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» 2020年08月25日 09時30分 公開

イノベーションは日本を救うのか(36)番外編:コロナ禍を考察する 〜ベンチャー投資から日本に必要なDXまで (1/3)

今回は、最終回の前の番外編として、AZCAが以前から行ってきた働き方をご紹介するとともに、コロナがもたらすベンチャー投資への影響や、コロナが加速するであろうDX(デジタルトランスフォーメーション)について触れてみたい。

[石井正純(AZCA),EE Times Japan]

わずか半年で大きく変わった世界

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 この連載もいよいよ終わりに近づき、最終回を書こうと思っていた矢先に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発生がニュースとなり、あっという間に感染が拡大してしまった。

 2020年が始まってわずか半年の間に、世の中は大きく変わった。あらゆる分野でビジネスの仕方が見直しを迫られ、世界中の誰もが、日常生活や働き方のみならず、ワークライフバランスなども含めた“生き方そのもの”を考え始めている。さらに、筆者が住む米国では、ミネソタ州でアフリカ系米国人のジョージ・フロイド氏が殺害されたことに端を発した“BLM(Black Lives Matter)運動”やCOVID-19同様に終息が見えない米中対立など、厳しい課題に直面している。

 COVID-19によって最も大きく変わろうとしているものの一つが、“働き方”だろう。リモートワークや会議のオンライン化など、多くの企業が、これらの手段を採用できるインフラの整備を急ピッチで進めているが、実は筆者が主宰するAZCAは、既に何年も前からこうしたアプローチで仕事を行ってきた。

 そこで今回は、このような状況下の番外編として、AZCAが以前から行ってきた働き方をご紹介するとともに、コロナがもたらすベンチャー投資への影響や、コロナが加速するであろうDX(デジタルトランスフォーメーション)について触れてみたい。

ギグエコノミーを採用

 AZCAは2001年のネットバブル崩壊以降、リジッドな組織ではなく、ギグエコノミー*)ーを採用してきた。ギグエコノミーでは基本的に会社と特定のスキルや経験を持った個人との契約に基づいて、必要に応じてチームを編成しプロジェクトを遂行していく。このような形でAZCAのプロジェクトを進めていくプロフェッショナルを、AZCAでは「メンバー」と呼んでいる。

*)編集注:インターネットを通じて、単発で仕事を請け合うこと。

 社会背景により少しずつ変わりつつあるものの、まだ多くの日本企業では社員に対して副業や兼業を禁止もしくは制限する規定がある。だが、AZCAでは、メンバーはAZCAの業務とコンフリクトが無い限り、他の仕事を行っても構わない。筆者自身、AZCAの主要メンバーだが、AZCAとは別にベンチャーキャピタリストとしてVC(ベンチャーキャピタル)ファンドを運営してきている。主要メンバーの中には銀行の取締役を兼務している者や、医師として大学での研究に加え実際に患者さんの面倒を見ている者もいる。もちろん、AZCAの仕事が100%というメンバーも複数いる。

会議はオンラインが基本

 AZCAは、主に日本と北米の間で新規事業を展開しようとする企業に対して戦略立案及びその実施の面から支援する経営コンサルティング会社だ。このことから、必然的に活動は海を隔てて行うことになる。また、AZCAのオフィスは米国シリコンバレー(メンローパーク)、マサチューセッツ州ボストン(正式にはボストンの隣のケンブリッジ)、東京にあり、これらの地域以外にもロサンゼルスやサンディエゴで仕事をしているメンバーもいる。さらに、トルコのイスタンブールに長く滞在する主要メンバーや、1年のうち半分以上は中国、ロシア、ヨーロッパに滞在するメンバーもいる。筆者自身も日米往復に加え、欧州で過ごす(ワーキングバケーションも含め)日数も多い。

 こうした事情から、世界のどこにいてもAZCAの会議に参加できる環境が必要だったこともあり、社内の会議もおのずからオンラインで行うのがかなり以前から当たり前になっていた。そして海を隔てての顧客企業とも、隔週や毎週の会議をごく自然にオンラインで行ってきた。

