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25年にトップシェアへ、SiC市場をリードする“後発・ローム”ローム パワーデバイス事業統括 伊野和英氏(1/2 ページ)

パワー半導体市場に後発として参入しながら、本格的な拡大が見込まれるSiC(炭化ケイ素)パワーデバイス市場において、先進的な研究開発を進めてきたローム。今回、同社取締役 上席執行役員CSO(最高戦略責任者)兼パワーデバイス事業統括の伊野和英氏に話を聞いた。

» 2020年08月26日 09時30分 公開
[永山準EE Times Japan]

 パワー半導体市場に後発として参入しながら、本格的な拡大が見込まれるSiC(炭化ケイ素)パワーデバイス市場において、2010年に世界初のSiC-MOSFETおよび日本初のSiCダイオード、2012年には世界初のフルSiCパワーモジュールを量産開始するなど先進的な研究開発を進めてきたローム。SiC市場が拡大するにつれ存在感を増す同社の戦略や今後の展望はどんなものか。今回、同社取締役 上席執行役員CSO(最高戦略責任者)兼パワーデバイス事業統括の伊野和英氏に話を聞いた。

車載インバーター領域の本格化がSiC市場を大きく拡大

――まず、直近の市況について振り返りをお願いします。

伊野氏 2019年度の市況については承知の通り、米中貿易摩擦の影響などから少し低迷していたところに、2020年に入り新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の問題も発生した。ロームでは中国のエアコンやPC関連、あるいはサーバ電源向けなど一部領域では当初予定よりプラスに向いているものの、売り上げ全体における比率が高い車載向けの落ち込みが大きく影響しており、今後どう戻って来るか注視している。また、中国では2019年から電気自動車(EV)関連の助成制度の内容が変化し、EVの伸びが停滞する中、コロナも加わり、販売台数や販売傾向が変化しており、その影響も懸念している。

ローム取締役 上席執行役員CSO(最高戦略責任者)兼パワーデバイス事業統括の伊野和英氏 提供:ローム

――SiC市場についての見通し、注力市場について教えてください。

伊野氏 SiC市場では2025年までに世界シェア30%を得るという目標のもと、車載と産機の2つを注力市場として全方位的に展開している。見通しについては前述の市況の影響などによって、2018年4月時点で発表した予測から2年ほどシフトした(遅れた)状況であり、SiC市場の規模は、2025年時点で1500億円程度となるだろう。

 ただ、今後特に車載インバーターの領域が大きく伸びることは間違いない。これまでSiCは太陽光発電や、車載であればオンボードチャージャーなどの領域を中心に多く用いられてきたが、そこに加わる形でインバーターの領域が立ち上がり、SiC市場が大きく拡大する主要因となるとみている。

 SiのIGBTからSiCに変更することでインバーターの効率は数ポイント上がり、同じ走行距離を実現する場合、EV全体のコストの大部分を占める電池の容量を減らすことができる。結果として、インバーターのコストが多少上がっても、全体としてはコスト減が実現できる。これは容量の大きい車両ほど効果的であり、今後、SiCのコストが下がるにつれて利用領域が広がっていくだろう。SiのIGBTと同機能、同出力を実現するSiCがコストでも勝るとまではいかないものの、電池容量削減との合わせ技によって低コスト化が可能だ。

 SiC市場について2018年の予測よりシフトしているといったが、車載インバーター領域は当時の予測と変わらず非常に有力だ。もちろんSiCの領域といえども直近ではマイナスとなっているものの、2024、2025年時点でのEV関係の市況の見立ては当時と変わっておらず、また、そのころにはCOVID-19の影響もないとみて計画を進めている。顧客を見ても2024、2025年に向けた開発案件が後ろ倒しになっているような感触はない。

 直近でも、中国の新エネルギー自動車向け駆動分野の先進企業Leadrive TechnologyとのSiC搭載車載インバーター開発用の共同研究所開設や、独コンチネンタルグループであるVitesco Technologiesと開発パートナーシップを結ぶなど積極的に取り組んでいる。

――市場の本格化に向けた、SiCデバイスの製品展開方針および研究開発状況は。

伊野氏 シェア獲得のためにはもちろん、デバイス性能で差をつけなければならない。ロームは市場に後発で参入したが、SiCの研究開発では他社に先行しており2010年にはSiC-MOSFETを世界で初めて量産開始したほか、車載向けのSiC-SBDも2012年には製品展開を開始、2015年には世界初のトレンチ構造を採用したSiC-MOSFETを量産化するなど、世の中に先んじて新しい技術を取り入れた性能の高いデバイスを提供し続けている。さらにウエハー製造を含めた垂直統合型の生産体制の強みも生き、現在のポジションを築いてきた。調査会社によって異なるが現在われわれのシェアは20〜25%とみている。

 車載市場、特にパワートレインに関しては採用までに時間が必要であり、2024、2025年にシェアを獲得するためには2020年中に商品として成り立つものをリリースしなければならない。2020年6月に発表した「1200V 第4世代SiC-MOSFET」はそのための製品という位置付けで、既にxEV関係で30社以上の新しい引き合いが来ている。第4世代SiC-MOSFETは、前世代からオン抵抗を40%低減することに成功しており、コストについてもそのままの比率ではないが大きく下げられるポテンシャルがある。オン抵抗を下げ市場で最も高性能な製品を出し続けることはSiC市場を広げる意味でも重要だ。

 既に第5世代についての開発も進んでいるが、SiのIGBTのように理論限界に近いといった段階ではなく、まだまだ改善の余地がある。次世代のSiC-MOSFETは、第4世代からさらに40%近いオン抵抗低減が実現できなければならないと考えている。一般的なステップからいって第5世代は2023〜2025年のあたりで出していくことになると思うが、新世代の投入によって、さらに市場全体を引き上げていく。その市場の伸びとともに2025年以降も世界シェア30%を1つの指標として、売上高をさらに上げていきたいと考えている。

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