しない」というのは、実はCOVID-19(を含む病気全般)についても同じであると気が付きました。もちろん、量子力学的に正しい意味において「重ね合わせの状態」がCOVID-19で再現されるということではありません。

 しかし、ある瞬間においてCOVID-19に感染しているかどうかは個々人において0か1であるにもかかわらず、それを外から観測した場合には、「疾患確率が50%の状態」は普通にあり得るのです。

 検査陽性または検査陰性で得られる情報は、前述の通りあくまで疾患である「確率」です。

 さらには、確定診断に至るまで、「熱がある」「感染者と接触した」「抗原陰性」「PCR陰性」「熱発してからまだ半日」「クラスターに属している」「レントゲンで肺炎像なし」「味覚障害あり」「嗅覚障害なし」……などなど、情報が一つ加わるたびに条件付きの疾患確率はその都度上下します。

 臨床医は、問診や症状、理学所見や検査結果などから「えいや!」っと診断をつけますが……ご存じの通り、医師の診断は外れることがあります。結局のところ、根拠が確定に足らないような微妙な症例の診断は、確率で表現せざるを得ないのです。

 ただ、それを患者に説明するのは外来の限られた時間では不可能なため、検査結果=診断と説明しがちです。

 実際のところ、ぶっちゃけていえば、私も、江端さんも、日本中で現在熱発していない健康な状態の人でさえも、現時点で確率的に「0.01コロナ」状態です。0.01という数字はてきとうです。

 たとえ岩手県在住の人(現時点で、公式の感染者数0人)でも、人と関わりがある限りは、COVID-19の疾患確率は、低いかも知れませんが、ゼロではありません。

 だるさがあれば0.04コロナ、会社に行けば0.03コロナ、単純に熱を出せば、0.15コロナ、歓楽街を利用したら0.3コロナ、クラスターに巻き込まれて0.6コロナ、その上に発熱、呼吸苦、CTで肺炎像で0.98コロナ……と、疾患確率は変動し続けます(もちろん数字は適当です)。

 何度もしつこく繰り返してしまい申し訳ありませんが、現時点で疾患確率ゼロということは日本で普通の生活を送っている以上は、あり得ないという心構えが必要です。(岩手における未来の感染者第1号を責めるのは間違いです。その人は、ただ「最初に観測されただけ」です。)

 私は、皆さんに、「COVID-19のために人生を享受することを諦めろ」とは絶対に言いません。

 しかし、コロナ禍の最中、ホスピスで孤立しながら亡くなった人、大切な節目や大きなイベントを諦めた人の後悔、自粛によって生活基盤が奪われた人、もっと単純に、生活から楽しさを奪われた全ての人……命と直接比較するのは困難ですが、いずれも人生を破壊されたと言う意味では落命に準ずる被害をCOVID-19から受けていることになります。

 これらは、単純な行動の自粛が「社会的な解決」にはならないことを意味しています。

 ただ、皆さまにはできるだけ、これからの生活において、あなたの大切な人を守るため、誰かの大切な人を守るため、自分が感染源である可能性を常に念頭に置いて行動して頂けますようお願い申し上げます。

 1人1人が真剣にこの点を考えた末に得られる未来なら、私たちは「その未来」を受け入れることができると思うのです。

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