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» 2020年09月15日 10時30分 公開

湯之上隆のナノフォーカス(30):「米国に売られたケンカ」は買うしかない? 絶体絶命のHuaweiに残された手段とは (1/5)

Huaweiを取り巻く状況が、ますます厳しくなっている。米国による輸出規制の厳格化により、プロセッサだけでなく、CMOSイメージセンサーやメモリ、そしてパネルまでも調達が難しくなる可能性が出てきた。Huaweiが生き残る手段はあるのだろうか。

[湯之上隆(微細加工研究所),EE Times Japan]

SMICもエンティティーリスト入りか?

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 2019年5月16日にエンティティーリスト(EL)に掲載した中国のHuaweiに対して米商務省は、2020年5月14日および9月4日の2段階で、その輸出規制を厳格化した。まず、1段階目の厳格化を受けて、TSMCは9月15日以降、Huawei向けの半導体を出荷しないことになった。

 次に、2段階目の厳格化により、HuaweiがTSMCの代わりに生産委託すると推定されるSMICのEL掲載が検討されていることが報じられ、半導体業界に衝撃が走った(関連記事:「米政府、SMICのエンティティリスト追加を検討か」)。

 また、 Samsung Electronics(以下、Samsung)とSK hynixがメモリの供給を停止することが報じられた(日経xTECH、9月14日)。この記事によれば、Samsung DisplayやLG Displayもパネルの供給を停止する模様であるという。さらに、ソニーのCMOSイメージセンサーやキオクシアのNAND型フラッシュメモリ (以下、NAND)の出荷も停止になるかもしれない。要するに、 米国製の製造装置を使って製造されている半導体やパネルの出荷が全面的に禁止される可能性が現実味を帯びてきたわけだ。

 Huaweiは、スマートフォンの出荷台数でSamsungやAppleを抜いて2020年第2四半期に世界1位になり(図1)、通信基地局の売上高シェアで2017年〜2019年に世界1位の座を占めている(図2)。しかし、TSMCに生産委託してきたプロセッサだけでなく、CMOSイメージセンサー、DRAMやNANDなどのメモリ、そしてパネルまでもが調達できなくなれば、その地位を維持するのは不可能である。

図1:スマートフォンの四半期毎企業別出荷台数(〜2020年Q2) 出典:IDCのデータを基に筆者作成(クリックで拡大)
図2:通信基地局の売上高シェア 出典:英調査会社OMDIAのデータ(クリックで拡大)

 2019年時点で19.6万人の社員(うち研究開発者9.6万人)を擁し、約1230億米ドルを売り上げた巨大ハイテク企業のHuaweiは、果たして、生き残ることができるのだろうか?

 本稿では、まず、Huaweiが米商務省のELに掲載されてから現在に至るまでの経緯を振り返る。そこで、SMICが2020年の初期に、既に米商務省によるEL掲載を恐れ、それを回避しようとしていた兆候があったことを説明する。次に、Huaweiがどのような実力を持った企業なのかを、いま一度確認する。その上で、Huaweiが生き残るためには、どのような選択肢があるかを考察する。

 筆者がたどり着いた結論は、「米国に売られた喧嘩(けんか)は買う」必要があるということであり、その“喧嘩”の手段は、世界最多を誇るPCT国際特許と次世代通信5G関連の標準必須特許(Standard Essential Patent、SEP)を活用したIP(Intellectual Property)ビジネスしかないというものである。

米商務省がHuaweiを2019年5月にEL掲載

 米商務省は、Huaweiが世界中に設置している通信基地局にバックドアを仕掛け、米国の秘密情報などを不正に入手しているとして、2019年5月16日に、HuaweiをELに掲載した(ただし、その具体的な証拠を米国政府は今に至るまで示していない。少なくとも筆者は見たことが無い)。

 その結果、Qualcomm、Broadcom、Intelなど、米国製の半導体は、Huaweiへの輸出が禁止された。また、ELに載ると、米国製でなくても、米国の知財が25%以上含まれている場合、輸出が禁止される。そのため、Android上で動くアプリ(例えばGmailなど)をHuaweiは、使うことができなくなった。

 ここで、TSMCの挙動に注目が集まった。というのは、Huaweiは、傘下のHiSiliconにスマートフォン用アプリケーションプロセッサ(AP)や5G通信基地局用半導体を設計させ、これらをTSMCに生産委託していたからだ。そして、TSMCは、Applied Matrials(AMAT)、Lam Research、KLA-Tencorなどの米国製の製造装置を使って、Huawei向け半導体を製造していたからだ。

 TSMCは、米国の弁護士事務所に徹底的な調査を行わせた結果、「25%規制には該当しない」と結論付け、Huawei向けの半導体製造の出荷を継続することにした。この背景事情として、TSMCにとってHuaweiが、Appleに次ぐビッグカスタマーであるということも影響したかもしれない。

 しかし、これを問題視した米政府は、2019年後半から、「Huaweiに限っては、米国の知財が10%以上含まれている場合、輸出を禁止する」という法案を検討していた。

2020年5月14日の第1段階の厳格化

 TSMCおよびHuaweiを巡る事態が大きく動いたのは、2020年5月14日(米国時間)である。この日、2つのビッグニュースが報じられたからだ。

【1】TSMCが120億米ドルを投じて、月産2万枚で5nmプロセスの半導体工場を米アリゾナ州に建設することを発表した。
【2】米商務省がHuaweiへの輸出規制を厳格化したことを受け、TSMCが9月15日以降、Huawei向けの半導体の出荷を停止することになった。

 TSMCは米中ハイテク戦争に巻き込まれ、両大国の綱引きにあっていた。しかし、TSMCはHuaweiを捨て、米国に付くことを選択したのである。世界の半導体産業の潮流が大きく変わった、歴史的な1日になったと言えるだろう。

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