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Intelのファブレス化を見据えている? 半導体に巨額助成する米国の本当の狙い大山聡の業界スコープ(34)(2/2 ページ)

» 2020年10月07日 11時30分 公開
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もしIntelがファブレスに向かえば……

 半導体製造に必要なウエハー処理装置の市場規模は約500億米ドルである。このうちの約半分をSamsung Electronics、TSMC、Intelの3社が買い占めているのが現状である。3社とも100億米ドルを超える設備投資を行いながら、メモリやロジックICの巨大な最先端ラインを走らせているのだ。この3社に最先端装置の需要が集中していること自体、すでに勢力分布は歪な形を形成していることになる。ここからIntelが抜けると、最先端プロセスはSamsung(韓国)のメモリ、TSMC(台湾)のロジックICにそれぞれ一極集中することが予想される。米国内には強い需要があるにも関わらず、最先端プロセスがなくなってしまうのである。

 「PC、スマホ、AV機器など、生産コストの安い地域に生産シフトしたのと同様、半導体もそれで良いのでは?」という意見もあるかもしれない。しかし、上述した米国大手ファブレス企業の顔ぶれを見ても分かるように、米国の半導体産業はもはやTSMCへの依存度が高すぎて、単に「安いから製造委託している」という状態ではない。彼らはTSMCがなければ製品を作れないのである。そして近い将来、Intelもその仲間入りをするかもしれないとなれば、事態はかなり深刻だ。

 昨今では中国が香港を完全に支配下に置いてコントロールしようとしているが、もし台湾に対しても同様の行動を取ったらどうなるだろうか。仮にTSMCの事業内容に中国政府が口を出すようになったら、どんなことが起きるだろうか。

 各種メディアの報道では、「半導体生産の海外依存を放置すれば、産業競争力の低下に加え、安全保障や軍事力にも響きかねない」「中国の台頭を警戒する米議会と政権は、半導体サプライチェーンの米国内への回帰を求める」などと説明されている。だが、ハッキリ申し上げれば、Intelのファブレス化が進むのかどうか、それと同時にTSMCの製造拠点を米国内にどこまで取り込めるか、が最大のポイントとみて良いだろう。

 これまで米国は、市場主義経済を尊重し、特定産業に巨額の補助金を投じることには慎重だった。先端技術の研究開発などに公的予算を配分してきたことはあったが、工場の建設などに補助金を直接投じるのは極めて異例のことである。しかし半導体製造における米中の覇権争いが始まった、と考えれば、これは必然的な流れと言えるかもしれない。

 今回は日本の半導体産業を飛び越えて、米中の覇権争いについて論じたことになるが、日本も決して無関係な立場ではいられないはずである。日本の政府はもはや半導体産業には強い興味を示さないかもしれない。だが、このまま放置した場合に日本の半導体産業がどのような影響を受けるのか、民間企業と連携しながら政府としてどのようなスタンスを取るべきか、せめてそれくらいは考えておく必要があるのではないだろうか。

筆者プロフィール

大山 聡(おおやま さとる)グロスバーグ合同会社 代表

 慶應義塾大学大学院にて管理工学を専攻し、工学修士号を取得。1985年に東京エレクトロン入社。セールスエンジニアを歴任し、1992年にデータクエスト(現ガートナー)に入社、半導体産業分析部でシニア・インダストリ・アナリストを歴任。

 1996年にBZW証券(現バークレイズ証券)に入社、証券アナリストとして日立製作所、東芝、三菱電機、NEC、富士通、ニコン、アドバンテスト、東京エレクトロン、ソニー、パナソニック、シャープ、三洋電機などの調査・分析を担当。1997年にABNアムロ証券に入社、2001年にはリーマンブラザーズ証券に入社、やはり証券アナリストとして上述企業の調査・分析を継続。1999年、2000年には産業エレクトロニクス部門の日経アナリストランキング4位にランクされた。2004年に富士通に入社、電子デバイス部門・経営戦略室・主席部長として、半導体部門の分社化などに関与した。

 2010年にアイサプライ(現IHS Markit Technology)に入社、半導体および二次電池の調査・分析を担当した。

 2017年に調査およびコンサルティングを主務とするグロスバーグ合同会社を設立、現在に至る。


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