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イノベーションは日本を救うのかイノベーションは日本を救うのか(最終回)(1/4 ページ)

長く続いてきた本連載も、いよいよ最終回を迎えた。連載名でもある「イノベーションは日本を救うのか」という問いへの答えを出してみたい。

» 2020年11月10日 11時30分 公開
[石井正純(AZCA)EE Times Japan]
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 さていよいよこの連載も最終回となった。この連載の第1回から常に「イノベーションは日本を救うのか」という命題を頭に置きながら連載を重ねてきたわけだが、今回はいよいよ、その質問に答える時が来た。

 結論から言おう。

 答えは「YES」だ。

 なぜ「YES」だと言い切れるのか――。その理由と、「YES」という答えが今後の日本にどのように役に立つのか、どうしたら役に立つのかを議論していきたい。だが、この議論はYESと答えて終わりではない。イノベーションの一人歩きではなく、イノベーションが真に今後の日本の成長を後押しし、日本人の価値観を満たしていくためには、イノベーションをどう使うか、イノベーションとどう付き合うべきか、YESの答えを真の意味でYESにするためにはどうしたら良いのかを考えることがどうしても必要になる。こういった議論をして、この完結編を閉じたいと思う。

少子高齢化、人口減少の中での経済成長

 日本の総人口は2004年12月に1億2784万人のピークを迎えたが、その後、2050年には9515万人となり、約3300万人(約25.5%)減少。高齢人口が約1,200万人増加するのに対し、生産年齢人口は約3500万人、若年人口は約900万人減少。その結果、高齢化率は約20%から約40%に上昇、と予測されている(総務省)。日本は未曽有の少子高齢化、人口減少の時代を既に迎えているのである。

 日本の1人当たり名目GDPは、高度経済成長期を経て、1990年代には国際的にも高い水準になり、2000年にはOECD加盟国中2位(米ドル換算値)となった。しかしその後は、日本経済の停滞に伴い順位は低下していく。2010年には18位に、2018年にはシンガポールの8位、香港の17位に後れを取り、26位に落ち込んだ。今や28位の韓国に追い付かれそうだ(図1)。現状のまま推移した場合には、日本が世界の中で「豊かな国」としての地位を保っていくことは徐々に難しくなっていくことが想定される。

図1:各国の1人当たり名目GDPランキング推移 出典:IMF - World Economic Outlook Database(クリックで拡大)

 標準的な経済成長理論によれば、「国民1人当たり実質GDP*)」の成長率は、技術進歩率および資本深化(1人当たりの資本が蓄積されること)のスピードに依存する。これは、働く人たちに備わる技術が高まれば、それは1人当たり実質GDPを押し上げることにつながるという意味だ。加えて、1人当たりに備わる資本が増えるほど、それを活用して多くの財を生産することが可能となる。

*)実質GDPは名目GDPから物価変動による影響を差し引いたもの。

 言い換えれば、新しい製品やソリューション、サービスはイノベーションによって生み出され、それらを実際に使う(使われなければ意味がないのだ)ことが、GDPを押し上げるのだ。専門的な議論は他に譲ることにして、大筋はこのような話になる。

 従って、今後日本が経済的な豊かさを維持していくためには、イノベーションを推し進めることが重要になる。それが、今後の日本の経済成長を支える大きな原動力になる。その意味で「イノベーションが日本を救う」のは間違いない。

 この連載を通して筆者は、日本でも世界に問える多くの研究成果が大学や研究機関から出て来ていること、世界に問える技術開発をしているベンチャー企業が以前に比べより多く生まれていることを述べてきた。

 古い歴史を持ち、風光明媚な場所も多い日本では、ソフトパワーを発揮して観光立国を目指すという考え方もある。もちろん筆者は大賛成だが、やはり、日本にある資源といえば、イノベーションのモト、人間の知恵ではないだろうか。この知恵を大いに活用し、日本は「イノベーション立国」も目指すべきと考える

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