 このようにAZCAでは、COVID-19で採用が加速したギグエコノミーやオンライン会議が、むしろ日常的だったのである(とはいえ、時差の問題はいつまでたっても、いかんともしがたいが……)。

契約書類はサインとPDF(ハンコなし、原本なし)

 AZCAは日本にも多くの顧客企業を持っているが、コンサルティング契約の契約書などは昔から可能な限り社印などを使わず、責任者の署名にて行うよう顧客企業にお願いしてきた。また、契約書の原本を取り交わすこともできるだけ避け、署名入りのPDF版で完結させるように日本の企業に依頼している。

 署名とPDFによる契約書等書類の交換は米国では当たり前だが、日本企業とのやりとりでは、原本に割り印も含め社印を要求されることも少なからずあった。それでも最近はサインとPDFでOKというところも増えてきた。日本でも、ハンコ文化から脱し、法的に効力と拘束力を持った電子サインの方式が少しずつ受け入れられるようになっているが、こうした動きはCOVID-19によってさらに加速されるだろう。

書類のほとんどはクラウド上に保管

 AZCAはコンサルティングファームという性格上、プロジェクトごとに大量の分析データや情報を扱い、それらのデータは安全な形でプロジェクトメンバーや顧客企業のプロジェクトメンバーと共有する必要がある。従って、データはセキュリティを確保し、整理した形で全てクラウド上に保管し、活用している。そして、さまざまな文書を他のプロジェクトメンバーとシェアする場合は、クラウド上に保管したファイルへのリンクを送ることで、わざわざメールに添付するようなことは避けている。これも、AZCAのメンバーや顧客企業のプロジェクトメンバーがいつでもどこからでも必要に応じてアクセスできるように配慮したものだ。

 このように、AZCAでは何年も前からリモートで仕事ができるようになっており、これまでの世界ではごく一般的だった「決まった時刻に出社」という概念とはほとんど無縁だった。

 もちろん、オンライン会議に固執しているわけではなく、フェース・ツー・フェースで会える機会があれば、喜んでそちらを選択する。人間関係が既に出来上がっている場合はそうでもないが、初対面の場合はやはり直接お会いしてお互いを知ることはとても重要だ。また、プロジェクト遂行に当たっても、フェース・ツー・フェースでのブレストやレビューに勝るものはない。“オンライン会議疲れ(バーチャルの窓枠の中に閉じ込められた形で会議を行わなくてはならないことからくるフラストレーション)”もあるが、遠距離でもほぼ同じような目的は達成できるので、AZCAとしてはコストと生産性の両面で、「これでも良いか」という感じに受け止めている。

 ということで、AZCAでは2020年3月9日からWork from Home(WFH)を始めているが、仕事の進め方に関しては全くと言って良いほど、それ以前と変わらない。

 このように、リモートワークにすっかり慣れているAZCAではあるが、顧客企業との大きな打ち合わせ、例えばプロジェクトの最終報告会を顧客企業のトップ相手に行う場合などは、これまでは全て直接の会議で行ってきた。

 だが今回初めて、そのような重要な会議もウェブで行うこととなった。去る2020年2月27日に、あるプロジェクトの最終報告会が日本で予定されていた。当然、筆者は日本に飛んでその報告会に出席する予定だったが、やはり渡航はキャンセルせざるを得ず、報告会は「Zoom」で行われた。

 顧客企業の社長、役員含め十数人の重役を相手にビデオ会議で報告するという初めての試みとなったが、結果的に非常にスムーズに進んだ。プロジェクト実施中は、顧客企業の工場や研究所への訪問・見学、顧客企業の提携先候補企業とのインタビューやデモの実施など、フェース・ツー・フェースでないと不可能あるいは困難な作業がたくさんあったが、分析結果に関する議論や戦略立案のプロセス、経営陣への提言をまとめた報告会は、リモートでも何とか可能だということが分かった。

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