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高効率で狭線幅のCNT光源デバイスを実現CNTをシリコン上に直接形成

慶應義塾大学は、シリコン光集積回路上でインライン動作し、通信波長帯の光のみで駆動する「カーボンナノチューブ(CNT)光源デバイス」を開発した。

» 2020年08月20日 10時30分 公開
[馬本隆綱EE Times Japan]

光集積回路や量子暗号チップへの応用が可能に

 慶應義塾大学理工学部物理情報工学科の牧英之准教授らは2020年8月、シリコン光集積回路上でインライン動作し、通信波長帯の光のみで駆動する「カーボンナノチューブ(CNT)光源デバイス」を開発したと発表した。

 次世代半導体集積技術として、シリコンチップ上に光回路を集積する「シリコンフォトニクス」が注目されている。ところが、シリコンフォトニクスと光デバイスをチップ上で融合するには課題もあった。光デバイスで一般的に用いられる化合物半導体材料は、シリコン上に直接成長させるのが難しいことや、極低温環境でないと量子光が得られないからだ。

 そこで光デバイス用材料として注目されたのが、炭素シートを筒状に丸めた構造を持つCNTである。CNTはシリコン上に直接形成でき、通信波長帯で光を吸収したり発光したりできる。しかも、発光特性や量子物性が室温で得られるなどの特長を持つ。牧氏らの研究グループでもこれまで、CNTを用いて室温かつ通信波長帯の単一光子源を開発してきた。ただ、シリコンフォトニクスとCNTを直接結合させた光デバイスを動作させることは極めて難しいとみられていた。

 研究グループは今回、1.55μm帯で発光するCNTを、シリコンフォトニクス上に形成した発光デバイスを開発した。具体的には、幅440nmの直線シリコン導波路に対し、10μmまたは20μmのリング共振器やディスク共振器を配置したシリコンフォトニクスデバイスを作製。この共振器上部にCNTを直接形成することで実現した。

左図は開発したシリコンフォトニクス上CNT光デバイスの模式図。右図は作製した光デバイスの光学顕微鏡写真 出典:慶應義塾大学

 開発した発光デバイスを用い、励起光として波長1.3μmの光をシリコン光導波路に入射した。そうすると、共振器の共振波長を満たす励起光が、シリコン導波路を通じインラインで共振器に入る。共振器内に閉じ込められた励起光により、CNTが高効率で光励起状態となり、CNTからは1.55μm帯の通信波長帯で、増強されたフォトルミネッセンス(PL)発光が得られたという。

 CNTからのPL発光も共振器内に閉じ込められる。このうち共振波長を満たすPL発光のみがシリコン光導波路に出力され、狭線幅の通信波長帯PL発光としてチップ上からインラインで取り出すことに成功した。リング共振器を用いたデバイスは、励起光の非共振条件だとCNTからの発光は得られない。ところが、共振条件だと極めて強い狭線幅の発光を得ることができるという。

上図は共振励起時の近赤外カメラ像。下左図はリング共振器デバイスにおいて、「共振励起」「非共振励起」「共振器無し」時の、CNTからのPL発光スペクトル。下右図はディスク共振器からの狭線幅発光スペクトル 出典:慶應義塾大学

 共振器が無い通常のPL発光に比べると、今回は極めて細い線幅の発光が得られた。この他の発光実験から、共振器内のPL発光は共振器外と比べ34倍の発光となった。ディスク共振器を用いて、PL発光の測定も行った。この結果、発光線幅の指標となるQ値は5700と極めて高い値を示し、さらなる狭線幅化に成功した。

 今回の研究成果は、シリコンチップ上に光デバイスを集積できる可能性を示した。研究グループは、この技術を応用することで、量子暗号チップのような新しい量子情報デバイスの開発も可能になるとみている。

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